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2005/01/02

「新シルクロード」に中国発展の現状を見る

 NHKの「新シルクロード」が始まった。前回から25年を経て、どんな姿を見せてくれるか、興味深い。昨日(05/1/1)放映されたプロローグの前半は「再会」という題で、前回登場した場所なり人物を再登場させるという趣向だった。再会という物語性も面白かったが、何より目をひいたのは、この4半世紀を経ての中国社会の変化だった。経済発展の影響が予想以上に奥地にまで及び、人々の生活が桁違いにレベルアップしているのを映像で見せてくれた。シルクロードのロマン性に酔うよりも、中国恐るべしとの印象を強く受けた。この中国とどうつきあうか。そんなことまで考えてしまった。

 プロローグ第1部「再会」はウルムチの空撮から始まった。上海かどこか、沿岸部の大都市かと見まがうほどに、高層ビルが林立し、煙か土埃で煙っている。それが新彊ウイグル自治区の首都ウルムチの現在の姿だ。人口200万だという。25年前の映像も紹介されたが、低層の煉瓦積みの貧しげな建物が広大な平原に拡がっている。現在の垂直方向に立ち上がった街の姿など想像できない。前回シルクロードが放送されたのと同じ頃、80年代に始まった改革開放政策が進む中で、ウルムチは毎年10%以上の成長を続け、人々の年収は十数倍に増えたという。中央と僻地との格差をいう人がいるが、経済発展は辺境まで及んでいるのだ。

 自治区の首都にとどまらない。経済成長は新彊ウイグルの各地に及んでいる。天山南路と西域南道と二つのシルクロードの十字路の証しは、カシュガルの中央交差点に立つ大きな記念塔として健在だ。そこで交差するメインストリートは、何車線もの広い道路で、盛んに車が往き来している。通りには近代的なビルが並んでいる。

 南彊鉄道の終点だったコルラは、駅舎もない田舎町だったのが、大都会に変身し、満鉄のものを転用したSLが数両の貨客混合の列車を牽いていた鉄道はカシュガルまで延び、今では、ディーゼルの特急列車が走っている。訪ね当てた当時のSLの機関手は、ここではSLも私らもいらなくなったと笑う。今は内モンゴルで働いているという。

 新彊特産のハミ瓜は、皇帝に献上される限定品だったものが、今や道路網の整備とトラック輸送の普及で、北は黒竜江省から南は広東省まで、全国銘柄となり、生産高も10倍に増えたという。中国にはローカルな生産物は多々あっても、流通が悪いから、経済がうまく廻っていないとの悪評を聞いたのはいつのことだったか。

 崑崙山脈の麓ホータンの玉(光沢美しい石)は、河原で拾われ、小さな集積所で鑑定されていたが、今や採掘権を買った人によって、河原が土木機械で大規模に掘り返され、玉が採取されている。値段はかつての2500倍に跳ね上がり、前回登場していた鑑定人は採掘会社のオーナーとなり、3軒の豪邸を所有する大金持ちになっている。

 天山の麓の平原で25年前に撮った、遊牧民の結婚式の当事者を遊牧民の間で探しても見つからない。やっと捜し当てたら、10年前に定住し普通の勤め人になっていた。今は村会の議長をしているという。カシュガルの職人街は昔のままの佇まいを残しているが、そこで働く木工、綿打ち、民族楽器作りの職人たちは、製法を近代化したり、売れ行きが良かったりで、収入は数十倍になっているという。

 これらのテレビ映像は、ここ2,3年の旅で実見した中国発展の姿を思い出させてくれた。一昨年は雲南省の首都昆明の賑わいを見たし、ミャンマーとの国境地域まで経済発展が及び、さらにはミャンマーのイラワジ川に手を伸ばして物流のルートを造ろうとしているのを知った。昨年は北パキスタンで、国境を超えて隣国まで、中国の経済発展が影響を及ぼしているのを見た。

