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2004/11/05

疑似宗教が勝った米大統領選

 宗教、あるいは宗教らしきものは、人間と社会にとってまことに厄介なものである。宗教にどれだけ支配されているか、それとも解放されているか。それを社会を見る判断基準とするのも、一つの考え方である。宗教あるいは疑似宗教は、成熟した社会の、人間にとって住みやすい社会の、敵であることを、私はHPなどでの主張の一つの柱にしてきた。そう主張しながらも、人間は救いがたく宗教を必要としており、宗教や疑似宗教の超克は、未来永劫できないだろう、との悲観論にも立っている。

 アメリカの大統領選にブッシュが勝った。事前の動向からそうなるのではないかと憂いながらも、逆転の可能性を多少期待していた。しかしやはり、宗教とも疑似宗教ともいうべき側が勝った。Alas!

 ここで宗教あるいは疑似宗教といっているのは、例のファンダメンタルなキリスト教や、キリスト教右派のことではない。ものごとの判断を善と悪、黒と白とに峻別し、悪を力を持って滅ぼすしかないとする単純思考。現実を自分で見ようとせず、単純思考のフレームワークとそれを主唱するリーダに帰依することにより安心を得ようとする支持者。硬直化したモラルや家族の価値と呼ばれるものへの固執。自国の偉大さへの信仰。自分たちの価値に敵対するものは人間でないとして、平然とその抹殺を容認すること。そのような政治行動全体は、ある種の宗教の様相を呈している。それを疑似宗教と見るのである。彼らは不寛容であり、イデオロギーは硬直化しており、反対するものを声高にののしり、排除し、価値観を共有するゆえに団結力は強固であり、この宗教を広めるために草の根で献身的に努力する。それが疑似宗教たるブッシュの支持者であり、彼らの力が、そのような宗教を批判的に見る人々にまさった。それゆえにブッシュが勝った。そう私は見る。

 政策論争はとことん行われた。あらん限りの戦術を駆使しての選挙戦も戦われた。しかし、政策の現実的な是非以前に、ある種の神学論争で決着がつけられてしまっていた。信者のぐらつきを回避するための巧みな戦術も功を奏した。宗教批判側は良く戦ったとはいえ、しょせん信じるものの強さを突き破れなかった。

 このアメリカの政治風土は、ヨーロッパと著しく違っている。ヨーロッパ諸国は、長い歴史の中で、宗教ゆえの血みどろの戦いを経験してきた。ナチズムあるいは共産主義という疑似宗教の恐ろしさも経験し、乗り越えてきた。宗教を過去のものとして離れる人が増えるとともに、宗教の支配力は減退した。宗教同志が互いに寛容に共存する知恵を習得した。多様な価値の共存を歴史に学んだヨーロッパと対照的に、多様な民族が共存しているはずのアメリカ合衆国が、少なくともその半分が、えらくモノトーンな価値観に支配されている。それが今のアメリカである。私はそれを疑似宗教のゆえだと見る。

 ナチズムも、共産主義も、疑似宗教だったと上に書いた。非寛容な教条を人間の上位に置き、全体主義的に支配するさまは、宗教そのものに近い。同じような意味で、神国日本も、反共マッカーシズムも、過激で不寛容だった新左翼運動の一部なども、疑似宗教と言っていい。私は、ナショナリズムに疑似宗教のにおいを感じて、生理的に嫌悪を覚える。民主主義すらも場合によっては疑似宗教となりかねない。

 このような疑似宗教にどう立ち向かったらいいのだろうか。かつて宗教の蒙昧(もうまい)に、啓蒙思想が立ち向かった。科学がそれをサポートした。しかし近代化が人間と社会に深刻な問題をもたらしたゆえに、啓蒙思想は色あせた。だがブッシュを支持するかなり多くの人々が、宗教を科学の上位に置き、進化論を否定しているような現実は、イスラム世界で女性にかぶりものを強要しているのと、啓蒙の度合いにおいては大差はない。

 宗教あるいは疑似宗教は堅固である。それ自体の内部での変革を待つとか、あるいは外の世界とのふれあいでじょじょに溶けていくのを待つしかない。外部からの影響を受けて「たが」が緩むと、必ず原理主義者が過激な引き締めに走る。そんなことの繰り返しの中で、人間尊重の常識的な考えが徐々に見直されていくのだろう。

