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2005/02/03

恵方巻きから,日本人の文化受容について考える

 今日は節分。今年は全国的に「恵方巻き」が大流行らしい。関東の辺地である水戸でも、スーパーやコンビニで、太巻き寿司を大々的に売り出している。つい2,3年前までは、関東にはなかった習慣だ。コンビニがはやらせたといわれるが、こういう慣習を、易々と受け容れてしまう日本人の習性が情けない。「俺は関東人だ、関西の、聞いたこともない変な縁起担ぎなどやれるか!」と反発する人はいないのだろうか。

 はじめて「恵方巻き」のことを聞いたのは、10年近く前、京都に一年間住んだ時だった。節分の前の日と当日、あちこちで太巻きを売り、「恵方はこれこれ」と表示している。地元の人に訊ねて、その慣習をはじめて知った。でも、その人は、もともとはそれほど盛んに行われていたわけではない、最近のはやりは、海苔屋の陰謀ではないか、と笑っていた。その後、姫路に3年半ほど住んだが、そこでも見かけはしたが、今ほど誰も彼もが気にするほどではなかった。勤め先の職員食堂で、太巻きが定食としてでた時に、関西人の同僚から、詳しい説明を聞いた。

 家族全員が、暦で決まっている恵方を向いて、太巻き一本を、ものもいわず、もぐもぐと食べるのだそうだ。その図は、想像しただけで,ややグロテスクでいい感じではなかった。やはり節分は、豆を蒔き、大声で「鬼は外、福は内」と呼ばわりるのがいい。

 伝統的な風俗習慣を尊重するのは、いいことだと思う。しかし、伝統は、それぞれの地方の村落共同体の中で、親から子へと受け継がれるからいいのだ。都市住民が、聞いただけの習わしを取り入れてみても、仕方がないのではないか。故郷を失い、根無し草の都市流民となった大部分の日本人が、無機質な都市空間の中で、日本的風習を取り入れてみたい気持ちは分かるが。

 古い慣習は、一般には時代とともに廃れるものである。日本では、なぜかこのような民俗的慣習が廃れないばかりか、逆にひろくおこなわれるようになる傾向がみられる。自分の習慣に固執するのが習俗だと思うのだが、新しい風習を安易に受け容れる。この定見のなさの底には、個の確立のない、自己主張の足りない、日本人特有のメンタリティを見いだしてしまう。それが、多神教性に通じているのかもしれない。自分の唯一神に固執せずに、どんな神様も受け容れてしまう。それは文化の多様性を生むことになり、いい面でもある。しかし、自分はこれで行くという主張が、もっと強くあっていいのではないか。伝統の安易な受け入れは、伝統そのものを安っぽくしてしまう。

 何かで読んだことだが、日本では、文化は外から来るものであった。仏教の伝来から、文字を含む大陸文明を受け容れた古代文化のあり方。安土桃山時代における西洋文物の到来。明治維新以降の文明開化。戦後のアメリカ文化と民主主義の受容。それぞれの時代に、あまり摩擦なしに、むしろ非常に巧みに外来の文化を受け容れてきた。それが日本人という民族のあり様だった。

 ただ受け容れ方に深みがない。西洋文化は受け容れても、根幹のキリスト教精神は根付かなかった。民主主義を受け容れても、その根幹にある個の自立が曖昧であるため、特異な日本的民主主義に発展してしまった。

 恵方巻きから、こんなところまで論を展開するのは、やりすぎかもしれない。ともかく私はこだわって、太巻きを無言で一本など、やりたくないのである。

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コメント

恵方巻きはいけません。第一にあの太巻きを口につっこんでモノも言わずにもぐもぐやるのは、関西人の一部には似合っても、日本人の美学には反すると思います。私は関東人ではありませんが、江戸っ子の美学は一口で食べられるにぎりではないでしょうか?

投稿: 魔法使い | 2005/02/05 19:21

魔法使いさん
コメントありがとうございます。恵方巻きについては、テレビでも盛んに取り上げられていました。そもそもの起源を調べて放送しているチャンネルがありました。大阪の海苔屋さんがだいぶ以前(明治か、大正?)に、2月と8月は売り上げが落ちるのを何とかしようと、花柳界で行われていた慣習を取り込み、宣伝して広めたのだそうです。縁起担ぎをしがちな花柳界の風習が起源なのです。大阪商人の商魂に始まり、現代のコンビニ商略で浮上した怪しげな慣習に乗せられてはいけません。

投稿: アク | 2005/02/05 22:18

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