 元日の朝日新聞に、アメリカの経済学者ポール・クルッグマンが、アジア経済の将来を問われ、「やがて中国は米国をしのぐ世界最大の経済国家になるだろう」と予言しているのを読んだ。中央と辺境との貧富の差など社会構造の問題、社会主義という国家体制の問題、支配階級の腐敗の問題などをあげて、いずれ中国は破綻に直面するという人もいる。問題はあるだろうが、今の勢いと実利的に物事を運ぶ勤勉な中国人の国民性を考えれば、多少の問題は何とか乗り越えていくと思われる。かつての新大陸アメリカ合衆国をヨーロッパから見て、同じようなことをいう人がいたことだろう。アメリカの数倍、12億の人口を擁し、発展しつつある中国は21世紀の新大陸だ。クルッグマンはこうもいっている。「10年後にはアジア経済の中心は中国で、日本は格下のパートナーになるのではないか」

 この中国とどう付き合うか。私たちの中国観の底には、後進の眠れる大国おそれるに足りず、という過去のイメージが残っている。日本が世界第2位の経済大国であるとの現状がいつまでも続くと夢想し、中国を見下してものをいう人がけっこう多い。気持ちはともかくとして、いずれ「格下のバートナーになる」という予測を冷徹に受け止めて、これからのことを考えた方がいい。

 この観点から見るとき、靖国問題にこだわっているのはじつに愚かなことに見える。中国は日本を格下にするためにこのカードを使うだろう。使わせないようにした方がよほど国益にかなう。中国とは実利で渡り合い、技術力で常に一歩先にいるというあり方をしなければ、パートナーとしても存在できなくなるのではないか。

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コメント

アクエリアンさんの見解があたっていると思います。多分後数年でそうなると思います。
私は次のように見ています。
中国恐るべし、中国の強みはアメリカ、日本と違い、国及び国民がいかにあるべきかを真摯に考える人材達がリーダー及びそのブレーンとなっているからだと思います。我が国は政治家、官僚とも国及び国民のことを考えている人材はいると思いますが、今日本のあらゆる組織の中で権力を握っている人達及びそのブレーンが三流の人材が多いので、有為の人材は多分、力を発揮できる位置にはつけない仕組みとなっていからだと思います。有為の人材を登用し、今の日本の腐りきった組織の中の大掃除が出来なければ、多分日本は政治的にも経済的にも破綻すると予測しています。

投稿: Y.S 173 | 2005/01/02 21:44

Y.S.173 さん
 コメントをありがとうございます。
 おっしゃるとおりです。確かに中国のリーダーの質はいいですね。テレビに出る報道官など、男女ともしっかりしたもののいい方をしていて、感心します。日本の官房長官は、国民あるいは外国に国の方針をはっきりと主張するというよりは、いかに言い逃れするかに関心があるように見受けられます。
 しかし国や各組織のリーダーの質は、国民の質を反映しているともいえるでしょう。アメリカの大統領はアメリカ人の質を反映して選ばれたのと同じように、日本でもリーダーに有為な人材を得ないのは、われわれがそのような人たちを選んでいる、あるいはそのような人が用いられるシステムをよしとしているからでしょう。
 さまざまな場で意見交換をして、みんなで意識を変えていかないと、日本は変わらないでしょうね。
 その点では、中国では、経済発展し生活が豊かになっていくという期待感で人々の心がまとまり、さまざまなシステムがうまく回転しているのでしょう。

投稿: アク | 2005/01/03 09:08

初コメントさせて頂きます。本年も、よろしくお願いいたします。

『新シルクロード』見逃しましたので、ありがたく拝見いたしました。
私が、前版『シルクロード』にあこがれ、訪ねました1985年のウルムチは、結構な都会で、大きなビルが立ち並んでいました。さすがに高層ビルは、ありませんでしたが、大都市の趣でした。更なる発展をしたのでしょう。
現在のウルムチは、石炭暖房による大気汚染が深刻との事です。
http://www.esa.int/export/esaEO/SEM340NKPZD_index_1.html
(Europe Space Agency.Global airpollution map.)

