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2004/09/05

韓国のウラン濃縮実験を責められるか

 韓国が国際原子力機関(IAEA)に未申告のままウラン濃縮の実験をしていたことが報じられ、日本に大きなショックを与えている。私は、未申告は咎められるべきだが、実験自体はもっとクールに受け止めてもいい、と考える。ショックを受け、怒っている人たちは、日本が1970年代以来、はるかに大規模に、実験だけではなく、開発試験を行っていたことをご存じなのだろうか。韓国では0.2グラムがとんでもなくて、日本では数百グラムか、キログラム作ってもいいというのだろうか。この機会に、このような核技術開発競争の構図が、お山の大将ゲームに似て、おかしなものだということを書いてみよう。

 韓国がおこなったのは原子法レーザーウラン濃縮である。金属ウランを蒸発し、ガス状にする。そこへレーザーを照射すると、ウラン235だけがプラスのイオンになる。電極を置いて電場をかけるとマイナス極にウラン235のイオンが集まる、という仕組みである。ウラン235と238には、原子の光吸収のスペクトルにわずかの差がある。そこをうまく利用して、235だけを選択的にイオン化するような波長のレーザーを照射する。実際には3つの波長の違うレーザーを組み合わせて段階的に電子を励起していき、最後にイオン化する。その波長の組み合わせによって、選択的イオン化の効率が決まる。分離効率のよいレーザー波長のデータを得ることや、ウラン蒸気中でのレーザー光の伝搬の問題を解決するなどいろいろと技術的な問題がある。しかし良い条件を見つけると、かなり高濃縮のウランができることもあるらしい。

 日本では、日本原子力研究所(原研)が1976年から実験をはじめ、いい見通しをえた。原発用の低濃縮ウランを、現在おこなわれている遠心分離法より安価に製造できるかもしれない。電力会社が共同して研究組合を設立し、東海村にかなり大規模の研究開発設備を作って、開発実験を行った。この規模の装置で、年に1トンSWUの濃縮ができるとの見通しをえた(SWUはむつかしい単位だが、天然ウランを原料に3,5%の濃縮ウランを生産するなら、年に約200キログラムの濃縮ウランを生産できるということ)。しかし、コスト的に引き合わないと、この開発研究は中断された。

 今回、この技術はどこから流出したか、を問題にする向きがあるようだが、日本の原子力研究は公開を原則としている。原研の行っている研究はすべて公開されている。レーザーウラン濃縮についても同じである。知的財産となる詳細データまでは公開されていないにしても、基本的な手法についても、研究成果にしても公開されている。韓国がその気になれば、利用できる公刊資料はたくさんあったことだろう。

 もちろん日本での実験や開発研究は,IAEAに申告し、査察を受けて進められたものである。その点で何のやましいところはない。アメリカはできれば止めさせたかったろうが、強制はできなかった。日本にとっては原子力発電のための技術開発に過ぎなかったが、国際社会からすると、日本がその気になれば、いつでも核兵器級のウランを製造する技術を持っていることを示したことになる。

 原子力の平和利用技術は、微妙に核兵器開発技術につながっている。それゆえに再処理やウラン濃縮に関する技術の開発は、厳しく制限されている。アメリカは原子力技術と装置や材料の供給国であることから、原子力技術を得ようとする国と「原子力協定」を結び、それぞれの国に許す原子力技術を厳しく制限している。日本は自主的な開発能力を持つゆえに、再処理もウラン濃縮も容認している。韓国には両方とも許していない。西側の国といえども、アメリカは厳しく選別しているのである。

 今回の韓国の実験の意図は分からない。果たして核兵器開発の目的があったのか。そこまではないだろう。しかし、開発能力があることぐらいを誇示したかったのかもしれない。日本では1968年に原研が独自の技術開発をおこなって、研究用原子炉の使用済み燃料を再処理し、約200グラムのプルトニウムを製造したことがある。このことをもって、日本は核兵器製造の潜在的能力を持つ国と認定された。韓国は原子力後進国であるし、米国からは、明らかに日本とは違う扱いを受けている。そのことを甘受しているが、日本と同等の技術保有国になりたいとの野望はあるのかもしれない。そんなことがちらりと見えた今回の報道であった。

