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2004/12/03

政治は「感情の季節」に入った、と入江 昭

 激しく闘われたアメリカ大統領選が現状維持で終わったあと、気落ちしたのか、言論界はなんだかシュンとしている。あれだけはっきり割れたアメリカの国内世論はどう落ち着くのか。あと4年ブッシュの顔などテレビで見たくないと願った自分の気持ちを、どこへ持っていったらいいのか。大統領選後について納得のいく論調を探し求めていた。入江昭(ハーバード大教授)が朝日新聞04/11/29の「思潮21」に書いた「感情の季節」は、そんな渇きをある程度癒してくれる。少し紹介してみよう。

 ブッシュ対ケリーは、表面的には感情と理性との対立だった。しかし、破れた民主党側の人々の事後の反応を見ると、かなり感情的だ。どうやらアメリカ政治は「感情の季節」に入り、保守派とリベラル派の感情的な対立は、今後続くだろう。困ったものだと考えるかもしれないが、感情的要因は、理性的判断の前に消去されるべきものではなく、むしろ感情的なものを建設的なものへと向けていくのが良いのではないか。これが入江のいいたいことのようだ。

 大統領選で、ケリーは、イラク戦争や経済問題について、ブッシュの政策を理詰めで批判した。ブッシュは、対照的に、道徳や信仰に訴えた。ニュ−ヨーク・タイムズが事前に書いたように「頭」対「心」の闘いだった。その結果「心」が勝ったように見える。出口調査でも投票の要因として、宗教や道徳的価値観をあげた人が多数を占めた。現在のアメリカでは、理性よりも感情を重んじる人が多いようだ。それは自分の生活や国のあり方を脅かすもの(テロリズム、リベラルな考え方など)に恐怖を感じ、脅かすものへの嫌悪感、侮蔑感を抱いているからだと、入江は分析する。

 ブッシュは危機を強調し国民の間に恐怖感をあおっていると、ケリーは批判し、恐怖の中に生きるのではなく、将来への希望を基調とする政治をつくろうと、呼びかけた。そのような姿勢は知的すぎて、一般市民の感情にアピールできなかったというのが、選挙後の民主党の反省点らしい。

 しかし、選挙後、民主党支持者に見られる反応はきわめて感情的だと、入江は実感する。ブッシュに票を投じた人々に対する失望、侮蔑、怒りが噴出している。「信仰心や感情に流され、常識のかけらもない彼らが、ブッシュ政権をあと4年も温存させてしまった」と憤る、その感情の高まりは、ブッシュ支持者の感情に相通じる。感情に訴えて勝利した共和党側を、今度は感情的に民主党支持者が怒っているという図式だ。入江は

 現今の米国は、感情の季節に入ったかのような印象を受ける。これからも、共和党と民主党、あるいは保守派とリベラル派の間の感情的な対立は、容易に消え去らないであろう。
 しかしながら、政治における知性と感情、あるいは理性と宗教との対立というテーマは、今に始まったものではない。

として、啓蒙主義にふれ、啓蒙思想の中でも、感情的な要因は十分に尊重されてきたことを紹介する。結論として入江はこう書いている。

 現在の米国指導者や世論が、感情や道徳を強調するあまり、科学的合理主義を軽視しようとするかに見えるのは不幸なことである。が、今必要とされるのは、そのような姿勢の全面的な否定ではなく、人間の持つ感情が、社会にとって、ひいては世界にとって、建設的なものとなるよう、努力することである。
 これからの国際秩序も、各国間の利害関係(それはそれぞれの「国家理性」のからみあいである)によってではなく、感情的連帯によって培われていくのが好ましいのではなかろうか。その場合、怒りの気持ちもそれなりの意味をもつようになるのではないか。理不尽なテロ行為への怒り、無知や偏見への怒り、貧困や迫害への怒り。このような怒りは、国際社会の道徳的基盤となりうるかもしれない。

 国内政治も、国際政治も、感情の季節に入ったかに見える現在、国際政治学者としての良識的な見方だろう。しかし私は、そのような楽観的な見方に与することはできない。感情に動かされて、人々は行動し、国のことが決められていく。感情的なものが理性的判断をゆるがし、人類に悲劇をもたらすという、歴史の波動は、大きくなったり、鎮まったりしながら、果てしなく続くことだろう。私は、いつも希望を持てず、ニヒリスティックであるが、特に昨今の時代の動きを見るにつけ、その気持ちは強まるばかりである。

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コメント

こんにちは。「感情偏向型」政治家の続投は、アメリカ経済の危機的状況を反映していると思います。十大企業の殆どは、ケリー方に献金しなかったと言いますから、ブシュは、お金で何とでも変化する、単なる「妖怪」と言い得ましょうか。
こうした物を指導者と盛り立てる、裾野の広い下準備こそ、恐ろしいことだと思いました。
再び、財政危機による、ドル暴落(=バブル景気)が発生するかも。

投稿: U-1 | 2004/12/05 12:33

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