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2005/06/30

ITER断念、夢に踊らされ過ぎの報道

 核融合実験炉ITERの日本誘致断念について昨日(6/29)いくつかの新聞が社説を書いている。それを読んでいて、日本の科学ジャーナリズムの薄っぺらなことに、いまさらながらあきれてしまう。巨大科学技術計画となると、ジャーナリズムはどうしてこう夢に踊らされてしまうのだろう。

 技術の可能性をどう評価するのか。技術的に可能でも、経済的に実現可能か。可能かつ必要だとして、どの程度のタイムスパンで考えるか。限られた研究資源を、どの程度注ぐのが妥当か。競合する技術的選択肢(核融合はこの磁気閉じこめ方式だけではない)との間で優先順位の見通しがついているのか。国にとって本当に優先順位が高い研究課題なのか。その他もろもろ考えるべきことがあるだろう。推進当事者のもろもろの主張を、そのような視点から厳しく批判していくのが科学ジャーナリズムの役目だろう。それが、こういう話になると、途端に甘くなるのはどうしてなのだろう。

海水から無尽蔵のエネルギーが得られるなんて この件についての各紙の社説は、いずれも似たようなものだが、代表例として日経をあげてみよう。こんな調子である。

 原油相場が最高値を更新する最中の(ITER建設サイトの)決着は、究極の石油代替エネルギーを目指す計画の意義を再確認することにもつながろう。人類の英知を結集して無尽蔵のエネルギーを手にするという計画の原点を忘れずに、参加国が協力して着実に開発を進めてもらいたい。
 核融合の実現は人類の悲願である。世界的なエネルギー需要の高まりで石油資源をめぐる覇権争いが強まり、紛争の火種になる恐れも高まっている。これをしのぐには当面は原子力、それに太陽や風力など自然エネルギーの開発・利用しかないが、代替エネルギーの本命は海水中に無尽蔵にある燃料を利用できる核融合だろう。もめ続けた立地問題が決着したのだから、参加国は目の前の国益や打算にとらわれずに悲願達成に向けて一致協力するよう望みたい。

 ほかにも「核融合炉は地上の「ミニ太陽」だ。実現すれば無尽蔵のエネルギーを取り出せると期待される」(読売)、とか、「ITERは海水から無尽蔵に得られる重水素と三重水素を燃料として核融合反応を起こし、膨大なエネルギーをつくりだす原子炉だ。このため核融合は「夢の原子力」といわれ、実現が待望されている。」(産経)とか、おめでたい。

目標を次々に延ばしながら、巨大化してきた研究計画 核融合の研究が始まったころ(1950年代)は、たしかにそんな夢に踊らされ、先進各国が、かなり規模の大きな研究開発体制を組んだ。関係者は、あと十年たてば、見通しがつくと、ずっと言い続けた。「あと十年たてば」が核融合研究者の口癖だった。それで50年余りやってきた。やがて分かったことは、とてつもなく大きな装置(巨大な磁石、巨大な真空容器)を作り、それに大きなエネルギーをつぎ込めば、つぎ込んだよりは、多少大きなエネルギーを生み出す、したがってエネルギー生産装置として成り立つ「かも」しれない、ということだ。これはまだ実証されていない。それを実証しようとITERが計画された。その段階になったのが20年前。設計や部品の開発に10年程度、その設計では、金がかかりすぎだといわれ、極力安くなるよう設計し直したり、どこに建設するかの国際交渉に約10年。そしてやっと今回の合意。このあと、順調に進めば、2008年に着工し、2016年に完成する。それから約20年運転して見通しを立てる。その先のことは誰も知らない。

ゆっくりやればいい、それを醒めて見ている必要 まあ、こんな具合に、ゆっくりペースで進んでもどうということのない、遠い将来、ものになるとすれば、エネルギー源として実用化されるかもしれない、という程度の開発分野なのである。それを、海水から無尽蔵のエネルギーが得られる、などというあまりに馬鹿馬鹿しいキャッチフレーズでもてはやし、巨費を投じるのは、どういうものか。良識ある(はずの)ジャーナリズムの中から、もう少しニュヒテルンな(酔っぱらっていない、しらふの)批判の声が聞こえてきてもいいと思うが。

