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2004/08/01

文化資本の偏在と逆説をいう内田樹

 幼少時から文化的レベルの高い家庭に育った子が、文化(芸術や文学など)のセンスを身につけて育つ。もって育ったものは成人して何者かになっていく過程で価値を生み出す。こうして親から子へと受け継がれるものを文化資本と呼ぶらしい。この文化資本を持つ人と持たない人との2極分化が、現在の日本で進んでいて、新しい階層社会を生み出しつつある。『街場の現代思想』(NTT出版、2004年7月)という目をひくタイトルの本で、内田樹が書いていることである。

 文化資本は親から受け継ぐだけではなく、学校などで学ぶことによって習得できる。しかし、「家庭で自然と身についた文化資本」と、「学校で努力して身につけた文化資本」とではありようがまるで違う。これは「文化資本」という概念を使いはじめたフランスの社会学者ピエール・プルデューのいっていることだそうだ。

 日本が均質社会で、教育や職業選択の面で機会平等が実現されているようでいて、実はずいぶん前から、ひどく不平等な傾向を見せていることは、みんなが気づいている。たとえば、高学歴高収入の親の子が東大入学者に多いというようなことである。ところが東大入学者の中でも、親から豊かな文化資本を受け継いで、ゆとりを持って育ってきた若者と、ひたすら塾通いで受験勉強をしてきたが、成績以外取り柄のない若者との2極分化が進んでいるのだという。

 「血統による文化貴族」と「学校による文化貴族」と、さらにそれ以外という具合に、フランス同様の階層社会が姿を見せ始めている。それは社会的に流動性を欠く社会である。さて、この認識がいいとして、その先で内田がいっていることは苦しい。そんな階層社会はいやだ。何とかそんな社会が来ないようにしたい。じゃあ、みんなでプチブルならぬ「プチ文化資本家」になろうよ、と呼びかける。ところが文化資本の大衆化自体に矛盾があることを内田は知っている。

 文化資本が生来のものであって、それを獲得しようとすること自体が、非文化的であるという矛盾。多少なりと文化資本を習得した「成り上がり文化貴族」は、自分ほどは獲得できなかった低位の人を見下し、階層社会を助長してしまう矛盾。文化資本による階層社会が問題だという人に限って、すでに文化資本で優位に立っているという矛盾。あるいは文化資本を獲得しようとする中で、真の文化に触れ、文化を資本として獲得し利用しようという発想そのものがおかしいと気づいてしまう矛盾。

 文化資本は偏在しているとともに、それを均等化しようとすること自体がパラドックスなのだと、内田はいっている。いったんは掲げた一億総プチ文化資本家のゴールは無理らしいのである。となると、いったいどうなるのか。

世の中そういうものなのである。
長く生きているとみなさんもいずれ分かります。

というのが、内田が、文化資本をあつかった章の結びの言葉である。

 「街場の現代思想」という書名に好奇心をそそられてはじめて読んでみた内田樹(『「おじさん」的思考』はちょっと気にしたことはあったが未読)、なかなか面白い。ちょっと型破りの表現と視角が、かしこまった思想ものとは違う。読みやすいのも道理、ほとんどが自分のホームページに書いたものと読者とのやりとりを材料にしている。「越すに越されぬバカの壁」とか、「勝った負けたと騒ぐじゃないよ」などの章節のタイトルからして、ざっくばらんな言説の調子が分かろう。あちこちに挟まれている

だって、そうでしょ。

の表現で、論拠を省略し、一気に天の声みたいな結論が下されるところは、最近はやりの某氏の表現を借りたのか、それともパロディなのだろうか。いずれにせよ、某氏の本よりよほど推奨できる。

なお、ここで紹介した文化資本については「教養の道」の、はら先生も『社会階層と「ピアノ」の象徴性』(04/7/12)で取り上げておられる。そこでは、ピアノを習っていることがかつては豊かに文化資本を継承する家庭に育ったという象徴だった、と例示されている。

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