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2005/01/12

天皇の靖国、小泉の靖国

 西岡朗(元防衛研究所)の『靖国神社参拝・小泉首相の倫理的資格を問う』(「論座」05/2月号)は、保守の側から小泉首相の靖国参拝を批判するもので、興味深い。その論点を紹介しよう。著者は、日本の首相の靖国神社公式参拝は憲法上、政治上全く問題ない、むしろ戦死者の慰霊は首相たるものの義務であると主張した上で、小泉首相に限って言えば、この人には靖国を参拝する倫理的資格がない、と論じている。

 A級戦犯は、天皇をないがしろにし、国を危機に至らしめた者たちであり、彼らが合祀されていることが間違っている、とする。昭和天皇は、自ら危機に至る過程に関わり、自分の意志が曲げられて、国が間違った方向に行ってしまったことと、何者がそれに関わったかとを、はっきりと認識していた。天皇は、昭和の戦争の時代に、首尾一貫平和を希求し行動した(秦郁彦「昭和天皇の『戦争責任』を検証する【中央公論03/2】を引いて論じている)。

 (その天皇の平和希求の意向を)ことごとくないがしろにして戦争の旗を振り、国を危うきに至らしめた者たちをも、その旗のもと軍の命令に従って死地に赴いた英霊と同じ場所で、同じように顕彰されていいものであろうか。

 昭和天皇は、そのような認識で、A級戦犯合祀を受け容れることはできないとして参拝を取りやめられた。A級戦犯の合祀が大きく報道され、内外の批判が出て社会問題となる以前のことだった。天皇参拝が問題となるだろうから、ではなく、ご自分の気持ちとして参拝したくない、と決断されたのだと推察している。昭和天皇は、他の事例でも、国を誤った方向に主導した者には批判的で、その点では非常に潔癖であられた。

 それに対して、小泉首相は、そもそもA級戦犯容疑者であった岸信介を始祖とする派閥に、親子2代にわたって主要メンバーとして属し、天皇をないがしろにし国を誤った方向に主導した者たちの責任を問わず、むしろ曖昧にする勢力に積極的に加わってきた。岸の系譜に属すること、その派閥が戦争責任を曖昧にする文化を持っていることを指摘する点で、西岡の舌鋒は鋭い。

 小泉首相の非はそれだけではない。国会答弁などで、天皇の不参拝を非難し、当てこするような発言をしていると、糾弾している。03年1月28日参議院予算委員会で自民党議員の靖国参拝に関する質問に答えてこういっているのだそうだ。「日本人の気持ちとして、お参りするところに自分の気にくわない人がいるからお参りしない、死者に対して最後までむち打つような気持ちは余りないんじゃないでしょうか。・・・死者に対して最後まで、生前の罪まで着せて死んでもなおかつ許さないという気持ちというのは、日本人には余り馴染まないんではないでしょうか」

 西岡はここで「自分の気にくわない人」と首相がいうのは、明らかにA級戦犯を指し、昭和天皇の不参拝、A級戦犯に対する否定的な認識を、遠回しながら、いかがなものかと批判している、と捉えている。この発言は「A級戦犯容疑者を始祖とする政治派閥の文化と関係」し、その文化の中では、A級戦犯は昭和天皇の戦争責任を負って処刑されたとまで見ている、としている。「生前の罪まで着せて」とか、「死んでもなおかつ許さない」という言葉は、そういう認識から出ている恨み言のようだという。

 西岡はほかにも、そもそも自民党政府のもとにある厚生省がA級戦犯の名簿を靖国神社に送付したことが合祀の契機となったこと、本土大空襲の米側司令官ルメイに勲一等旭日大授章を自民党政府が授与したこと、A級戦犯を擁護し昭和天皇をないがしろにする見方で書かれた『「つくる会」教科書』を支持する多くの国会議員によって選ばれていること、などを理由に、小泉首相はおろか自民党首相には、靖国参拝の資格がないとしている。