アメリカでは冷めている アメリカは、とうの昔に、核融合については冷たくなっている。アメリカは実用と必要性が見えてきたものについては、資源を集中して、ほかのどの国にも出来ないような開発をやってしまう国だ。戦中の原爆開発のマンハッタン計画、人間を月に送ったアポロ計画、技術的困難に何度か遭遇しながらも進めているスペースシャトルによる宇宙開発などを見れば、それがわかる。そのアメリカが、核融合に関しては、すごく冷たいのである。今度決まったITER計画では、資金の1割を負担することになるが、その予算が米議会で承認されるかどうかわからない。アメリカでは国費の投入が納税者に説明できるかどうかについて、きわめてシビアであるため、短期的に成果が目に見えてくる計画でないと取り上げられない。科学者は、一般人に説明責任を負っている。それが民主主義国だ。

ヨーロッパの事情 では、ヨーロッパでは、どうしてITER誘致に熱心なのか。私はその事情を正確には知らないが、推察することはできる。ヨーロッパは科学の本流意識が強い。それでいてアメリカの後塵を拝することが多く、何かでアメリカを追い越したいという動機が、このような巨大計画を動機づける。巨大科学技術計画は、産業界への大きな投資を伴う。ヨーロッパの技術を押し上げるとの期待は支持を得る環境にある。ヨーロッパは伝統的に科学には強いが、工学が遅れている。基礎指向の学問的伝統があるからだ。ここ数十年、ヨーロッパ各国は意識して、学問のための学問より、実用のための学問を重視しようとしてきている。産学協同がアメリカや日本ほどうまく進まないことを、なんとかしようとしてきている。核融合分野の巨大計画は、その目的を達するか否かは別にしても、ヨーロッパの産業に、大きな波及効果をもたらすと期待しているようだ。

核融合と官僚主義の親和性 ヨーロッパでは、各国の科学技術政策と並行・重複して、EUとしての科学技術政策が走っている。大きな計画はほとんどEUレベルで進められる。EUの研究開発計画は、かなり官僚主義的に動いているような噂を聞く。科学技術に限らず、フランスの政治的決定は、官僚に主導されている。アメリカが一歩も二歩も退いてしまった核融合の分野で、英仏の研究は先端を走っている。その分野の科学者たちが、ヨーロッパ政治の風土の中で、官僚たちと手を組んで、この計画を押し上げるのにうまく成功したように見える。官僚も科学者も、現在のヨーロッパのエネルギー事情からして、出来るだけ早く核融合を実現しなければ、と本気で思っているわけではない。そして他分野の科学者たちの声は、あまり聞こえてこない。ヨーロッパの官僚主導の計画推進に、半ばあきらめ顔なのかもしれない。このあたりは日本の研究開発も似たような体質を持っている。

ヨーロッパでの報道 ヨーロッパでは、この件はどう報道されているか。BBCを見ただけだが、計画を手中に収めたヨーロッパ側だから、おめでたい方向に傾き、地球温暖化につながらないエネルギー源として核融合を推奨するなど、研究推進側の意見を中心に書いている。しかし他方では、2080年になってやっとものになるかもしれない計画に巨費を投じるより、現時点で社会が必要としている計画はいっぱいあるとの反対論も紹介している。ここでは、NYTのパリ支局からの報道を引いておこう。また、フランスでの Le Monde の報道を余丁町散人さんのブログが紹介している(「欧州は日本から熱核融合炉を奪い取ったが、バカ高く付いた」

日本の科学ジャーナリズムよ、しっかりせい 以上、この分野の素人の私ですら、これだけ問題を感じるのに、大新聞の科学担当記者たちが、核融合となると、全く幼児をだますような夢物語に安易に乗ってしまい、それを読者に向かって垂れ流してしまう、とはどういうことか。日本の科学ジャーナリズムのレベルの低いことに、あきれてしまう。

核融合の将来、私見 核融合の研究開発が必要な時期が来るかもしれない。それは早くて50年後、百年後だろう。それまではもっと小規模の、基礎的研究を進めておけばいい。現在のような馬鹿力を使って核融合をねじ伏る、というような進め方ではなく、もっとスマートなやり方が、今に出てくるかもしれない。それまで待てばいい。何かいいアイデアが出て、局面が変わらない限り、今の行き方には何か無理がある。直感的だが、私はそう思っている。核融合は何か不自然な技術を強引にものにしようとしている。核融合は自然の摂理に沿わない。こういうものはたいていうまくいかない。

