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2005/10/17

居心地のいい、二流国アイルランド

 たった20日間の滞在で、一国の印象を語るのは無謀であり、見当違いになりかねないの承知で、アイルランド印象記を断片的に書いたおく。偏向的主観的印象であることをご承知の上で読んでいただいきたい。

 旅をしてみて、アイルランドはとても居心地が良かった。その理由はあれこれあるが、みずから二流国であることをもってよしとし、独自のライフスタイル、文化を柔軟に保ちつつ、肩ひじ張らずに他国の人に接していることにあるのではないか、と思い当たった。

人も、酒も、食も 旅人としての居心地のよさは、これまで経験した国のなかでは、スイスと優劣をつけがたいと感じた。理由は何だろう。英語でのコミュニケーションがスムーズにいく。聞き上手である。イギリス人みたいに下手な英語を見下すようなことがない。人柄がいい。田舎に行くほどいい。偏屈な人にも出会したが、それもご愛敬のうち。酒好きである。パブという素晴らしい場を持っている。文化といっていいだろう。食べ物もまあまあ口に合う。魚とジャガイモ。魚料理は日本ほどの繊細さに欠け、どれもほとんど同じ味になってしまうが、アンコウまで食っている。大盛りの蒸したりバター炒めしたムール貝がよかった。ジャガイモは量の多さには閉口するが、残せばいい。朝食の充実度は随一だろう。毎日フルブレックファストを楽しんだ。羊の血を混ぜたブラックプディングもうまかった。以上の食事についての感想にはパートナーのみやには異論があるようだが。

車の運転 レンタカーでのドライブは、日本と同じ感覚でできて、違和感がない。もっとも久しぶりのマニュアルドライブと、狭い道路をスピードを出して走るのには慣れるのに少し時間がかかった。帰ってきたら、ギアチェンジをするべく左の手と足がウロウロしたり、成田からの帰路の田舎道をつい飛ばしたくなるほど慣れてしまっていた。

二流国でよし しかしそんなことだけは居心地の良さは説明しつくせない。旅の途中から感じはじめたのは、この国が二流国に甘んじてよしとしている、それが居心地の良さの理由ではないかということだ。そんなことをアイルランド人にいえば、誇りを傷つけられたと怒られるかもしれない。しかし長年イギリスの「植民地」に甘んじ、独立を期しながらもなかなか果たせず、かつてジェームズ・ジョイスが『ダブリンの市民』などで書いた「麻痺的状況」にあったアイルランドでは、今はない。完全な独立(北アイルランドでは別にして)の上に、経済的な自立も立派に果たした。そうだからといって、欧州列強に伍するほどの国力はない。外交・軍事・経済で重視されるほどの国ではない。今後もそれ以上をめざすつもりはないだろう。このあたりは、もっとディープにアイルランド人に接してみなければ、いえることではないのは承知の上での私の表面的観察だ。そのように私には見え、それを好ましく感じ、それが居心地の良さの理由だと考えた。

生活の楽しみを優先 変にがんばらない。ほどほどでいい。生活を楽しむ方が先だ。アイルランド人は、そう考えているようだ。あるB&Bに泊まったときに、女主人は不在で、若年の息子さんが留守番をしていた。村人の結婚式があり、母親はそれに出ていて、帰りは遅くなるという。なるほど村の唯一のホテルには多くの人々が群がって、外まで人が溢れて飲食している。パブに行けば、結婚式流れの人々が陽気に騒いでいる。私たちもその中で居心地良く過ごし、遅い時間に宿に帰ったが、女主人はまだ帰っていなかった。よほど遅くまで飲んできたらしい。翌朝会った女主人は、ヒナにまれなマダム風で、きっと村の人気者なのだろうと推察された。別の日、別の地でB&Bを訪れたとき、そこでも女主人は不在で娘しかいなかった。お母ちゃんがいないから、お客を受けいるられないと、こちらは素っ気ない。すでに泊まっている客も、お気の毒、無理でしょう、と言いたげだ。あきらめた。もうシーズンオフだ。満室お断りという時期ではない。むしろたまにしか来ない客は大歓迎のはずだ。だが、しゃかりきに商売に打ち込むより、自分たちの都合、自分たちの楽しみを優先している。そんな気風も、好ましく感じてしまった。こちらも困りはしない。ちょっと走れば、別の宿が見つかる。

宵っ張りの朝寝坊 サマータイムが10月末まで続くため、朝は暗い。7時ではまだ暗い。日の出は8時半頃だ。その頃になってやっと人々は動き出す気配だ。あるB&Bでは朝食は9時以降といわれた。日の出前後の光のもと、ひとしきり写真を撮ってくる時間がとれて、かえって良かったが、寝静まっているオーナー家族を起こさないよう外出するのに気をつかった。コークほどの大都市でも、通勤ラッシュは9時半頃がピークだ(さすがにダブリンでは違って、朝早くから車が轟々と走っている)。その分宵っ張りだ。夕方は7時頃まで宵の明るさが残る。パブは、明るいうちから、仕事を終えたひとびとで賑わいだし、時間とともに人が増え、午前2時頃まで開いている。音楽の生演奏が始まるのが、9時半頃。興に乗ってくると、ダンスとなる。ナイトクラブやディスコは真夜中を回ってから賑わい出す。生活時間が2時間ほど夜のほうにずれているようだ。現代のビジネス社会にこれが通用するかと、心配だが、そんなことより自分たちの生活習慣を守り、楽しんでいる様子が好ましい。二流に甘んじる心がけがなければ、こうはいくまい。

アイルランド時間 というのがあるのに、旅行を開始してすぐに気づいた。予告されている時間に、催し物などが始まらない。朝食の準備も時間に間に合わない。列車の運行も時間通りではない。呆れたのは、航空機の乗務員が、搭乗開始時間に遅れてやって来て、それが原因で離陸時間が遅れたこともあった。慣れてくると、そんなことも、この国らしく、受け容れられる。

いちばん暮らしやすい国 『エコノミスト』誌が毎年行っている「暮らしやすい国」のナンバーワンに、アイルランドが選ばれている。世界111カ国を対象とする調査で、日本は17位だそうだ。一人あたりのGDP、政治の安定、治安、衛生状態、家庭生活などいくつかの指標を総合しての結果だ。ある旅行社の定期刊行物に載っている記事からの孫引きだから、何年のものか分からないが、近年のものだろう。アイルランドがナンバーワンとは、意外に思えるが、実際行ってみると、なるほどとうなずける。ちなみに、2位がスイス、3位がノルウェーだそうだ。

日本はどうか 世界第2の経済大国である日本は、二流国であるわけにはいくまい。しかし、現実には、経済力と産業生産力だけが一流で、政治も、外交も、社会のさまざまの問題点でも、一流とはとてもいえない。生活は豊かなようでいて、その質を考えてみれば、これも一流にはるかに遠い。日本は、近隣諸国と覇権を競ったり、国連でがんばろうとするよりも、自分らの満足のいくほどの暮らしやすい、居心地のいい国、教育と文化で一流の国をめざす方がいいのではないか。アイルランドを旅しながら、そんなことを考えた。

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