 あの戦争で不本意な死を遂げた方々を慰霊し、平和を誓う、との小泉首相の言葉は一見うるわしいが、その前に、間違った戦争の責任を明確にせずにおいていいのか、との西岡の論は、本質的なことを峻別せず、日本人の心情などという曖昧な言葉の中に隠れてしまいがちがわれわれにも問われていることである。

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コメント

私にとっては戦陣訓を説き、戦場に送り出した東条英機が自らは戦争責任者でありながら敗戦後、天皇陛下と自国民に申し訳なかったと一言遺書を残し軍刀による割腹自殺が当然と思われたが、約1月後、米兵が逮捕に来るまで行動せず、卑怯にも22口径の小銃で左腹部に1発撃って自殺を装うなど偽善者そのものの行為。極東裁判も第3の戦いに向かったというが、それならその未遂事件はなんなのか説明がつかない。遺族も遺族で靖国に入れて欲しいとか年金ももらいたいとか自分のことばっかりで同情の余地も無い。高潔な人物であれば遺書に死後のこともしたためておくものだ。また極東裁判に付随した顛末書にも武士たるものの誇りのないものだ。それを受け入れる神社の品性の無さは天皇陛下が嫌うのは当たり前だと思う。

投稿: 山本 | 2005/08/06 00:50

A級戦犯などと言ってる時点でおかしい。「東京裁判」を根拠にしているのだろうが、関係者のほとんどがその正当性を否定していると聞いた。なぜなら東京裁判自体が勝者の敗者に対する報復であり、戦場で苦しめられた事への復讐でしかなかったからだ。それを根拠に日本を非難するのは中国、韓国、そして自称良心的な日本人であるとも聞いた。しかも、「A級戦犯」とされた人達が戦争を起こしたように論じられているが、日米の戦争を望んだのは日本ではなくアメリカ、イギリスである。太平洋戦争に関して平和や人道に対する罪を問うならルーズベルト、チャーチル、トルーマンが罪を問われるべきである。前2者は開戦に対する罪、後者は原爆使用の罪である。それを、「A級戦犯」がすべて悪いとするのはいかがなものか?何も考えていない証拠としか思えない

投稿: 日本の味方 | 2005/11/27 16:52

[ 新改訂版 ] 靖国神社へA級戦犯の合祀

靖国神社へA級戦犯の合祀により昭和天皇はその後、靖国神社にご参拝されなかったとか???
先の大東亜戦争の敗戦で我が国国民自身が自虐的になっているようだが・・、

もしあの時点でアメリカと組むか戦争するかを選ばなければ、日露戦争当時の弱い帝国ロシアとは異なり、
強大なる戦力を整えるに至ったスターリンのソビエト共産主義と毛沢東の中国共産主義に、
我が国は侵略されてとっくの昔に共産主義化され[ 北朝鮮と同じに生き地獄をさ迷っていた ]と思うと背筋がゾッ~とする。

我が国は一連の戦争終焉を見据えて敵にアメリカという自由な国を選べば、例え負けても我が国は自由主義圏に取り込まれ、
戦後復興と強大な経済力と繁栄を享受できる。見事そうなったのだ。悪夢の共産主義化を究極のところ防いだのだ。

良くぞ自由な国アメリカに負けると知って開戦に踏み切ったものだと戦争指導者を称えたい。負けて勝つとは正にこれだ。
見てみたまえ勝ったはずの共産主義ソビエトの国家崩壊を・・、飢餓地獄の共産主義北朝鮮を・・、虐殺地獄の共産主義中国を・・。

我が国がアメリカの核兵器などによって早期終戦を迎えたことは大量の被爆者には誠に申し訳ないことだが、
結果的にソビエト共産主義に北方四島を占領されただけで、スターリンの我が国本土への戦争介入を防いだのだ。

