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2004/09/29

113番元素の合成のニュース

 理化学研究所が新しい超重元素を創り出すことに成功したとの報道(朝日新聞04/9/29理化学研究所が新元素発見 名前は「リケニウム」?)には、おめでとうをいいたい。実験の詳細や、その背景などは、理研のHPの該当ページにに詳しく記載されている。

 自然に存在する元素は92番のウランが原子番号(原子核に含まれる陽子数)のいちばん大きな元素である。さらに重い元素を創り出すことは、原爆開発の副産物として盛んに行われた。作られた元素が原子力やアイソトープ利用などに役立つと考えられたからである。重元素の名前や発見の由来などを知るには、たとえばロスアラモス研究所の元素周期律表を見るといい。

 その後、学問的な興味と新元素創出の先陣争いの両面から競争が行われた。特にドイツとロシアが熱心だった。元素は原子番号が大きくなるほど不安定になる。原子核を水滴に例えれば、小さな水滴は安定だが、大きくなるにしたがって、一つの水滴として安定に存在できなくなる、それと同じ理屈で重い原子核は、二つに割れたり、アルファ線を出したりして崩壊してしまう。ところが、重くても、ある原子番号と原子量の原子核は、ある程度安定に存在できるとの説がある。原子番号114がその候補として予想されていた。これについては、日経サイエンス2000年5月号にある「超重元素の”離れ小島”を探す」が詳しく書いている。

 112番まではドイツの研究所が見つけてしまった。114番は公認されているのかどうか明らかでないが、ロシアの研究所が1998年に見つけたと報告している。今回の理研はその狭間でまだ確認に至っていない113番をねらったものだ。この発見が公認され、元素の命名が許されるには、国際的な学会機構のお墨付きが必要で、それまでにはまだ時間がかかるだろう。今のところ110番までは認められているが、上記の112も114もまだ公認されていないようだ。

 それにしても、この研究の規模には驚かされる。実験には重イオン用線形加速器が使われ、30番元素の亜鉛(原子量70)のイオンを加速して、83番元素のビスマス(原子量209)にぶっつける。その照射実験を80日間続け、その間、やっと一つの113番元素ができたことが確認できたのだという。実験設備の準備、加速器の運転や実験、反応の解析など、多数の研究者が参加したことだろう。それで、一個。確認のために、さらに実験を続けるという。半年か一年程度の実験になるのだろう。根気のいる仕事だ。

 それで何に役立つのか。学問的には原子核物理学の知見が進むのだろう。特に先に紹介した114番あたりに安定した”離れ小島”があるかどうかは、原子核の殻モデルでの魔法数に関連し、予言を確認できるかどうか興味があるのだろう。しかし、それ以上何かに役立つか、というと、それはないだろう。エヴェレスト登山や天体観測などの先陣争いと似たようなものといっていいだろう。基礎科学というのはそういうものだ。

 なお、この発見については多くのブロッガーが書いている。たとえば大学への基礎数学-雑記帳の04/0/29のエントリ新元素発見−ニッポニウムの無念を晴らせるか。この発見の意義についてさまざまな人が書き込んでいて、面白いのはslashdotのこのニュースへのコメント・スレッドである。

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