 あと四年、愚かな疑似宗教が世界の最強国アメリカを支配するのを見なければならない。うんざりだが、不寛容な疑似宗教は、きっと破綻すると、その時を待つことにしよう。そして、落胆の中にあるアメリカの宗教批判者たちの立ち直りに期待しよう。

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コメント

アクエリアンさん こんにちは。いつも書き込みして済みません。
前回の対極ですね。今回の「大統領選」では、涼しい地域でケリー氏が勝ちました。(カリフォルニアも、寒流が洗い、クールでした。中部は、北でもかなり暑くなりますから..ガソリンに含まれるトルエンなどが、よく揮発する地域でもあります。)
日本も熱波のせいかで、だいぶ変質レてきました。

フンザはまもなく、冬に閉ざされようとしています。厳しい冬が、魔物から守りますように。

投稿: U-1 | 2004/11/06 12:00

暑さ、寒さによる投票行動の分析ですか。そういえば、色分けは赤と青でしたね。

投稿: アク | 2004/11/06 13:35

こちらにコメントを書かせて頂くのは初めてです。いつもお世話になっています。
 私も今回の大統領選は時代のひとつの転換点だと思って興味深く見ていました。911が起こった後のアメリカはいろんな意味で変わったと言われます。911以降の初めての大統領選挙でした。
 理由はともかく、投票率は記録的に高くなりました。そして予想以上の差を付けてブッシュ大統領が再選しました。民主党が負けた理由はとやかくいわれています。特にNY中心のニュース番組ではニュースキャスターが「こんな世の中やってられない」といった様子でコメントを出している局もありました。
 私個人の感想としては、やはり国内の経済政策で大きな失点をブッシュ政権がまだしていないので現職有利と出たのではないかと思っています。イラクでは大きな失策をしていますが、アメリカ人はある意味とても自己中心的で、自分の国以外には関心が薄い国家だと思います。このような性質があまりイラクの失策が選挙結果に影響しなかった理由にあるのではないかと感じています。
 ともあれ、ブッシュ大統領からは「He is a nice person. He is one of the best friends of mine and my wife. (かれはいいやつだ。彼は私と妻の一番の友人のひとり)」選挙期間中ずっとと言われてきた小泉首相にはとっても有り難い結果だったのではないでしょうか。
 ちなみに上記したコメントは、「数十年前に戦争をしていた日本の首相と我が国は今はこんなにいい関係だ。イラクとは今は戦争をしているが、未来にはきっと日本のように素晴らしい国になる。」というブッシュ大統領のイラク戦を正当化する演説の中で使われているそうです。皮肉ですね。

投稿: Aurora A | 2004/11/07 13:24

Aurora A さん、コメントをありがとうございました。外から見ているアメリカと、そこに住んで感じておられるアメリカとは、ずいぶん格差があるようですね。国内でも大都市におられる方は、見方が違うようですね。
ともかく、今度の結果は、アメリカとはこんな国だったか、と見直すいい機会になったようです。自分の国以外に関心のない人々が投票した結果に、世界中が影響を受けるという、変な事態になっています。当選したブッシュが、今期は保守層に必ずしも気を遣う必要がなくなり、国際協調の路線へ切り替えてくることを期待したいです。逆にウルトラ保守的な法制化(中絶やゲイの結婚禁止など)を進めるということもあるかと思われますが。

投稿: アク | 2004/11/07 14:27

アクさん、いつのも拝見しております。
今回も大変勉強になりました。。ありがとうございます。

>宗教あるいは疑似宗教は堅固である。それ自体の内部での変革を待つとか、あるいは外の世界とのふれあいでじょじょに溶けていくのを待つしかない。外部からの影響を受けて「たが」が緩むと、必ず原理主義者が過激な引き締めに走る。そんなことの繰り返しの中で、人間尊重の常識的な考えが徐々に見直されていくのだろう

私も、上記の部分に深く感銘を受けます。
確かに、そういった部分が、個人の人生において反映されるのは、数年という短い時間では、解決できないのでしょうが、
それ以外に、解決策はないような気がいたします。

「それ自体の内部での変革」というのは、どこまでいっても、個人における「人間尊重の常識的な考え」の変革こそ、それを実現することを可能にできる方法であると考えます。
また、「外の世界とのふれあいでじょじょに溶けていく」というもっとも、時間がかかることなのでしょうが、他人があって、自分を認識するいう作業の繰り返しこそ、変革の要のようなきがいたします。

