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2005/02/24

年金生活者の確定申告

 所得税の確定申告は、会計計算に疎い老人には、けっこうきついものである。不慣れな作業で緊張を強いられる。準備からはじめると、ほぼ一日仕事である。郵送されてきたはずの源泉徴収票などを、もれなく取り揃えなければならない。しまい込んで見当たらないとあちこち探したりする。やっと見つけてほっとする。どこから手をつけたらいいのか、前年のことを思いだそうとする。「手引き」を解読しながら、ぽつりぽつりと計算する。間違えないように、2度、3度と検算をする。下書き用紙の欄をひとつひとつ埋めていく。仕上げたものを、もう一度間違いないか見直す。そして清書だ。さらに証明書の類を裏に糊貼りする。封筒に入れてポストに出しに行く頃には、鼻歌の一つも唄いたい気分だ。やれやれ、今夜は乾杯だぞ。

 サラリーマン時代には必要なかった確定申告を、なぜ退職後の老人がしなければならないのか。やるたびに疑問に感じる。年金が社会保険庁から来るものと、年金基金から来るものと二つに分かれているからである 【これは間違いだと分かった。一番下の追記を参照のこと】。サラリーマンだった大部分の人は、それだけの理由で確定申告をしなければならない。年金の源泉徴収をどちらかで年末調整してくれれば、こんな労力をかけなくてすむのにと思う。だが、人任せはかえっていけないのかもしれない。朝日新聞は先日(05/2/21)の社説で、むしろサラリーマンも申告納税にした方がいいと主張していた。会社が源泉徴収し、年末調整をしてくれる現在の仕組みは、国のやるべき仕事を雇用者にさせ、国の手間を省きながら完璧に税金を取り立てるという、変則的なものだ。

 小なりとはいえ個人の経済活動は、自分の責任で行うという意識は大切だろう。納税もその重要な部分である。それをきちんと把握し計算し申告することは、自立した個人として当然やるべきことなのだろう。かつてアメリカで働いて給料をもらっていた時期があった。その時経験したのだが、確定申告(アメリカでは Income tax return という)は、働いて稼いでいるものの甲斐性を示す場のひとつ、という印象を受けた。みんなしゃかりきになって取り組む。必要経費に何を計上できるか、そうすれば税を少なくすることができるか、など平素から情報を交換しあったりする。取られっぱなしではなく、自分の工夫でできるだけ節税し、自分が納得できる税金しか納めないという意識は、日本に比べて非常に高いように思えた。アメリカでは、みな納税者であるとの意識をしっかり持っている。納税者として政治に関心を持つ。政治家は、taxpayer への責任を意識しながら、政策を議論する。日本のサラリーマンは、朝日の社説が言うように、源泉徴収されているため納税者という意識を希薄にされている。

 確定申告書を記入しがら、手引き書に従って計算するときに、どうしてこういう金額を引いたり、率を掛けたりするのか考えさせられる。そのことから課税の理屈がある程度分かる。たとえば、「収入金額」(年収)がそのまま課税対象額になるのではなく、2段階で引き算がある。後段の社会保険料控除や基礎控除などは、わかりやすいが、収入金額から引いたり掛けたりして「所得金額」を出す前段は分かりにくい。手引き書の公式通りにやれば、金額が計算できて、それでいいのだが、どうしてそのようにするのかを考えてみると、うなずける部分と納得のいかない部分とに気がつく。

 私らのように年金だけしか収入のない場合、どういう風になっているのだろうか。自分の分だけでなく、全体像にも関心を持って調べてみた。「収入金額」から「所得金額」を計算する際、65歳以上では、まず140万円が差し引かれる。さらに第2段階で、基礎控除38万円と、老年者控除50万円が引かれる。だから、課税されるのは228万円以上の年金をもらう人だ。社会保険料も控除されるから限度額はさらに5万円から10万円程度上がる。65歳以上で月20万円未満の年金生活者は非課税だといえる。まあ納得。ところが65歳未満だとだいぶ違う。所得金額を計算する際、140万円差し引きのところが、70万円しか引かれない。さらに老年者控除がない。だから108万円以上の年金をもらうと課税対象になる。社会保険を5万円としても、月額10万円以上もらう人は税金を納めなければならない。この65歳を境にしての課税の大きな違いの根拠は何なのだろう。よく分からない。65歳未満の人は働いているはずだから、その上で年金をもらっているなら、その分はそれほど控除しなくてもいい、というのだろうか。

