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2005/05/05

氷は、気象の大変動を警告している

 グリーンランドの氷を、2マイル(3.2キロ)の深さまでボーリングし、地球の過去の気象変化を11万年前まで調べた。その当事者が書いた本『氷に刻まれた地球11万年の記憶』(リチャード・B・アレイ著、ソニーマガジンズ、2004年刊)を読んだ。

 怖いことが書いてある。氷に刻まれた過去の気象履歴が明らかにしたのは、地球の気象は大暴れしていること、またそれが異常ではなくむしろ当たり前だ、ということである。現在の穏やかな気象は、むしろ希有なものであって、次の大暴れがいつ始まっても不思議ではない。変化は、突然やってきて、短期間に非常に大きな変動が起きる。何世紀もかかって、というようなゆっくりした変化ではない。何十年でもなく、何年間というスパンで、巨大変化が起きるという。

 人為による地球温暖化問題が問題になっている。それは、1世紀かけてじわじわと温度が1度上がるかもしれないという程度の現象だ。それでも大変なことで、海面が何センチ上昇して、どうなるかが問題になっている。ところが、気象変動はもっと急激なもので、ある時突然、2,3年のうちに、平均温度が、5度とか10度とかジャンプし、その変動が行きつ戻りつし、そのあげく、それがそのまま何百年も何千年も居座るという具合の変化であったらしい。突然氷河期がやってきて、北半球が氷で覆われる。そんな時代が来るというのである。

 この急激な気象変化からすると、地球温暖化問題などどうでもいい、ということではない。何が急激な気象変化の引き金を引くか、まだ十分に分かっているとはいえないが、ある程度見当がついてきている。それによると、地球温暖化が、急激な気象変化のきっかけになる可能性がある。地球温暖化問題は、ここに明らかにされた急激な気象変化の観点から考える必要があると著者は主張している。

 グリーンランドや南極には、氷が何キロもの厚さで積み重なっている。毎年冬には多く雪が降り、夏はあまり降らない。その繰り返しのために、氷を深さ方向に見ると、年輪ができている。暖かい年は雪のつもり方は少なく氷の層は薄い。寒いと逆になる。樹木の年輪と同じである。氷の層は下の方へ行くほど、上の氷の重みのために押しつぶされ、横方向に流れる。このため深いところの氷ほど年輪の繰り返しは細かくなっている。それでも、グリーンランド中央部のように平らな地面の上にある氷は、長い期間にわたる気象変化の歴史を、非常に細密に残してくれている。

 大きな建造物を建てる前に行われるボーリング調査と同じような機械が使われる。これでグリーンランド中央部で、長さ2マイル(約3200メートル)の氷の柱が掘り出され、入念な調査が行われた。その結果、過去11万年にわたる降雪量の変化と気温変化が分かった。特に大きな温度変化があったあたりは、詳しく調べられた。10万年間の温度変化が、下のグラフである。もっと詳しく見たグラフもこの本に出ている。大きな変化の前後では、短期間に大きな振動が起きているのが特徴だ。

050505Ice

 氷河期が約一万年少々前に終わったことは知られている。その最後の頃の気象変化はまことに激しかった。著者は、酔っぱらいがよろめき歩くように、気象が変化した、と表現している。氷河期が完全に後退したのかと思うとまた戻ってくる、そんなことが何十回もくりかえされたらしい。それが完全に終わってから現在までの一万年は、気象が安定している。人間が農業を行い、産業を興し、文明を発達させてきたここ2,3千年の比較的穏やかな天候は、過去の地球の歴史の中で例を見ないものだった。

 この穏やかな天候になれきっている私たちは、めちゃめちゃな跳躍をくりかえす気象が「正常」であって、この「穏やかさが異常」なのだということを信じられない。しかしグリーンランドの氷は、やがて、大きな変動の時期が来ることを警告している。

 この方面の知見は最近急速に進歩したようだ。1950年代には、大きな温度のブレは、1万年ぐらいかけて起きるとされていた。70年代にはそれが数千年かけて、となり、80年代には数百年だとなり、ここ10年の研究で、10年足らずで気象の劇的変化が起きていることが分かった。