その証拠として、米ソがまともに戦争介入した朝鮮半島が戦後は[ 南北に国家が分裂 ]した後、朝鮮戦争が勃発、
2年間に渡り[ 数百万人 ]もの戦死者、犠牲者がでるような最悪の不幸は、我が日本国では起きなかったではないか。

我が国は戦後その[ 朝鮮戦争景気 ]でぼろ儲けして経済復興を確たるものにする。正に勤勉勤労な強運国家の我が国である。
負けて勝ったとは正にこれだ。元を正せば物事の[ 本質 ]を誤魔化す朝鮮偽造品半島人の自業自得、天罰である(笑

ヨーロッパでは同じくドイツが戦後[ 東西に国家が分裂 ]し共産主義化された東ドイツでもやはり生き地獄と化した。
東西ドイツの統一後十年以上経ても、東ドイツの経済は、すでに自由主義圏の西ドイツと比べ未だに決定的な差がある。

このことから我が国のA級戦犯の方々とは、実は究極のところ我が日本のいや世界の救世主と言えるのではないか。
なぜなら我が国は自由主義国として戦後強大な経済力を持つに至り、これが東南アジア全体を国際的に非常に高め、
事実、東南アジア全体を世界の確固たるものにしたではないか。

我が国は欧米自由主義圏と組み実は軍事的に世界の共産主義化を防ぎ世界の[ 生き地獄化を防いだ ]のだ。
昭和天皇はこの意味でも、あるいはアメリカを恐れる余りか、大きな勘違いをしていたようだ。

戦後の米軍基地には仏教寺院ではなく、非常に多くの[神社]が奉られていることは皆さんもご存知だろう。
神社信仰とは欧米やアジア諸国を敵国とする宗教ではないことを欧米人は良く解っているからだ。

さすが世界を事実上支配する欧米諸国は自由主義圏を維持する防衛戦略の[ 本質 ]を解っている。
究極的に正に小泉総理の名言である『 政治とは物事の[ 本質 ]を見抜いているかどうかだ 』に尽きる。

投稿: 反中国流 | 2006/07/21 21:01

反論する気にならないひどく粗雑なコメントですが、こんな考えの人が小泉靖国参拝を支持しているのだなと、私のブログの読者に知っていただくために、あえて削除せずに残しておきましょう。

投稿: アク | 2006/07/21 21:38

最近見られるこういう判で押したような主張に、反論しても無駄ですが、ひとこと書いておきましょう。「反中国流」さんの書いたものに、大事な側面が抜け落ちています。あの戦争で、その時代の人々は、どんなに辛酸をなめたか、という点です。私たちの世代は、実感として、それを知っています。それを、いまや使い古された「自虐的」という言葉で、片づけることがはやっていますが、あのような時代を再び繰り返したくない、それだけは決して譲れない点です。昭和天皇は、そのことを自省を含めてよく分かっていて、靖国不参拝という抑制された行動で示したのでした。「反中国流」さんのような考え方をする人たちによって、またあの辛酸の方向へ時代の風潮が流されていくことを憂います。

投稿: アク | 2006/07/23 07:18

では管理人さんは全世界が虐殺飢餓地獄共産主義化されるのが理想だったのですか?

投稿: 反中国流 | 2006/07/23 13:01

こういう極端な議論、あれかこれかしかないという、をする人が、右の人に多いようですね。歴史も世の中も、そんな単純なものではありません。それにしても、天皇の靖国不参拝のメモがおおやけにされて以来、右の人はよほどうろたえているのですね。私が一年半前に書いた、古いエントリが読まれ、ブログのヒット数が急に増え、内容は別として、こんなに一生懸命ひとのブログに書き込みをする人まで現れる始末。しつこい繰り返しの書き込みゆえ、重複するものと見なし削除しました。新たに書くとしたら、追加部分だけをコメントに書いてください。

投稿: アク | 2006/07/23 17:09

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