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2006/02/21

アジア系外国人にとって住みづらい国、日本

 幼稚園児2人が通園の車の中で、友達の母親に殺されるという痛ましい事件をどう考えたらいいのだろう。長い刃の包丁で、いたいけな幼児を何度も何度も刺したという中国人犯人は、犯行動機をまだ詳細に告白していないようだが、「誰でもよかった」というような言葉が漏れ聞こえてきている。その動機の一つに、自分を疎外する日本社会への抗議、告発という面があるのではないか。異国から来たこの女が、日本社会になじめず、疎外感をつのらせ、鬱積したものを抱え込んでいた。自分を異なるものとして除け者にする日本の社会に対する怒りが、じつに手前勝手なやり方とはいえ、こんな形で暴発したのではないか。外国人居住者にとって、特にアジア系外国人にとって、日本が決して住みやすくない社会だという点を、この機会に考えてみる必要があるのではないか。

なじめない社会 犯行動機として自分の子どもがなじめないことを理由にあげているとの新聞報道がある。それが、誰でもいい殺してやりたいと思うほどの理由になるだろうか。一方では、「幼稚園に行くと、お母さん同士がむずかしい。なじめない」と知り合った人に話しているそうだ。6,7年前に来日し、結婚し、子どももできた。しかし3年前精神的に不安定になって、「なじめない」などと漏らすようになった。親族は「一度中国に戻して安定させたらどうか」と気遣った、などと報道されている。自分がなじめないこの日本社会に対する恨みをこういう形で、後先も考えずにとにかく訴えたい気持ちになったのではないか、と想像したくなる。なじめないからといって、ここまで恐ろしいことをするかといえば、もちろん犯行に至るまでの経緯や、犯人の心理に特異な状況はあるのだろう。もちろん私は犯行を正当化しようなどとは思わない。ただ、この事件には、私たちに対する警告が含まれていないか、と考えるのだ。

中国人である引け目 この母親の場合、犯行で明るみに出るまで、中国人と思っている人は少なかったという。夫が日本人である。日本名を名乗っている。来日以来、中国人であることゆえに差別される経験が何度もあったらしい。中国人であることがばれないように、日本語を変なところがないよう話すように気をつかっただろう。あまり深くつきあうといやなことがあるかもしれないと、避ける気持ちがあっただろう。グループ通園をいやがり、個別登園を求めたのも、自分の子供のことを理由にあげているが、グループ通園のつきあいの中で、自分の国籍が知れることへの恐れもあったかも知れない。それだけ中国人であることに引け目を感じさせるところが、周囲の社会になかったか。

増えている、増やさざるをえない外国人 外国人が増えている。それも東京や大都市に限らない。これからの人口動向、労働力需要の推移、などを考えれば当然の傾向である。たとえば「外国人労働者問題の現状把握と今後の対応に関する研究 」(労働政策研究報告書No.14,2004) というレポートがある。そこには「平成14年末現在の外国人登録者数は185万人あまりで、平成13年末現在に比べ、7万3000人 (4.1%)の増加となっている。また、70万人以上の外国人が就労していると推計されている」とある。現在はもっと増えているだろうし、不法滞在、不法就労の人数はもっと多いだろう。日本は、外国人労働者の受け入れについて「基本的な姿勢は、専門的・技術的な分野の外国人労働者については積極的に受け入れ、いわゆる単純労働者については原則受け入れない」と決めている。しかし、FTA(自由貿易協定)締結交渉で、日本の介護労働分野へ外国人労働者の受け入れの 要望が出されるなど、新たな局面を迎えている。(「対東アジアFTA交渉、外国人労働者どううけいれる?」)

いやでも彼らなしには 日本は、ますますアジア系外国人の労働力を必要とする経済社会になっていく。少子化で足りなくなった分、特にいわゆる3Kといわれるような種類の労働の担い手として、アジアの労働力の導入を必要としている。そういう社会になっていくのが見えていながら、それを受け入れる心備えができていない。アジア系外国人が入ってくるのを、大部分のひとは厭だねと思っている。その一方では、彼らなしに日本社会が成り立たなくなっていく現実が目の前にある。