 なにがそのような劇的な変化を起こすか。まだ十分には解明されていない。モデルを立て、仮説を入れて、計算してみて、それをデータと比べる、というような研究が進んでいる。一つの仮説は、地球規模の海水の流れである。ベルトコンベアーのような海水の循環ルートがあるらしい。熱帯で暖まった海水が大西洋を北上し、グリーンランドの近くまできて、冷えて重くなり、深海に潜り込み南下する。そのまま南極周辺を経て、インド洋や太平洋まで来てから、深海から浮かび上がってくる。そんな循環が提案されている。このベルトコンベアーは今のところ正常に動いている。ところが、北太西洋に流れ込む河川で大規模な洪水が起きるとか、温暖化でグリーンランドの氷が溶けるとかすると、北大西洋の表層の海水は真水化する。真水は塩分濃度の濃い海水より軽いから、海水の潜り込みが停まってしまう。地球全体の海水循環が止まる。北大西洋に暖かな熱帯からの海水の供給が途絶え、ヨーロッパや北米が寒冷化する。そんな仕組みが一つ考えられている。同じようなメカニズムがいくつかあるらしい。それらが相互に引き金を引き合い、正のフィードパックとなって、大変動が起きるらしい。

 今のところまだ分かっていないことが多い。しかし、氷に残された気象変動の爪痕は、将来確実に、大きな気象変動が起きることを予告している。それがいつであるかは分からない。何百年もこないかもしれない。突然くるかもしれない。人為による地球温暖化はその引き金を引くかもしれない。大きな気象変動は、社会に甚大な影響を起こす。世界大戦どころではない大混乱を起こすだろう。資源確保をめぐる国家間の争いを引き起こし、富める国は生き残り、貧しい国は滅びることになるだろう。氷は深刻な警告を発している。

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コメント

こんばんは。
この本を読んでいませんが、疑問が湧いてきます。

グリーンランドの気候変動が、地球全体の気候変動と同じかどうか、疑問です。
考古学のほうでは、熱帯地域では、氷河期も比較的温暖で、現在の気候に近かったのでは・・・という研究もございます。
そもそも、グリーンランドは、樹木がほとんど生えず、砂漠同様に、気候の変動の幅が、温帯や熱帯よりも、かなり大きいのではないかと思うのです。(写真集: http://cortex.informatik.tu-ilmenau.de/~schauer/privat/photography/GREENLAND/Mellemlandet01.htm (借り物))

また、グリーンランドの氷の厚さだけから、寒暖を占うのは、素人でも疑問です。
日本の南極観測隊が、南極の氷床コア中の気体分析をしていますし、海洋や湖底の堆積物の分析も参考にして、グローバルに考察したいものです。

地質の分野でも四月に、ある地質学者?が、トバ湖巨大噴火を予言し、生物死滅の可能性を真に受けた日本のブロガーが、かなり不安に陥っていた様子でした。
ちょうど法王危篤のおりの事です。

浜岡原発の「立地」なども、人々の不安が、結果的に在地宗教団体を潤す仕組みに・・・・。

今の政治の水準では、少しの気候変動でも、戦争の口実にされそうですね。
これまた、宗教団体に益・・・

投稿: U-1 | 2005/05/08 00:14

紹介には書きませんでしたが、気象変動についえてはさまざまなデータが蓄積され、グリーンランドは、その一つに過ぎませんが、いい記録になっているようです。本書の結論は、読んでいただけば分かりますが、総合的にバランス良い見地から書かれていると思います。ここ十年、これがほとんどの古気象学者のコンセンサスになっているようです。

投稿: アク | 2005/05/08 07:57

上記メッセージの発信者は、アクです。

投稿: アク | 2005/05/08 08:09

旧石器時代の気候を勉強して、ヨーロッパの遺跡を巡りたいと思います。ありがとうございました。

来る変動期の日本は、強烈な火山噴火に曝され、またも、[無人状態」になるのですね。宗教も消し飛ぶ凄まじさ。

投稿: U-1 | 2005/05/08 21:56

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