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2004/09/19

オサマ・ビンラディン側から見たら

 01年9月11日を境にして、世界は変わった。それから3年。この間の経緯を、国際テロ組織アルカイダの指導者オサマ・ビンラディンから見たら、どうだったのだろうか。彼の世界戦略からすると、望外の大成功だった。しかもそのために誰より手助けしたのが、ブッシュ大統領だった。

 そんな結論を導いているのがミシガン大学の中東史の教授 Juan Cole である。彼のブログ(Informed Comment)を紹介してくれたのが、いつも読みに行く Political Animal9/11のエントリでだった。以下これを抄訳しながら紹介してみる。

 ビンラディンはいったい何をしようとしているのか。全イスラム圏を統合する一つの国を造ることである、と Cole 教授は想像する。かつてイスラムは統一した国であった。それが西欧列強の植民地政策のもと、次々に分断され、西欧強国の植民地とされてしまった。フランスのアルジェリア、英国のエジプトやイラク、ロシアの中央アジアなどがその例である。植民地支配は残酷無比なものだった。イスラム性を弱められ、西欧化を押しつけられた。

 植民地化よりもっとひどいのは、イギリス主導でパレスチナの地にユダヤ人を招き入れ、イスラエルを建国させたことだった。

 アルカイダの観点からすると、アフガニスタンへのソ連の侵攻を阻止し、退却させたことが時代の転換点だった。それは、長く続いた西欧によるイスラム国支配をやめさせ、イスラムの土地をイスラム教徒が取り戻す反撃の開始であった。ゲリラ戦が有効であることを彼らは知った。

 しかし依然としてイスラムの国々は、西側に都合のいい支配者のもと、小国に別けられ、弱体化されたままである。イスラムの人々の手でイスラムの統一国家を造る、その目標からすると、もっとも邪魔な敵はアメリカである。サウジにはアメリカが駐在している。パレスチナの占拠者イスラエルを後押ししているのはアメリカである。特にビンラディンにとって許し難いのは、イスラム教徒にとっての聖地メッカ、メディナ、エルサレムが侵されていることである。

 アルカイダは、一つ一つの国の政権を転覆させ、真のイスラム国にし、だんだん大きな統一国にまとめていこうとの戦略で動いている。エジプト政権の転覆を何度かテロリストが試みたが成功しなかった。それは後ろにアメリカがいるからだ、と彼らは考えた。イスラエルの後ろにも、サウジの王家の後ろにもアメリカがいる。

 そこで、ザワヒリ(アルカイダのナンバー2、戦略指導者)が考えたのは、遠くにいる真の敵を一撃することだった。3年前の 9/11、この戦略にもとづく世界貿易センター(WTC)やペンタゴンへの攻撃が行われた。かつて日本がアメリカとの開戦にあたり真珠湾を奇襲することで、その後の太平洋での戦争を有利に展開しようとした戦略に学んだものだった。まずアメリカを直接攻撃することにより、イスラム統一国家樹立の戦いの端緒を開こうとしたのだ。

 アクカイダが狙っているのは、各地のイスラムの人々にアメリカに勝てることを示すこと、アメリカを地域から追い出して、イスラムの超大国を作ろうという熱意を喚起することである。植民地化の後遺症のため、各地は弱小な世俗的(イスラム法支配ではない)な国々に分けられてしまっている。イスラムの大多数の人々は、現状が当たり前と納得してしまっている。ビンラディンは、代替案としてイスラム超大国が可能であることを、実例で示して皆を説得しようとした。

 ビンラディンはアメリカを脅せば、中東から手を引くだろうと期待していた。しかし9/11への報復として攻勢に転じてくることも十分予測していた。その場合の代案も用意していた。アフガニスタンで、アメリカをゲリラとの消耗戦に引きずり込むことだ。それはソ連とやってうまくいったことだ。

 ところがアメリカは、アフガニスタンでは、北部同盟などのアフガニスタン人の協力者を使い、自分らはほとんど地上軍を投入せず、空軍力を使うという作戦で、タリバンとアルカイダを追い出してしまった。アルカイダの思惑通りにはいかなかった。

 皮肉なことに、ブッシュ政権は大した理由もなしにイラクに侵攻してしまい、せっかくアフガニスタンでは避けていた消耗ゲリラ戦に直面することになってしまった。

 その結果、アルカイダは彼らの主要目標の多くを達成した。アメリカはイスラムの国土を侵略する野心持っていること、イスラムの人々を憎んでいること、イスラムの女性をレイプすることなどを、イスラムの人々に信じ込ませようとしていた。ブッシュ政権のイラクへの侵略、アブグレイブ刑務所での拷問が明るみに出たことなどで、イスラムの人々は、たしかにビンラディンの言っていたとおりであること、ビンラディンこそイスラム人の知恵であることを確信することとなった。

