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2004/09/25

Blogosphere、ブロッガーが創った言論空間

 大統領選を間近に控えたアメリカの言論界で、ブロッガーが活躍している。最近起きたある事件でのブロッガーの活躍が、大マスコミにいるジャーナリストたちを震え上がらせた。CBSテレビのスター的なキャスターが、ブッシュ大統領の軍歴問題で偽情報をもっともらしく報じた。偽物であることを、直ちにブロッガーに暴かれ、番組を降りるに至った。この事件については、日本語のブログでも、極東ブログ米国ブログが既存ジャーナリズムを叩き潰した(04/9/21)むなぐるま(アメリカ在住の人文系研究者による日常観察・オピニオン系blog)メモ疑惑:日米ジャーナリストの反応(04/9/23)ほかのエントリなどがいち早く取り上げている。新聞では、産経新聞(04/9/23)古森義久「米大統領の軍歴 CBS誤報 政治偏向の暴走/ブッシュ氏思わぬ“贈り物”」が扱っただけのようだ。

 アメリカの言論界では、既成マスコミに加えて、ブロッガーが創り出す言論空間(Blogosphereという名称が付けられている)が侮りがたい位置づけを獲得したようだ。日本ではまだまだだと思うが、プロ野球のスト問題で、読売新聞の社説に対する批判が、じつに多くのブロッガーからあげられたことを見ると、日本にもブロゴスフェアが育ちつつあるように思う。

 最新刊の”TIME”誌9月27日号で、Andrew Sullivan が、ブログの役割についてコラムを書いている。それを読んでみよう。『一人のブロッガーの信条』というタイトルだ。Sullivan 氏は、かつて New Republic の主筆であったが、現在は自分のブログandrewsullivan.comを中心に活躍している。

 CBSのキャスターを引きずり降ろしたのは、自宅にいてパジャマ姿でノートパソコンのキーをたたく "pajamahadeen" (イスラム世界の戦士、ムジャヒディーンのもじり)と、誰かが名付けたブロッガーたちだと書いた後で、このように書いている。

 これはメディアの革命なのだろうか。ある意味では確かにそうだ。インターネットはジャーナリズムに革命をもたらした。メディアの世界に参入するのにほとんど費用がかからない。かつては簡単な雑誌や新聞を創刊するには、ちょっとした資産が必要だった。今では、ノートパソコンとモデムがあれば、同じことができる。
 10年前、私は "New Republic" の編集者で、10万人の読者を持っていたが、この雑誌は金食い虫だった。ブログを立ち上げて4年たった今、一日10万人の人がブログを読みに来てくれる。1セントも金を使っていない。(donationをしてくれる人がいて)なんとか生計をたてる程度のお金を稼げている。誰も人を使わなくてやっていける。インターネットの技術がそれを可能にしたのだ。これはすごいことだが、大部分の人はこの革命にまだ気がつかないでいる。

 これはSullivanほどの実績のある人だからこそ、できたのだろうが、何人かのブロッガーは、個人で新聞や雑誌に相当する言論活動をしている。

 ブログのもたらしたメディア革命は、そんなことだけでなく、実際に政治を動かした事例をいくつもあげている。トレント・ロットが、人種差別発言を糾弾されて米連邦議会上院の共和党院内総務を辞任した件、NYTimesの編集局長が重用した記者の誤筆事件で辞任した件、イギリスのブレア首相がイラクの大量破壊兵器問題で追いつめられた件など、いずれもブロッガーの言論が重要な役割を演じたことを指摘している。

 ブロッガーへの批判として、彼らは素人で、ジャーナリストに必要なプロ意識がない、と言われることについて面白ことをいっている。

 ジャーナリズムの小汚い秘密を暴露すると、実はプロ性(職業人としてのスキルとか意識)なんて全くいらないのだ。ある種の職工になればいいのであって、それに必要なのは電話と良心だけ。あとはやりながら巧くなっていくものだ。

と書き、例としてテネシー大学の法律教授がブログをはじめて、ひたすら書き続けることで、読者の信用を勝ち得て、今や既成の雑誌の読者を奪うほどであることをあげている。

 ブログは、個人がやっているから間違いを犯すだろうという点について、

 ブロゴスフェアのすばらしいところは、もし間違ったことを書くと、すぐに誰かがそれを教えてくれることだ。すぐに訂正しないと、また別の誰かが教えてくれる。・・・批判を無視し続けると、そのブログは信用を失い、誰も読みに来なくなる。もっとも純粋な意味での市場原理が働いているのだ。

