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2004/12/07

ビンラディンの潜む場所

 米国大統領選が大詰めのころ、ビンラディン逮捕というサプライズ・ニュースが用意されていて、ブッシュ勝利のために効果的に使われるだろうとの噂があった。ケリーは、9/11から3年以上も経つのに、なぜ張本人を捕まえ損なっているのかと、ブッシュに迫った。米国人の大部分は、ウサマ・ビンラディンを捕まえないことには、9/11は終わらないと考えているだろう。

 ナショジオの12月号に「ビンラディンの”影”を追う」との記事が載っている。TIME誌のパキスタン・アフガニスタン支局長が写真家とともに、今年3ヶ月にわたって、ビンラディンと彼に従うアルカイダが潜むといわれる地域を取材して回った。そこはアフガニスタンとパキスタンの国境にまたがる広大な山岳地帯(北海道より少し狭いくらいの面積)で、パシュトゥン人という、誇り高く、戦いに強く、助けを求めるものに厚い庇護を与え、最も統治しがたいといわれる部族の住む地域だ。

 米軍は、アフガニスタン国軍や、パキスタン領ではパキスタン軍を使って、ビンラディンとアルカイダを追いつめようとしているが、地理的な条件と、扱いのむつかしい部族社会という社会的条件からして、容易に目的を果たせないだろうと、筆者は実見を語っている。

 ひと月ばかり前、北部パキスタンに旅をした。旅については私のHP本館の方に、パートナーが旅日記を書き、私が写真を添えるという報告を進めているが、その旅の途次、パシュトゥン人が多く住む北部辺境州の様子をかいま見た。ペシャワルからサイドシャリフに向かうと、はるか北西に白い雪をいただくヒンドゥークシュ山脈が見えてくる。その山脈の一部は南へ向かって延びている。そこに人工的に引かれたパキスタンとアフガニスタンの国境が走っている。尾根と谷が複雑に入り組んだ、灌木がちらほらとしか生えていない裸に近い山が、壁のように立ちはだかっているのを見た。あの向こうはアフガニスタンだと聞いた。この地域あたりから国境の向こうまで、広い地域にパシュトゥン人が住んでいる、と聞いた。その社会の特異性について、ガイドは話してくれた。同じことを雑誌記者は見聞している。

 この国境地帯に約2500万人のパシュトゥン人が住み、彼らは、数十の部族と数百の氏族に分かれ、国の統治など頓着しない部族社会を営んでいる。イギリスは、植民地時代、この地域の支配に手を焼き、彼らに大幅な自治権を与えて、アフガニスタンと英領インドとの緩衝地帯にした。1947年にパキスタンが独立したあとも、政府はこの地域に手を出せず放ってあった。9/11後、アメリカに迫られて、パキスタン軍がこの地域に兵を出しているが、雑誌記者たちが見たのは、厳然と存在する部族支配の姿だった。パキスタン政府の駐在官は、現金や道路・雇用などのアメと、罰金や武力行使などのムチを使って、彼らを動かそうとする。しかし、しゃあしゃあとアメは受け取っても、協力はしない連中だ。何しろ、パシュトゥン人は、世界で最も統治しがたい民族だといわれるのだ。

 彼らは「パシュトゥンワーリー」と呼ばれる古来の慣習法を、いかなる法よりも上位に置き、それを厳守するためには命を捨てても良い、という伝統に生きている部族だ。そのワーリーの4大戒律の一つが「ナナワティ(庇護)」と呼ばれるものだ(私の参照しているガイド本では、Melmastia と書いてあり、Nanwataiは別の意味の戒律としている)。誰かかくまってほしいと助けを求めてきた場合、たとえ相手が最悪の敵であっても、罪人として追われているものであっても、救いの手を差し伸べなければならない。自分の命を犠牲にしてでも「客人」を守る義務があり、いっさいの報酬を期待してはならないとされ、実際にパシュトゥン人たちは、そのようにしてきたという。身分や人種など関係なく、主人はたとえ客人の身分が低くても、自ら客人の世話をし、自分より旨いものを客に食べさせ、できる限りのもてなしをする。

 記者たちはこんな話も聞いている。パシュトゥン人は「高潔にふるまうこともあるが、最悪の悪党にもなる連中だ。あらゆる背信をやってのけ、場合によっては自分の父親だって裏切る。だが、ナナワティには異常なまでにこだわる。まるで、それが神聖な使命であるかのように」

 米国が2500万ドル(26億円)の懸賞金をかけても、ビンラディン情報が全く得られないのは、ナナワティ遵守のパシュトゥン人に、彼らがかくまわれているからだ。

 イラク占領の場合も同じことだが、アメリカ人は、自分たちの常識がすべてに通用するというおめでたい考えのもと、優越な軍事力がものをいうと信じて「テロとの戦い」を進めて、失敗してきている。それぞれの社会は、それぞれの慣習や事情があって、アメリカ人の価値観も、軍事力も通用しない。そのことは歴然としているのに、彼らは路線を変えようとしない。

 あれだけアメリカが血眼になっても、ビンラディンが捕まらない、ということは、「テロとの戦い」が今のようなやり方ではけっして終結しないということの象徴である。何がテロリズムの原因となり温床となっているのかを、もっと賢く見て取り、対応を切り替えなければ、アメリカはますます泥沼に入っていく。それはアメリカの勝手だが、その巻き添えを食らうことだけはごめんだ。

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