 朝日新聞は9月3日付の社説「核疑惑−まさか韓国で、とは」を掲載しているが、上記のような事情を考え合わせると、私には、騒ぎすぎだと思える。

 核兵器保有や核技術取得をめぐる国々の競争は、お山の大将ゲームに似ている。いち早く山に登った国は、他の国にこの山に登るべからずという。中くらいまで登った国は、おれたちはここまでは登ったが、もっと下にいる国には,お前たちはここまで来てはいけないという。隙をついて、抜け道を登ろうとする国は後を絶たない。今度の韓国もそうしようとしたのかもしれない。でも、上にいる国がお前はけしからぬといえるのだろうか。お前がここまで登ってきたのなら、おらの国はもっと上に登らなくては、とするのはもっと危険だ。なんだかおかしな競争の構図なのだ。このゲームの構造自体を何とか変えていかなければ、どうにもならない。韓国を責めるより、このゲームの構図をどうするかのほうが、はるかに大事な問題だ。

 核技術への接近が、国ごとに差別されている状況が一方にあり、他方では核技術を持つことが国際政治上の有力なカードとなりうるという現実がある。この核不拡散政策上の難しい問題が、不拡散条約の締結と、IAEAによる保障措置と査察によって、辛うじて取り繕われている。核兵器など持たず、互いに平和に共存し合おうとの地域安全保障体制を地道に作っていくしかないように思う。遠い道だが。

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コメント

核技術への接近が、国ごとに差別されている状況が一方にあり、他方では核技術を持つことが国際政治上の有力なカードとなりうるという現実がある。

というのは、まさしくそうです。そして権利を持つものは、権利を守るための制度、枠組みをつくり、それを守る。
確かにルールを変えようとするのも大事。

しかし、ゲームがそのルールで行われている限り、国益の観点から、うまくゲームを進めるべきでは?
また、何故韓国の場合だけ、テレビで擁護され報道されないのか?何故、ルールが悪いという話になるのか

日本の原子力発電には反対で、韓国の原子力(兵器並み)はまぁ、しょうがないのですか?

投稿: ペンギンの羽 | 2004/09/05 22:19

原子力技術の持つ宿命的な問題を書いたつもりです。日本の原子力発電に反対ではありません。核燃料リサイクルは疑問視しています。韓国の今回の実験それ自体を直接的に責めるのではなく、原子力の持つ宿命的な構図のほうに目を向けようとしたのです。テレビで養護されているようには思えません。テレビは視聴者の興味のあり処を反映しているのでしょう。

投稿: アク | 2004/09/05 22:34

6ヶ国協議にも多大な影響を与える問題なのですが、テレビでは報道ステーションなど主要なニュース番組では報道されてません。まぁ、これは裏で色々あるようですが。

擁護も何も、報道すらされてません。
また、視聴者がマスコミを選んでいません。
むしろ、マスコミがどう視聴者に事物を見せるか、見えるかを操作しているように思えます。

だいたい、視聴者はそんなに力ないです。
イラクで何が起こっているのかも、実際に何がおこっているかどうかさえわかりません。
エサを与えられるモルモットのようなもんです。

投稿: ペンギンの羽 | 2004/09/05 23:04

マスコミと受け手との関係。マスコミに受け手は操作されていると見るか。マスコミは受け手に合わせていると見るか。両方が相互作用して現状があるのでしょうが、私は日本のマスコミの情報発信のレベルは、受け手の関心のレベルを反映している面が強いと見ています。特にテレビは。視聴者に受けるかどうか、を考えての情報の選択がされているのではないでしょうか。