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コメント

アクさん、わかりやすい記事をありがとうございます。

私が小学生のときから「夢のエネルギー」でしたからね。

原子爆弾による被害以来、放射性物質を拒絶する感情が底に流れているから「バラ色」報道を受け入れてしまっているのかもしれません。

投稿: Shira | 2005/07/02 22:48

Shiraさん、読んで、感想を書き込んでいただいてありがとうございます。空(くう)に向かって書いているような気がする中で、このようなコメントをいただくと励みになります。何度か書いていますが、ブログを書くことは、自分の考えのまとめとして、十分に意義はあるのですが、やはり読んで理解してくださる方の存在はうれしいです。

ところで、核融合だって放射性廃棄物は残ります。それも大量に。ただし、原発の使用済み燃料やそれを処理したあとの高レベル廃棄物のように何万年もの長寿命のものではない点が違う点でしょう。

私は原発からの廃棄物は、制御可能と受け容れる考えです。

投稿: アク | 2005/07/03 15:23

私は別の心配をしています。
地球が耐えられるエネルギーの総量には、限界があるのではないかと。その限界値を越えたとき、一気に臨界に達し、地球環境は崩壊するのではないかと。
仮に核融合炉が実用化し、無尽蔵のエネルギーが取り出せたとして、そのとき、果たして地球は耐えられるのだろうか、、、

投稿: 安孫子です。 | 2005/07/04 10:34

安孫子さん、ブログを読んでくれているのですか。

ところで、「地球が耐えられるエネルギーの総量」とは、面白い考え方ですね。太陽から来るエネルギーと、地表から放射されて宇宙に戻されれるエネルギーとのバランスで、地表の平衡温度が決まっているわけですが、人類がエネルギーを使うことで、そのバランスはたしかに影響を受けるわけですが、人類が使うエネルギーそれ自体による温暖化よりも、炭酸ガスなどの温暖化ガスで、宇宙に放射される分が戻されている効果の方が、今のことろ大きいようです。無尽蔵になったからといって、コストが高いでしょうから、急に多量に使うようになるわけではないでしょう。
温暖化ガスの放出や、森林資源の減少、砂漠化の進行などさまざまな原因で、いずれ地球は住みづらい環境になる時期は確実に来るでしょう。それがいつか、数千年後か、何万年もあとか。

投稿: アク | 2005/07/04 11:10

明日かもしれませんよ。
あふれ出すには多量のエネルギーがいるでしょうが、均衡を崩すのは、一滴でも。

特に危ないと思っているのは、風力、太陽熱、波力など、自然エネルギーを利用するクリーンといわれる発電です。家庭で行うには良いでしょうが、サハラの熱を吸い取ってしまったり、ジェット気流を利用したり、黒潮の流れを利用したりと、産業で利用できるほどの大量エネルギーを使い始めたら、地球環境は一気に崩壊するかもしれません。

だからといって、何をするわけでもなく、ただ漫然と生きているのみですが(^^;

投稿: 安孫子です。 | 2005/07/04 18:26

地球の環境が危ういバランスの上に成り立っていて、ちょっとしたひきがねで大変動を引き起こすかもしれないと言われています。以前氷のボーリング結果から、そのようなことを予言している研究者の説を紹介したことがあります。

太陽熱などを利用するクリーンエネルギーが、かえって地球のバランスを崩すと反対している人もいます(槌田敦など)。私は彼の説はよく検討してみたことはないです。クリーンエネルギーも過度にやりすぎると(たとえば、サハラ砂漠の相当部分を太陽電池で埋めるとか)自然のバランスをかえって乱してしまう、ということなのでしょう。

投稿: アク | 2005/07/04 19:55

核融合のことはよく分からないけれども、我々は核融合 Power Plant をすでに太陽に持っていて、あと50億年くらいは燃え続けるでしょう? だから地球上には核融合工場は必要ないでしょう? 人間は太陽エネルギーの1%くらいを使っているが、これを半減には出来ますね。それも技術。核エネルギーは静電エネルギーだから、素粒子レベルの二重層Capを作りましょう。 トカマクよりずっと簡単だと思いますが、、、

投稿: 宇都宮 | 2007/08/13 18:01

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