 今回のCBS事件にも触れて、ブロッガーの集団としての力強さを指摘している。CBSにもものの分かる人が何人もいたのにもかかわらず見のがされた偽造文書の痕跡を、まずブロッグの読者が発見し、それをブロッガーが書き、多くのブロッガーが騒ぎ出す、という経過だったという。数時間のうちに何百というブログが騒ぎ出した。そのエネルギーはどこからくるか。

 一部のブログは党派の利害にあおられ、偏った動きをする。ブロゴスフェアは道義的に純粋ではない。しかし、結果としては、事実がとても効果的に迅速に洗い出される。それはとても古いメディアの及ぶところではない。集団的な(collective) マインドが、誤りを修正するように(corrective)働くのだ。

 最後にこれまでのメディアとブログの関係を論じている。

 それじゃあ、もう古いメディアはなくなってしまうのか。そんなことではない。ブログは大メディアの提供する時事報道資源に依存している。それをもとにレポートしたり、分析したりするのがブログだ。メディアの最も厳しい監視役になったり、プロがプロらしく仕事をしているかをチェックしたり、新しい声、新しい見方、新しい事実を付け加えたりする。それを分刻みでやるのだ。ブロッガーの中にすごい奴がいるのではない。彼らが創り出した透明性のあるシステムがすごいのだ。分極化した議論が行われている現在、これ以外に真実を見つける道はないといえよう。
 

 Sullivan氏のコラムをほぼ全文に近く紹介したが、同じような趣旨をのべているのが、前記のブログ「むなぐるま」で知った、asahi.com(04/9/18)に掲載されているブロガーはメディアの真実追求の鍵 By Dan Gillmor(Mercury News Technology Columnist)である。そこでは、ジャーナリストの立場から、「ジャーナリストは、他者に対して透明性を高めることを要求してきた。我々の仕事を公の場で分析する多くの人々の能力、それもほぼリアルタイムで行う能力のおかげで、今度は他者が我々に対してより多くを要求している。我々もそれに慣れていかなければならない。」と述べられている。

【04/9/27追記】
このエントリを書いたあと、深夜のNewsが、Andrew Sullivan を引用して書いておられるエントリ:CBS騒動はパジャマを着た人々の時代の始まりかを知った。CBSの誤報事件の経緯を詳細に分析し、その中でのブロッガーの関わりも報じ、最後にSullivanの論説も引用しておれられる。既成マスコミの権威に対し、Blogosphereが参入した現在の状況を以下のように書いておられるのは当たっている。

 僕たちは、これまで情報や知識の信憑性は、その情報や知識の出所の権威によって判断してきた。だから、そのへんの名もない庶民の一人の言うことよりも、権威ある大手メディアや権威ある有名大学の先生が言うことを信じてきた。それがようやく、情報や知識の信憑性は、その情報や知識の出所の権威ではなく、その情報や知識それ自体の論理的確からしさに依存するようになってきたのだ。

 CBS事件の続報としては、Political Animal の04/9/25のエントリ"CBS bends over"によると、CBSはブッシュの軍歴についての新情報報道を完全に撤回し、大統領選を目前にして、このような報道をしたことは不適切であったと謝罪した。今後の処置としては、ブッシュ大統領に関するネガティブな話題は、たとえそれが真実であっても、いっさい報道しない、としたようだ。

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コメント

TBありがとうございました。
「深夜のNews」の真魚です。

"The blogosphere"という言葉は非常におもしろいと僕も思います。"cyber space"でもなく、"the Net"でもなく、"biosphere"を連想させます。生活空間的感覚があって、ブログにはぴったりだと思います。"The blogosphere"が""The collective mind"を形成し、それが
"The collective mind also turns out to be a corrective one."するというAndrew Sullivanの指摘はたいへん興味深いものがあります。

日本の場合は「2ちゃんねる」に見られるように、みょーに保守的方向へ偏るのが現状ですが、ブログ人口が増えることによって変わると思います。

投稿: 真魚 | 2004/09/27 01:20

コメントありがとうございました。追記を書いて、真魚さんのエントリを紹介いたしました。共通の問題意識にたっておられるのを力強く感じています。今後もよろしく。

投稿: アク | 2004/09/27 10:17

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