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2005/09/04

小泉首相に感じるアンビヴァレンス

 小泉首相が登場して以来、彼の政治行動に、アンビヴァレント(ambivalent: 両義的な)感をいだきつづけてきた。改革を推進しているようでいて、改革を停滞させている面がある。自民党をぶっ壊しているようでいて、自民党を長持ちさせる役割を果たしているのではないか。政策は核心をついているようでいて、じつはボケている。人事が巧みなようでいて、ポカもある。アメリカ一辺倒の外交は、その点で成功している反面、アジアとは最悪の状態を作ってしまった。一番大事な点は、官から民へ、とスローガンはいいのだが、実際には官の役割を強め、肥大化させてきた。

 アンビヴァレントとは、人やものごとに、相反する感情や考えを同時にいだくことである。この世、人々も、ものごとも複雑に絡み合っているから、評価がアンビヴァレントになるのはある程度当たり前ではあるが、この人ほどアンビヴァレント感をもたされる人は珍しい。明確な主張を持ち、黒白がはっきりしている印象を与えるだけに、一層そう感じるのだろうか。

気分的には支持だが、郵政はそれほどの問題か 小泉首相は思いきったことをやる人である。今回の解散は常識破りだったが、それを決断力・行動力があり、いさぎよいと、好意的に受け止めている人が多い。郵政の是非を唯一の論点として、その是非を問うのだという。これには無理があると、また多くの人が感じている。そこにアンビヴァレント感がある。郵政がそれほど重要な課題であるのか、分からないし、郵政改革法案が成立しても、実際どれほど変わるのか、それがその先の改革にどうつながるのか、道筋が見えない。もっと大事な問題があるじゃあないか。問われれば、ほとんどの人がそう答えるだろう。しかし、小泉人気は高まっている。わけは分からないが、それほどまで執念にこだわるところが、これまで見慣れてきた妥協・談合の政治家と違うと、さわやかさを感じている。そこにアンビヴァレント感がある。

賞味期限の切れた自民党政治 在来の自民党政治はこうだった。さまざまな政治的利益に結びついた集団を選挙基盤として自民党政治家が選ばれる。彼らは選出母体の利益を代表し、いわゆる族議員となる。同時に地元に利益を誘導する。族議員と官僚が手を組む。行政の細部に通じ実権を掌握しているエリート官僚集団と自民党政治家がネットワークを組み、あらゆる業界の利害を調整することで、日本の政治と行政が回っていた。いわゆる政・官・業の癒着体質である。ある時期までは有効に働いてきたこの日本独特の政治行政システムは、高度成長期が終わり、バブルがはじけたあと、欠点を露呈した。数々の政治スキャンダルが、システムの自壊を促しもした。日本はこのシステムのままでは、グローバルな競争に生き残れないことは明らかだった。変えなければ、日本は駄目になってしまう。誰もがそう思った。

自民党の終わりは見えていた しかし、自民党政治家は、なんとしても旧システムを温存しようとした。村山内閣の登場は、歴史の歯車を逆に回すものだった。しかし、それもつかの間、橋本→小渕→森と続いた自民党政権は、明らかに落ち目で、小選挙区制の定着もあって、まもなく自民党は政権から転げ落ちるかに見えた。若く有能な政治志願者たちは、民主党に将来を託しはじめた。当時会ったことのある比較的若い自民党政治家は「自民党はあと数年はもたない」と、私に述懐したものだ。

そこに登場した小泉さん そこに「自民党をぶっ壊す」と小泉さんが登場した。それまでの自民党政治家とは明らかに違って見えた。大胆に既成システムを壊してくれそうに見えた。自説を頑として曲げない意固地さが頼もしく見えた。しかし改革はいうほどには進まなかった。定型文句のスローガンを叫び続けたが、実行は他人任せだった。首相の決断の出番がいくつかあったが、実際には周辺の旧体質の政治家の調整に委ねた。私にとって、アンビヴァレントな気持ちの始まりだった。しかし政治を操るセンスに抜群のものがあった。問題ごとに抵抗勢力なるものをあぶり出し、彼らと戦う姿勢を顕示することで、国民的人気をつなぎ止めてきた。しかし片づけたと思われた問題のほとんどは、名目だけの改革にとどまった。またもやアンビヴァレント。

