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2004/08/19

蜷川演出のシェークスピア劇「お気に召すまま」

 蜷川幸雄演出の演劇を一度なまの舞台で観ると、出演者のを意のままに動かし、何か奇抜な仕掛けもして、原作のもともと持っていたもの以上を引き出して見せてくれる、この人の演出力の虜になる。これまでの蜷川演劇の常連でない若手を使っての新演出は、どう見せてくれるか特に興味をそそられる。炎熱ともいえるカンカン照りのアスファルトの道を歩いて観に行ったのは、さいたま芸術劇場でのシェークスピアの喜劇「お気に召すまま」である。

 この彩の国シェークスピア・シリーズは、この劇場が企画して初演したものが、日本の他の場所で、あるいは外国にまで出かけて上演されることになるという定型ができあがってしまったシリーズである。今回の「お気に召すまま」もきっとそんなことになるだろう。ここでは8月6日にはじまり、21日(土)で千秋楽となる。若い出演者が慣れて油ののってきた時期の週日昼の公演をねらって、チケットを入手した。会員になっているので一般売り出しより早めに、抽選だがいい席が手に入る。今回も前から4番目という申し分ないいい席で、間近に役者の表情の細部までを観ることができた。

 今回の「お気に召すまま」は、恋愛喜劇だが、女役を含めて全部男性が演じるのが特徴だ。シェークスピアの時代はそうだったのだという。それを踏襲してというが、蜷川がそれをしてみたかったというのが、見え見えの趣向であった。主役の女役がひねている。女性であるけれども、ストーリーの進行のなかで、始めと終わりをのぞく劇の大半の部分で、男に身を装っているという役である。その役を男性がやる、だから役者としては、二重にひっくり返っている。男の俳優が、男性に扮している女性の役をやるのである。ここが難しい。

 その難役に取り組んだのが若手の成宮寛貴(なりみやひろき)。テレビ・ドラマ「オレンジデイズ」で脇役を演じていたのも見たことがあるが、主役の妻夫木や柴崎コウらの存在感に比べて、今時の若者風俗を代表しているような役割で軽っぽい印象を持っていた。2週間ほど前のテレビ番組「情熱大陸」で、蜷川にさんざんしごかれて、悩み抜いて役作りに取り組んでいる彼の姿を放映していた。蜷川が主役に抜擢するからには、それなりの見所があるのだろう。この若者をどういう風に、この難役に取り組ませるか、興味のあるところだった。

 さて、その成宮の演じぶりは? 私にはこう見えた。若いのに難役をよくこなしていた面は十分分かるのだが、それは一生懸命取り組んでここまでという程度。今時の女の子に受けそうな容貌は別にして、蜷川が目を付けるほどの才能がどこにあるのか、私には分からなかった。

 それよりほかの若手、相手役の小栗旬はそのままで凛々しく、脇役の女性を演じた月川勇気の憂い顔の妖しいまでの魅力がまさっていたし、それ以外のベテラン助演陣が、シェークスピア劇らしい脇のストーリーでがんばって楽しませてくれた。

 3時間半にもおよび、おまけのお楽しみの部分がてんこ盛りされている劇を見ると、シェークスピアの頃の演劇の役割とか、それを見に来て楽しむ人々がなにを求めていたかが、何となく分かる気がする。時間の感覚もゆったりしていたのだろう。主なストーリー展開だけでなく、庶民的な楽しみをあちこちに盛ってあることで、観客に受けたのだろう。それを想像しながら、こんな部分は余分だな、などと思わずに、私たちも同じ気分になって楽しむのがいいのだろう。蜷川は、それを現代風に受ける風俗的なものに置き換えて、ギョッとさせたり、にんまりさせたりして見せてくれる。さすがだと思う。

 週日の昼の公演のせいだとは思うが、8割方は若い女性(ほとんどが主役の若手男優目当てか)。残りのほとんどが中年以上の女性(蜷川ファンだろう)。百人に一人が老年の男性。そんな構成の観客が、全員男性が演じる演劇を見るという、考えてみればいささか奇妙な雰囲気の観劇であった。しかし演じる俳優たちが、観客と今の時間を共有し、観るものに精一杯訴え、楽しませようとする生の舞台のすばらしさを十分に堪能してきた。

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» お気に召すまま@彩の国さいたま芸術劇場 [こんなんでもいい?]
2004/08/10◇彩の国さいたま芸術劇場◇とっても良い劇場。こんな場所(失礼 [続きを読む]

受信: 2004/09/29 00:58

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