投稿: アク | 2004/09/06 09:11

プロフィール読ませて頂きました。
タイトルと本文から予想はしていましたが、
思った通りでした。残念です。
本当に残念です。

投稿: やっぱりね | 2004/09/07 00:37

何が残念なのですか。私の前職をご存じの方なのでしょうが、私は本名も顔写真も出して、責任を持って自分の意見を表明しているつもりです。ニセのメルアドはいけません。

投稿: アク | 2004/09/07 10:21

>もちろん日本での実験や開発研究は,IAEAに申告し、
>査察を受けて進められたものである。
>その点で何のやましいところはない。

ならば韓国も同様に申告して実験すればよかったでしょう。
何をかばっているの?
逆に、日本が極秘裏に核開発を進めていたらあなたは同様に
弁護しますか?

>日本がその気になれば、
>いつでも核兵器級のウランを製造する技術を持っ
>ていることを示したことになる。

ダウト。
徹底的に濃度を無視して話を進める理由を教えてください。

もう、ニオイがぷんぷんしますね。

投稿: 鼻つまむ | 2004/09/08 23:38

私があのエントリを書いた趣旨からずれた、言葉尻をつかまえたご質問ですが、お答えしておきます。
1.私は韓国の今回の実験をかばっているのではありません。エントリに書いたように「お山の大将」的ゲーム(「あとから来たもの突き落とせ」)となっている現在の核技術開発競争のあり方が問題だといっているのです。
2.日本の原子力開発の3原則、あるいは核兵器3原則は、憲法9条とともに、将来にわたって堅持されると見通しています。日本が核開発に手を染めることはないでしょう。
3.核技術については、本来は質的なもの(あなたがおっしゃる濃度とか)まで入れて判断されるべきですが、質的にはどうかなと思われるような程度の技術でも、ありと認められるのが勝ちなんですね。たとえば北朝鮮の核技術だって、どれほどのものか専門家はかなり疑問視していますが、国際政治上は核兵器保有と見なされているでしょう。

投稿: アク | 2004/09/09 09:18

>たとえば北朝鮮の核技術だって、
>どれほどのものか専門家はかなり疑問視していますが、
>国際政治上は核兵器保有と見なされているでしょう。

それは、北がIAEAの査察を拒否しているからでしょう。
分からないものは危険な方に見積もっておく、安全確保の基本原則です。
イラクも査察を受け入れた結果、少なくとも国連的には保有とは見なされませんでした。
(米は強硬に主張していましたが)
本来でも実際でも(「隠している」という情報も含めて)質で判断されるものです。

投稿: 鼻つまむ | 2004/09/11 01:14

「濃度」とおっしゃったことを、私は核物質や兵器の「質」のことととって書きました。それが査察受け入れの態度のことに転換されてしまったので、議論がすれ違ってしまいます。

 査察を受け入れている国については、質を判断できる。しかし受け入れなかったり、非協力だったりする国の質をどう判断するかが難しい。おっしゃるように危険サイドに判断せざるを得ない。それがゲームのルールだとなると、何でもいい、劣悪なものでもかまわないから作ったことにして、それを見せないと言い張る方が有利だし、国際政治上のカードとして使える。これもこのゲームの悪しき一面ですね。

 核兵器を保有しているといい、査察を拒否する国を危険サイドに見ておく、というのは当然です。しかし、安全保障上どれほどの脅威かを過大にではなく、的確に見積もっておくことも大事でしょう。

 なお北は査察拒否から一歩進んでNPTを離脱してしまったのですよね。もっと厄介です。

投稿: アク | 2004/09/11 10:01

「♪スイカ泥棒日曜版」【韓国核開発疑惑】 《責めてみせ》ねばならぬからトラックバックをいただきました。そのエントリで私の書いたものに詳細な意見や疑問点が提示されています。私の意見ははそちらのほうにコメントとして書きましたので、ごらんください。

投稿: アク | 2004/09/13 15:46

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