また、たのしみにしております。


投稿: kgm | 2004/11/07 14:38

アクエリアンいつも楽しく拝見させて頂いております。今回のブログも読み応えがありました。
私個人も、もう4年間も疑似宗教を見るのにはうんざりです。が、それを受け入れて、生きていかなければいけない現実もあります。。。。。
残念です。

また、来ます。

投稿: nobi | 2004/11/10 09:57

今回の選挙でブッシュ氏を支持したひとの多くは、一度も自分の州の外に出たことが
ないような、ひどい表現では「字が書けない」とか「イラクの場所を知らない」という
ような人々であったと聞きました。
こんな愚かな選挙によって、日本国内の政治経済はどんどん悪くなるのですね。

投稿: drhasu | 2004/11/14 20:38

訂正します.
「文盲」=「愚か」という意味で書いたものではありません.
選挙の方法,作戦が愚かであったということです.

投稿: drhasu | 2004/11/14 21:19

drhasuさん、こちらのほうも読んでいただいて、コメントをいただき、ありがとうございます。ブッシュを支持したコアの部分に、世界のことなどほとんど知らず、関心を持たず、信奉するモラルの崩壊だけを怖れる、そんな一般大衆がいるのでしょう。しかし、それを組織して票にまとめ上げる共和党選挙戦略家たちは、おそるべきものです。当分の間、共和党天下が続き、世界はその影響を受けるのでしょう。

投稿: アク | 2004/11/15 06:52

drhasuさん、こんにちは。いろいろなところでお名前を伺っております。ご挨拶するのは初めてですね。Aurora Aというものでアメリカのノースカロライナの田舎に住まわせてもらっています。アクエリアンさんには例のwebでの写真サークルでいろいろ教えて頂いています。よろしくお願いします。
 さてアメリカではあまり週の外に出た事がないヒトがというくだりがありました。私が住んでいる地域は最新のコンピューター会社の研究所と地元の方々の街が融合しているようなちょっと特殊な土地ですが、地元の方にお話をお伺いすると「州の外に出た事がない」割合が結構あります。まあ、ひとつの州がかなり大きいですので仕方ないかと思います。驚くのは州の中で自分の街がどのあたりになるか指差せるのですが、アメリカ全土の地図になると自分の街がどの辺りになるか指差せない方がある一定の割合でおられる事です。それほど自国、また自分の周囲にしか関心がない方々がおられるというよい指標かもしれません。ではまた。

投稿: Aurora A | 2004/11/16 10:03

Aurora A様,どうも初めましてdrhasuです.

アメリカ合衆国は15年ほど前に姉の引越しの手伝いに3週間ほど滞在しただけです.ボストン郊外でしたのでアメリカは本当に良いなあと良い思い出になりました.
特にハーヴァードのメディカルエリアの雰囲気とか川岸から見るMITの校舎に夕陽が射しかけて,川をボートが,堤防を学生がランニングする姿をみてうらやましく思ったものです.

合衆国で体験したことで印象的なのは,アウトレットでアメックスを出したら,露骨に嫌がられて,「ビザは無いのか?」と言われた.(ま,確かに手数料高いけど,アメリカ以外のどこでアメックス使えっていうの?)
また,パソコン専門店でモデム(当時,compuserveを経由してニフティにアクセスしていました)を購入した時に,「マック用のケーブルは接続可能か?」と尋ねたら,店員が「私はそんなことを答える義務は無い」と喧嘩になったりしたことです.(なんで英語で喧嘩しなきゃならんのじゃと思いました.)

そして,アメリカ人(という言い方は良くないですね)は,アメリカ在住のアングロサクソンは,みんなお土産が好きなようで,観光地には必ずギフトショップがあって,必ず,Tシャツとマグカップが売っているのが印象的でした.

今後ともいろいろと御教示願います.

投稿: drhasu | 2004/11/16 23:14

アクエリアン様

有り難うございます。
アクエリアンさんのページから、多くの方が「風の旅人」のブログにアクセスしてくれます。
また、アクエリアンさんの記事も、とても共感するところが多いです。特に今回のアメリカ選挙に関しては、大新聞の社説などに比べて、遙かに深く鋭いものだと思います

投稿: 風の旅人 編集長 佐伯剛 | 2004/11/17 15:01

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