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2004/10/03

中国の鵬、日本の野分、白川静の台風論

 今年は台風の多い年であった。まだ過去形でいうのは早く、これからも一つや二つ来るのかもしれない。今年の台風は九州から本州を縦走するコースをとるものが多く、風あるいは雨による被害が、毎回場所を変えて発生した。台風接近の予報を聞くたびに、今回はどこで被害が出るのだろう、今回もまた何人かの犠牲者が出るのだろうな、と心が痛んだ。私の住んでいる関東北部は、幸い台風の直撃を受ける頻度が少なく、たとえ通過するにしても弱まってからが多い。それでも水害を何度か目にしている。

 雑誌「風の旅人」(ユーラシア旅行社)は、掲載される写真がよく、また編集方針も常連の執筆者も好きなので、隔月刊を楽しみに待つのだが、今回は「水、風、土と生活」という特集号である。前号から、白川静のエッセイを全文直筆で巻頭に載せるようになった。前回分について、このブログで、04/8/4のエントリ「鬼気迫る白川静の直筆」で紹介した。今回は「台風」について書いているのを紹介しよう。

 中国と日本で台風についての受け取り方がちがうというのだ。中国では台風を大鵬(おおとり)に例えた。鯤(こん)という魚が、大きさ数千里の鵬となって、3ヶ月間空を舞うのが台風だという。荒れ狂う暴力的なものとして台風をとらえている。古代の神話にあっては、風は鵬と書かれ、読みは凡(はん)と読んだ。のちに台風の中にいるのは鵬ではなく竜である、ということになって、爬虫類の「虫」を「凡」の下に合成して一文字にしたのが「風」という字の起源だという。白川は漢字と古語の大家である。こういうことには詳しい。

 日本では、台風についての受け取り方はもっとやさしい。「はやち」とか「野分(のわき)」という。「『野分き』という語には一種の寂蓼感はあるが、暴力的な破壊感はなく、むしろ文学的である。」と白川は書いている。そういえば、「野分立ちて俄にはだ寒き夕暮のほど」という源氏物語桐壺の巻の書き出しを思い出す。

 「小さく細長い島国の、中央に山脈が脊梁をなすわが国では、台風は一過性のものであった。謹んで祓い清め申すことで、ことが足りた。」と白川は書いている。わが国では風は世俗の汚濁を祓う神であったらしい。たとえ台風が来て被害があっても、それは神(祟りの神でもある)のみ心と受け止めて随順するというのが、日本での伝統的な考え方だ。

 中国では台風のたびに、黄河も長江も流れを変え、あふれて大きな海をつくり、ひとたび狂えば、十年の惨害を残した。

 同じくモンス−ン地帯にあって、同じような体験をもちながらも、海を隔てて柔と剛との世界を生んだ。鵬翼三千里、中央に大きな眼を持つ台風の姿を、わが 国では「野分き」とよんだ。これほど詩情のゆたかな語を、私は大切にしたいと思う。

 昨今の日本での被害は、神のみ心と随順するには痛ましいものがあるが、そのように受け止め、自然と共に生き、順応するのが日本的なのだろう。 

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コメント

「風の旅人」を読んでいただいて、ありがとうございます。
 「風の旅人」編集便り  http://blog.livedoor.jp/kazetabi55/

というブログを作りましたので、時々は、遊びにきてください。
 また、このページにトラックバックさせていただきますので、よろしくお願いします。

投稿: 風の旅人 編集長 佐伯剛 | 2004/11/14 00:44

雑誌「風の旅人」の編集長さんから、コメントをいただきました。ありがとうございます。昨今の雑誌氾濫の中で、あまり目立たない雑誌ですが、編集方針がしっかりしていて、単なる美しさを超えて訴える写真が一貫したテーマ性を持って掲載されていますし、常連の執筆者も充実しています。白川静に毎号書いてもらっている雑誌は希有でしょう。佐伯さんのブログで、巻末エッセイから直筆を巻頭に載せるに至った経緯や、白川の直筆原稿作りの真剣さなどが紹介されています。佐伯さんのブログを読みに行ってください。また「風の旅人」をご存じない方は書店で探してみてください。

投稿: アク | 2004/11/14 10:28

2005年ごろでしょうか、、ある銀行のロビーでこの雑誌をよみました。興味があり、その銀行に行くたびに読んでいました。ところで教えてください、、この雑誌に記載された文章だけが「本」になっているものがありますか?
白川静の記載された文章を全部読みたいのですが、、。
どうすれば読むことができますか?

投稿: 一平 | 2012/12/24 09:50

一平さん

白川静は雑誌「風の旅人」の初期の頃、常連の執筆者でしたが、その後、超高齢にになられたこと、やがてお亡くなりになったことから、15号を最後に執筆されていません。

ご存じかと思いますが、「風の旅人」は、44号をもって、一旦休刊しましたが、編集人の佐伯剛さんが、独立してかぜたび舎を創立され、つい先程再刊第1号である45号「修羅」を刊行しています。なお雑誌は書店では取り扱っておらず、直接取り寄せとなります。詳しくは以下のHPをごらんください。

http://www.kazetabi.jp/

白川静が 風の旅人に載せられたものが本になっているかとのお問い合わせですが、私の知る限り、出版されていないのではないかと思います。上記で佐伯剛さん宛にお問い合わせになるのが良いでしょう。

投稿: アク | 2012/12/24 17:39

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 『風の旅人』を創刊する時、執筆者のなかで一番最初に連絡したのが白川静さんです。今から2年前の12月29日の6時頃です。  一生懸命に毛筆で手紙を書いて、企画... [続きを読む]

受信: 2004/11/14 01:18

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