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2004/07/31

日欧の競り合いで、立ち往生の核融合炉計画

 膨大な資金がかかる核融合装置を国際協力で作ろうというITER計画が、どこに装置を建設するかで結論が出ずに立ち往生している。日本はがんばりすぎである。そろそろ矛の収めどきではないか。巨大投資が科学技術分野全般にもたらすひずみも心配だ。

 核融合は、遠い将来のエネルギー源として期待され、研究が進められてきた。原理的可能性は見通しがついているが、現実的な可能性となると、装置を作って実証してみなければ分からない。それには非常に大型で、技術的に高度な装置が必要となる。とても一つの国の科学技術予算ではまかないきれない。それが分かったのが十数年前である。各国が協力して、世界に一つだけ大型装置を作りましょう、という協力体制ができた。装置はITERと呼ばれる。「国際核融合実験炉」である。設計が進められた。設計はできたのだが建設費を見積もると、1兆円くらいかかりそうだ、ということになった。これでは各国が分担してもとても実現可能ではない。このあたりでアメリカが降りた。アメリカの科学技術評価者たちは、核融合の実現可能性について、とても厳しい。「核融合研究者は嘘つきだ」とまでいわれたという。すぐに実現できそうな夢を売りすぎたのだろう。

 設計の見直しをして、できるだけ建設費を切り下げた結果、5千億円まで下がった。今度は、どこに作るか、でもめた。建設地に選ばれた国は建設費の半分を負担することで、候補地が絞られ、結局、日本(青森県六ヶ所村)か、EU(フランス、カダラッシュ)のどちらか、ということになった。日本は建設費の半分に積み増しして、さらに570億円を出すと誘いをかけた。ヨーロッパ側も同額出すと応じて勝負がつかないまま、決定のタイムリミットを迎えている。

 ヨーロッパについているのが、ロシアと中国、日本を支持しているのが、アメリカと韓国である。イラク戦争の支持・不支持の色分けがそのままでている。アメリカはこの計画からいったん降りたが、その後復帰している。しかし大きな資金負担はしないですむ協力国の立場に徹している。

 なぜ日本がそんなにがんばるのか。六ヶ所村工業団地の空き地を抱えて、莫大な借金を払いつづけている国と経済界の事情、装置建設による大きな投資を期待している産業界の後押し、などがあるのだろう。日本で建設すれば、その後の技術で優位に立てるという論もあるが、核融合の実用化は、はるか先だろう。ITERの先は見えていない。

 金がかかるのは、建設費だけではない。建設に10年、運転・研究に20年、トータルすると1兆3000億円かかるという。そのどれだけを日本が負担することになるのか。半分程度になるだろう。これは日本の科学技術予算に、長年にわたる過重な負担とひずみを強いることになろう。核融合にそれだけの資金を投じるということは、その資金が回ることによって育つであろう他科学技術分野の研究を抑制することになる。

 朝日新聞の社説「核融合炉――いたずらに張り合うな」が主張するように、ここらあたりで日本は引き下がるのが順当な決断だろう。

 アメリカでは、ITERの結論の出方次第では、小型の独自装置を作る計画がある。その計画を決めるタイムリミットがこの7月となっており、宙ぶらりんに困り果てているようだ(New Scientist:"US to halt nuclear fusion project")

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コメント

ご無沙汰をしております。相変わらず切れのいい文章で、私のような素人にもよく理解できます。
核融合は夢のクリーンエネルギーと言われていますが、いき詰まっている原子力問題、特に原子力に関わる技術者と企業の飯の種を作るのが本音と言ったら言いすぎでしょうか?真意の程はわかりませんが、ご指摘のように、問題は、この投資によって、その他のエネルギー開発、例えば自然エネルギーやコージェネレーションシステムなど、地球環境に影響が小さいエネルギー開発予算が吸い取られてしまう懸念があります。一度進みだした原子力政策は国として切って捨てるわけにはいかず、企業や原子力に関わる技術者を守るという本音を覆う鎧が核融合炉開発に隠されているとすれば、日本のエネルギー政策にとって不幸といわねばなりません。時間はかかるかもしれませんが原子力関連の技術者や企業は一部を残して別の分野に振り向ける工夫はないものでしょうか?
 国は苦肉の策として核融合を選んだのかもしれませんが、リスクを抱えた問題のように見えます。

投稿: 魔法使い | 2004/08/10 15:15

コメントありがとうございます。原子力分野での国・電力とメーカーとのもたれ合い関係は、土建行政の小型版というところがありますね。しかし原子力での新規投資はとうに細っていて、大部分のメーカーでは技術者の配置換えはすんでいるでしょう。それゆえに技術の継承者がいなくなるという心配な面もあります。美浜で事故がありましたが、そのうちに原子力の現状を維持する技術能力が、国・地方自治体、電力、メーカーそして第3者的な研究機関に残るか、という問題も出てくることでしょう。

投稿: アク | 2004/08/10 17:19

これまで原子力に関わっていた技術者の主力は今、どこに関わっているのでしょうか?
それと、原子力に関する技術を維持していくことの必要性はどのあたりにあるのでしょうか?そうした技術を維持していくことに関わる技術者の心というかプライドはどういった形で保たれるとお考えですか?

投稿: 魔法使い | 2004/08/10 22:11

 メーカーの内部までは知りません、しかし企業は人を遊ばせておけませんから、事業の先行きを見て、どんどん配置換えをしていきます。原子力を専門に学んで就職した人たちが、IT関連の部門で働いているなどということがあるのでしょう。原子力発電は現状維持程度にはずっと続くでしょう。技術者も必要です。しかし若くて優秀な人材が原子力技術を専攻しようとしなくなっています。もうずいぶん前からそうです。しかし現状を維持し、老朽化に対応する技術者は必要で、それなりにやりがいもあることでしょう。原子力発電所は非常に複雑なシステムです。その隅々までを知り、かつ全体を一つの生き物のように総括的に把握している、そんな人が必要なのです。そういう人が少なくなり、マニュアル人間が増えているらしいことが心配です。今度の美浜の事故も、そんな現状の一端が露呈したと、私は見ています。

投稿: アク | 2004/08/11 09:56

私は民間の土木技術者ですが、こちらの世界でも、ストックした道路や橋梁などの社会資本を、今後どのように維持管理していくかが、公に議論されています。原子力発電の維持管理は、大事故が起これば、道路や、橋梁とは比較にならない大きな被害になるでしょうから、公に議論し、維持管理業務を、もっと日の当る場所にして、これにたずさわる人を評価するシステムがいるのではないでしょうか?
 原子力発電の維持管理はほとんど下請け任せのようですので、安全管理に関する電力会社のリスクマネジメントを再構築してもらわないと、国民の不信感は払拭できないと思います。
 リスクはない、安全だと言い張ってきた手前、いまさらリスクが有ると認めることは出来ないと考えているのかもしれませんが、感情的な一時の反発も受けて立つ、それが、責任者ではないか、と書生のようなことを考えてしまいます。

投稿: 魔法使い | 2004/08/11 10:19

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