自民党を壊した小泉を首相に担がざるを得ない自民党議員 わけの分からないような綱引きの進行した4年間あまりのうちに、結果として自民党の在来のシステムは、かなり壊れた。自民党の族議員が仕切っていた政策決定プロセスは、ほとんど空洞化された。それは他人のいうことに耳を貸さない小泉政治手法のおかげだろう。小泉首相に一番困り果てたのは、彼を総裁に選んだ自民党議員たちだろう。しかし、彼の国民的人気にすがるしか、自民党には手がなかった。最もアンビヴァレントな気持ちで、ジレンマに立たされているのは、じつは自民党議員なのかもしれない。

最もアンビヴァレントな欠席議員 衆院での郵政改革関連法の投票で、アンチ小泉の旗幟を鮮明にした自民党議員は、直後の解散、公認問題で窮地に立たされている。よくよく追い込まれた上で、アンビヴァレンツを断ち切った彼らに、私は心情的に同調する。それに引きくらべ、欠席したり、棄権した議員、あるいはやむなく賛成に回った人たちはどうだろう。郵政改革賛成の踏み絵を踏まされ、郵政民営化しかいわない小泉首相の旗の下、選挙に出ている。どの顔して、何を訴えているのか。議員という身分を確保することを優先し、節を曲げたこのような議員にこそ、選挙民はNOを突き付けるべきだろう。小泉首相の計算もしたたかである。彼らが心ならずも賛成に転じたことは分かった上で、選挙での勝ちをえるために、彼らを排除しなかった。それが政治というものだろう。

いつまで続くのか、アンビヴァレントな小泉政治 今のままで行くと、小泉陣営は大勝しそうだと、多くの報道機関や評論家は予測を立てている。郵政法が通るのはいい。しかしその先に小泉首相には何のもくろみがあるのだろう。この先にもアンビヴァレントな政治が続くのだろうか。小泉首相は、ステーツマンとよばれる政治家ではない。ステーツマンは、ひとにアンビヴァレントな気持ちをいだかせない。

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コメント

すっかりご無沙汰しています。
このブログの内容は質・量ともすばらしいですね。小泉首相に感じるアンビヴァレンスは正にアクエリアンさんの指摘・分析のとおりだと思います。このような状況をつくりだしているのは正にマスコミの責任です。小泉劇場に踊らされ、自民党勝利ということになれば、その先に待っているのは、国家破産を避けるための大増税等です。小泉首相、自民党の行財政改革はその中身をよく見れば、国民に対する詐欺・ペテンだと思います。権力を握っている側が、まず自分たちの所から改革をせず何が改革かと思います。権力を持った者・側が長くなると必ず腐ります。これは歴史が証明しています。

投稿: Y.S173 | 2005/09/07 21:16

Y.S173さん、しっかり読んでいただき、ていねいなコメントをありがとうございます。

今日の毎日新聞に、さきがけ代表だった武村正義さんが、こう書いています。

『郵政のような大きな政策は、奥が深くて複雑に絡み合っているのに、極端に単純化し、最後はイエスかノーかという問いかけをして、真実に目を向けさせないようにしている。呪縛にかけるようなやり方だ。郵政民営化すれば景気が良くなる、財政が良くなる、外交までよくなるなんてありえない。現実の日本はさまざまな問題に直面している。そんなに単純明快化するのは正しくないし、国民を思考停止に陥れている』

と。ものの分かった人は、このように小泉さんのウソ (本人がウソと分かっていないところが、もっと始末が悪い) が見破れるのですが、今回は意外に小泉手法に乗せられてしまっている人が多いようです。

ブログでも、ふだんのクールな言説にしては意外なほど、小泉支持に傾いている方が見られます。「単純化」という一見論理的、その実、情的なアピールに、思考停止になっているようです。誰もがある程度感じている小泉さんへのアンビヴァレンスが大きく「好き」の方へ傾いているようです。あとで大きな後悔をすることになるのではないでしょうか。

投稿: アク | 2005/09/08 10:01

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