 「所得金額」を計算する際には、単に140万円なり、70万円を引くだけではなく、ある率を掛ける、収入額によって掛け率が変わり、下から1.0→0.75→0.85→0.95と変わるのも不思議だ。一番下は額が少ないからそのまま、次には25%を割り引くが、その率を段々小さくしている。税率とは別にここにも累進課税的な考えがあるのだろうか。それにしても誰がこんな数字を、どんな根拠で作っているのだろう。

 来年から老年者控除が無くなる。課税下限が180万円程度まで一気に下がり、課税されている人は、5万円ほど税額が上がる。これは大きい。老年者はけっこう金があるとか、税で優遇され過ぎている、という間違った世代間ギャップ論が後押ししたのか、何の抵抗もなく通ってしまうようだ。一番の被害者は、月に15万円から20万円程度でなんとか家計を支えられている年金生活者層だ。一部には豊かな人たちもいるのだろうが、制度改革で打撃を被るのはギリギリの線の人たちだ。

 国税庁のホームページに行けば、数字を入力するだけで、計算を自動的にやってくれるという。もともと確定申告を計算してくれるソフトはある。けれども、一段階ずつ計算してみるということは、きついけれども、税を考えるいい機会になると思う。私は実験物理をやっていた。測定器でとったデータを、グラフ用紙に一点ずつプロットしたものだ。最近は測定機器が自動化されて、出力装置からグラフ化されたデータが出てくる。それは労を省いてくれるのだが、実験者として必ずしもいいといえない。一点ずつデータ点をグラフに書き込むとき、それをしながら考えることになる。このデータ点が上がっているのはどうしてか、データ点のばらつきは正常か、変だぞこのピークは、などと。自動化されて出てくるデータは、一見きれいで完成度が高く見えてしまう。しっかり考えずに飲み込んでしまうことも多い。ワープロで書いてプリントしたものは、誤字や変換ミスに気づきにくい。また完成したように思ってしまって、文章を考え直すことを忘れがちになる。それと同じでパソコンで数字を入力するだけで、結果を出してくれるソフトや国税庁の計算支援プログラムが必ずしもいいとはいえない。やはり苦労しながら、税金は計算するのもためになる。

 ただし、歳とともに頭がぼけて、細かい数字作業がしんどくなる。身体も頭もしっかりしていて、個人として自立できる限りはいいのだが、段々わけが分からなくなってくると、どうしたものか。先行きは心配である。

【05/2/24追記】書いて一風呂浴びてから、良く見直してみると、間違いがあった。年金を二口からもらっているから確定申告が必要なのではなく、社会保険庁だけからの場合でも、課税されるだけの年金額をもらう人は、申告が必要なのだ。これは、社会保険庁が年末調整をしてくれないからである。
 一つ書き忘れたことも追記のついでに。年金は所得の区別上、「雑所得」と呼ばれる。私らは、まともな収入ではなく、「雑」収入で食っているのである。

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コメント

年金生活を三年間してきたけど、去年から癌・心筋梗塞などになり、体が疲れ、一人暮らし生活のため、先々生きる目的がなくなったのです。いつでも自殺したいのですが。年金だけでは、費用がかかるからです。

投稿: 岡安一雄 | 2007/02/03 05:18

岡安さん、年金、ひとり暮らし、病苦、生活費に加え、医療費をどうしよう。想像に余ります。この状況の中で、何のために生きるか。私には答えがありません。国や自治体の制度のこと、地域のこと、家族のこと、そして自分の生涯のこと、ひたすら考え、生きる意味を問いつつ、耐えていってください。耐えて、粘って、また耐えて、とことんの果ての、自然死、孤独死、憤死?・・だっていいじゃあないですか。

投稿: アク | 2007/02/03 11:31

一昨年の3月に65才で定年退職してその年は失業保険が有り年金と合わせてなんとか生活できましたが昨年は年金
だけでは足りず求職活動しましたが66才では難しくやっと6ヵ月の契約の仕事につけました、 年金と合わせると総額で210万4千円になりますが確定申告はしなくて良いのでしようか?

投稿: 小松良生 | 2012/02/22 15:26

小松良生さん

私には分かりません。

年金分に源泉徴収で課税されている場合、確定申告をすると戻ってくる場合があります。今の時期、税務署その他に相談窓口が開設されていますから、源泉徴収票などを持って相談に出かけたらどうでしょうか。

投稿: アク | 2012/02/22 17:58

有難う御座いました、相談に出かけてみます。

投稿: 小松良生 | 2012/02/23 15:27

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