 イラク戦が始まってからというもの、トルコみたいにイスラム教が世俗化している国ですら、ブッシュよりビンラディンの方が人気を得ていった。これは考えられない逆転現象だった。トルコでは最初はそうではなかった。しかしアメリカのやり方への反発から、どんどんそのようになっていったのである。

 最近の朝日新聞(04/9/11、特集記事「9/11から3年」)は、米国に対するアラブ諸国の好感度の変化の世論調査結果を載せている。米世論調査会社ゾグビー・インターナショナルによるものだ。米国を好ましく思うか、思わないかの割合を02年と04年で比べている。これによると、

モロッコでは、好:38%、嫌:61%が、11%、88%へ。
サウジアラビアでは、12、87 から、4,94 へ。
ヨルダンでは、34、61 から、16、78 へ。
レバノンでは、26、70 から、20、69 へ。
エジプトでは、15、76 から、2、98 へと
最も変化が顕著で、唯一好きが増えているのは、
アラブ首長国連邦で、11、87 から、14、73 へとなっている。

紹介している Cole 教授の指摘を裏付ける結果だ。引用を続けよう。

 米国はかつて1979年にイランから追い出されたように、今度はイラクから手を引かざるをえなくなるだろうか。もしそうなったら、ザワヒリのいうように、アルカイダにとって大きな勝利になることだろう。最近の世論調査によると、イラクでは80パーセント以上の人がイスラム国家(イスラム法により支配される国)の樹立を望んでいる。もしイラクにイスラム国家ができたら、それはアルカイダ運動にとって、アフガニスタンにタリバン政権ができて以降、最大の勝利ということになるだろう。イスラムのイラクは、将来的にはシリアと統一国家を造ると予想していいだろう。これがビンラディンの夢見ているイスラム超大国を形成する出発点になるだろう。

 イスラム世界が、シリアのダマスカス、エジプトのカイロなどにいる洗練された知識人や技術者と、ペルシャ湾の石油から得られる富とを結びつけることに成功したら、21世紀世界にもう一つの超大勢力が出現することになる。

 アルカイダは、サウジで、ビンラディンの個人的な追従者の小さなグループとして始まった。アフガニスタンや、その他十指に足りない国に散在する小さな存在に過ぎなかった。統一イスラム国家を造るというビンラディンの夢はなかなか達成しがたいことは確かだ。しかし、イラクで世俗的なバース党がいなくなったことは、その夢を現実に変える第一歩になった。米国のやり方についてイスラムの人々の間にあまねく広がった嫌悪は、方程式を大きくアルカイダに有利な方向へ傾かせた。隠れて僻地の穴に潜むテロリストに過ぎない存在が、いまや若いイスラムの人々にとって、理想と仰がれる存在へと変貌した。

 米国とパキスタンは、かなりの人数のアルカイダをアフガニスタンとパキスタンで捕まえたが、新しい世代の若い怒れるイスラム戦士が各地でどんどん増えてきている。

 最後はこう結ばれている。

 米国はテロとの戦いに勝利しつつあるとはいえない。アルカイダもまた勝利したとはいえない。しかしこれまでの成り行き全体を展望すれば、米国が目標を達成した度合いより、アルカイダが達成した度合いの方がはるかに勝っているといえる。

 最初に書いたように、このブログを教えてくれた Political Animal は、紹介のあと、こう結んでいる。

 上記最後の文は簡潔にこういっているのだ。われわれ米国がイラクに留まって、長く続き、骨が折れ、勝ち味のない戦闘を続ければ、喜ぶのはビンラディンである。それじゃあと、あきらめてイラクから引き揚げれば、これまた喜ぶのはビンラディンである。

 こうであってはいけなかった。アルカイダをつぶす軍事的努力をするとともに、ビンラディンの残忍な計画はイスラム世界にとって最善のものではないし、唯一のものではないことを中東の同盟国に理解させるよう外交的努力をすることができたはずである。ブッシュのイラクへの妄想のおかげで、米国は大悪魔、アルカイダは幅広く支持される大きな存在となった。そのかたわらで千人を超す米国兵士が戦死してるのだ。

 ブッシュがもし再選されるようなことになったら、米国の選挙民の過半は、ものの分からない、世界のことを知らない、愚昧な人たちだと見なすしかない。そんな人々に世界の運命が握られているのは不幸なことだ。

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