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2005/08/17

国際宇宙ステーション、アメリカはやめる気だ

 ニューヨークタイムズ(NYT)が05年8月14日の社説で「宇宙ステーションは必要か」と論じている。宇宙ステーションとは、国際協力で進められている「国際宇宙ステーション(ISS)」のことである。こういう社説を読むと、日本の常識では、政府が進めている計画を、マスコミを代表者とする世論が、止めよと主張しているように見えるのだが、この場合、そうではないだろう。ISSを止めたがっている米政府(NASA)の意向を汲んで、NYTが、国際世論つくりを手助けしていると、私には読める。

 ISS計画は米政府にとっても、米国宇宙開発関係者にとっても、とうにお荷物になってきている。ISSを続けている理由として、社説では二つをあげている。一つは、国際約束があるから。もう一つは、今後の宇宙開発に有益な科学技術上の知見を得ることである。国際約束に関しては、もう果たせそうにないし、関与する国(15パートナー)も予算事情からして、中断を歓迎するのではないか。科学的知見に関しては、計画の変更・縮小により、ほとんど見るべきものがなくなっている。

 それに対し、計画を続けるために必要な経費は巨額にのぼる。また計画続行のための技術的状況が、スペースシャトル技術の現状からして、難しくなっている。協力相手国と話し合って、やめることにした方がいい、というのが、社説の主張だ。これは、おそらく米政府やNASAの首脳部の考えていることだろう。

スペース・シャトルは限界に来ている ISSは、これまで750億ないし800億ドル(およそ8兆ないし9兆円)かけて、骨格部分の打ち上げと組み立てが終わっている。この部分に連結して実験を行うための実験モジュールなどの打ち上げはこれからである。計画通り完成するには、スペースシャトルが、何度も設備・人員の輸送をしなければならない。ところが、シャトルがあのざまである。シャトルが5機健在のころはまだよかった。チャレンジャー(1986年)、コロンビア(2003年)と、2機を事故で失い、今回のディスカバリーの飛行でも、問題点が明らかになり、今後引退時期とされる2010年までに、どれだけISS計画にシャトルを使えるか、不明である。少なくとも21回のシャトル運航が必要とされているが、15回がせいぜいだとNASA関係者は表明している。

NASAの及び腰 今回のコロンビア打ち上げでも、打ち上げ時の断熱材のはく離が明らかになるやいなや、NASAの責任者は、対策がとれるまでは、次のシャトルは打ち上げないと及び腰の声明をだした。彼らとしては、あまり続けたくない、という空気がみえみえであった。

アメリカは、やめたいのだ ブッシュ大統領は、これまでの宇宙計画を継承するより、新しい計画をスタートしたがっている。火星や再度の月への有人宇宙飛行計画である。国際約束に縛られて、ISSを仕方なしに続けてはいるものの、計画は大幅に遅れ、縮小を余儀なくされている。このあたりで見切りをつけて、別の計画に資金を振り向けたい、というのがアメリカの本音だろう。ここでやめれば、400億ドル(4.5兆円)の節約になる。日本の官僚機構と違って、アメリカは巨大プロジェクトを中断することをちゅうちょしない(日本では始めたものはやめられない、原子力船むつや、核燃料サイクル、諫早湾干拓事業などがその例である)。国際約束からさえ自由になったら、手を引きたいというのがこの社説のねらっているところだろう。

日本もやめた方がいい 日本は、ISS計画に深く関わってきた。実験モジュール「きぼう」(3000億円超の予算をかけて、完成してアメリカに輸送済み)は、たぶん打ち上げできないだろう。それをつなぐためのステーション部分が見送られている。日本の実験モジュールの打ち上げの対価として物納することになっていた、セントリフュージ(遠心力を使って、無重力ではなく、少ない重力下での生物影響の研究設備)の計画は見送られている。野口さんの帰還後の談話は、宇宙ステーション滞在宇宙飛行士になりたい、との趣旨だったが、それもかなうまい。日本も計画中断に賛成する時期ではないか。金食い虫に付き合うよりも、もっと有効な宇宙開発プログラムに転向した方がいい。

参考資料:「さらに縮小、見えなくなった有用性」、NASAが国際宇宙ステーション計画見直し(松浦晋也)
関連する私の書いたもの:野口宇宙飛行士にばかり注目するアホな報道(05/7/27)
スペース・シャトルはいらない(03/2/11)

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コメント

 はじめまして。
日本人クルーの訓練と搭乗のために
日本はいくら支払っているのでしょうか。メディアは報道しませんね。
ご存知でしたらご教授ください。

子どもたちの科学への夢を宇宙開発へ収斂させる風潮が気に入りません。スペースとユニバースを意図的にか混同させる手口も変です。

投稿: 布村 建 | 2005/08/31 08:19

布村建さん、はじめまして。
関心を持っていただいて、ありがとうございます。
訓練や搭乗のためにいくら払っているか。分かりません。そのあたりまで詳細な情報は公開していないのでしょう。報道や資料で見たことがありません。ひとまとめにして、国際宇宙ステーション(ISS)についての日本の負担は、6千億円とか、1兆円とかいわれています。その中に、日本人宇宙飛行士の訓練費(総額に比べたら少ないでしょうが)や日本人搭乗のシャトル打ち上げ費が入っているのでしょう。シャトルの打ち上げ一回に600億円かかるといわれています。その何分の一かは日本がもっているのでしょう。一番金をかけたのは、宇宙ステーションに連結する実験室({きぼう」と名付けられています)です。3000億円を超える資金が投じられて、完成し、すでにアメリカに送られていますが、いつ打ち上げられるか分かりません。これを打ち上げてもらうための費用は、現金ではなく、ステーションで計画されている実験装置の建設費を日本が負担することでチャラにすることになっていました。その計画をアメリカがやめようと言い出したので、ますます「きぼう」の打ち上げの見通しが立たなくなっているようです。

とにかく、有人による宇宙開発はとてつもなく金がかかります。それを脇に置いて、夢や希望だけを誇大に吹聴するのはやめた方がいいでしょう。もっと現実的に資金を必要とする国家事業は多々あり、科学技術の別の分野で、子供たちが夢をもってほしいことが多種多様にあります。

投稿: アク | 2005/08/31 21:27

宇宙時代に人類のチェンジは続くかもしれない ロケットエンジンを核融合にして球状の燃焼であらゆる方向に出力を変えられる しかもコンピューター制御で垂直離発着で好きな方向に飛んでいける ような宇宙船が開発されると火星開発も実現が早いかもしれない 人類は宇宙との飽くなき戦いは人類が始まって以来決まっていたのかもしれない

投稿: 増田二三生 | 2008/07/30 00:51

宇宙時代にスクラムロケットエンジンの開発は未来の大企業になるかもしれない つまり安く便利に宇宙輸送が可能なら大発展するはずである スクラムロケットエンジンの飛行機と小さい燃料タンクのシャトルで未来をリードできるかもしれない

投稿: 増田二三生 | 2008/08/01 00:24

増田二三生さん

3年も前に書いたものへのあらためてのコメントで、書いたものを読み直してみましたが、私の書いたことをあらためる必要は感じませんでした。

コメントは、私の趣旨に直接関係ないもののようですし、わけの分からない部分もあります。一応公開しておきますが、これっ限りにしていただけますか。

投稿: アク | 2008/08/01 08:15

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