さて、中国の発展ですが、混乱期を挟んだ、漢、唐、宋、明、清のような発展期にさしかかったと言うべきかと思います。
中国を見下す人もいますが、きっと世界史を知らない方々でしょう。
長い歴史の視野を持ちたいものでございます。

中国の学生も、質、意欲ともに高く、今の日本のように、就職口が無いのただの人が、修士?、博士??になるのと異なり、圧倒されてしまうのは、ま近と思います。

リーダーの質ですが、当地の代議士は、破産宣告を受け、議員給与を差し押さえられています。
国立大では、地理教授?が、「水は高い所から、低い所へ、例外なく流れる。」と、やってます。
これも、「擬似宗教」でしょうか。いくらなんでも、程度が悪すぎ、地方から見る限り、亡国は、間違いありません。新年早々、すみませんが、本当のことです。

投稿: U-1 | 2005/01/03 17:30

上のURL全部表示されていませんので、もう一度。

Global air pollution map

http://www.esa.int/export/esaEO/SEM340NKPZD_index_1.html

投稿: U-1 | 2005/01/03 17:34

はじめまして、こんにちは

新シルクロードのプロローグを読まれての感想を拝見しましたが、あの番組はいわゆる都合のよいところばかりを写した、観光宣伝ビデオのようなものであると私は思います。確かに経済発展が新疆ウイグル自治区にまで及んで入るようですが、それは石油関連企業が中心です。そしてほとんど報道されない新疆「植民地化」による少数民族抑圧、自然破壊については何も語ることがありませんでした。
ぜひ、以下の論文やビデオ(英語)をご覧になってください。

http://www.jaas.or.jp/pdf/49-1/37-54.pdf
http://www.pbs.org/frontlineworld/stories/china401/thestory.html

投稿: gwf | 2005/01/13 16:03

gwfさん、コメントありがとうございました。
中国辺境の少数民族問題については、私も乏しい経験ながら問題を感じていました。お教えいただいた論文はプリントして読みました。ビデオは残念ながら私の機器では見ることができませんでしたが、storyを読みました。漠然と感じていたウイグル族に対する大国中国の扱いの問題性を理解しました。かつてもポーランド、あるいは冷戦時代のソ連衛星国と共通する問題のようですね。外から問題ありと理解を深め、折に触れて声を上げていくことが必要でしょう。ご指摘ありがとうございました。

投稿: アク | 2005/01/14 19:45

現在、イギリスの大学院で勉強しています。私のコースでは何と9割を中国からの留学生が占め、その勢いに圧倒される日々です。

学生の質は正に玉石混交です。トップは優秀なのですが、他方プレージャリズムで問題を起こすのも中国人学生です。

他国の文化に全く関心を示さない彼らを見るにつけ、大国の国民ゆえかと思います。

彼らと話をすると、中国国内での貧富の格差と社会的制度としてある差別、経済発展のスピードの凄まじさに驚いてしまいます。

今後少なくとも10年のうちに日中の立場は間違いなく逆転すると思います。もはや逆転しているかもしれません。

現在、世界はアングロサクソンのルールで動いていますが、否応なしに中国のルールに取って代わるのでしょう。憂鬱になってきます。

投稿: Lina | 2005/01/14 21:12

Linaさん、コメントありがとうございます。
そうですか。イギリスの大学院(たぶん文系それも経済とか国際関係とかでしょうか)で中国人がマジョリティ。10年、20年前でしたか。今でもそうかもしれませんが、アメリカの理系大学院たとえばMITで、コースによってはアジア系(中国、韓国)がほとんどと教授が嘆いていたのを聞いたことを思い出しました。中国は、ちょうど20年前の日本のような昇り坂にあるのでしょうね。いっぱい問題を抱えながら、どうなっていくのか。ともかく中国に対する既成観念をどんどん変えていかないと対応できないですね。

投稿: アク | 2005/01/14 22:10

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