居住区への「侵入」を嫌う気持ち 日本社会は最近都市部では、とくにマンション住まいなどでは、隣の人との交渉はほとんどなく、隣にどんな人が住んでいようと無関心である。それでも、同じマンションの近くの部屋に見慣れぬ外人が出入りしていると気になる。外国人お断りの賃貸物件も多い。表向きはそうはいえなくても、じっさい借りに行くとていよく断られるらしい。いったんアジア系を受け入れると、同種の人たちが住み始め、逆に日本人が敬遠するようになる。結果としてマンション価値が下落する。

均質社会へ、外国人が 日本は、ほとんど日本人だけで構成された均質社会である。私たちはそれになれきって生活し、居心地のいい、思いやりのある社会だと思っている。しかし外国人として、この社会に来た場合にどうなのだろう。ヨーロッパ系、いわゆる白人は問題ないだろう。日本人は白人には敬意を抱く。明治の文明開化以来の伝統か。それと比べ、アジア系はどうだろう。我々と普通は見分けがつかない中国系・朝鮮系には、石原慎太郎ほどひどくはないにしても、ある程度見くだすような潜在意識がある。ちかごろ増えてきたアラブ系に対しては、何となくうさんくさく思ってしまう。

首都圏における国際化 「首都圏白書」というのがあるそうだ。そのあらましがここに出ている。その第三節に「首都圏における国際化の状況」があって、「一 首都圏における外国人の居住状況」「二 外国人居住を取り巻く環境」などについて書かれている。そのなかで目をひくデータとして、世界主要都市(ニューヨーク、ロンドン、パリ、ソウル、香港、シンガポール)に居住経験があり現在首都圏に居住している外国人を対象に行ったアンケート結果がある。「外国人から見た首都圏の魅力アンケート結果」であるが、治安とか買い物や飲食の便は非常にいい。ところが「近隣住民とのつきあい」という項目になると「やや悪い」「非常に悪い」をあわせると、65%にもなる。また「住宅の探しやすさ」も「やや悪い」「悪い」が、53%と、過半となる、などの結果が出ている。ほかに平成16年11月から国土交通政策研究所が行った、「都内で働く外国人へのインタビュー」によると、日本に居住する外国人は、近所付き合いや各種の情報を求めているが、十分ではないと感じている傾向がみられる、また、言葉、文化、習慣の相違や偏見に悩まされている人も多い、ということだ。

国際化への意識改革 このようなことと、今回の事件とを直ちに結びつけるのは、行き過ぎだろう。しかし、個人が生活しやすい首都圏ですらこうである。今回の事件の起きたような地方では、社会の閉鎖性はより強いだろう。しかし国際化は地方にまで及んでいる。間近に来ている国際化への日本人の心構えができていないことへの警鐘ではないか、この事件は。そう私は取り越し苦労をするのである。もし国際化への私たちの意識改革がうまく行われないと、このように不幸な事件が続発するのではないか。

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コメント

トラバ、有難うございます!この事件に関する記事、拝見させて頂きました。とても詳しく書かれ、物知りでいらっしゃるんですね。すごいなぁと思いながら読んでいました。この事件、ひどい事件ではありますが、容疑者には切羽詰まった思いの果てだったのでしょうね…

投稿: 船見 千秋 | 2006/02/21 17:49

滋賀県長浜は知り合いがいて去年行きました。電車は北陸本線、新聞は中日新聞の支局、ラジオは大阪からといったように近畿ですが混じり合っているようです。また琵琶湖湖畔でちょっと足を伸ばせば景色も良いようです。

長浜はブラジル人のコミュニティーが目立ちます。駅前のスーパーでもブラジル人を見かけるのが日常の風景になっているようです。中国人のことは全然分かりませんでした。

長浜は近畿圏といっても大阪近郊に住む者には遠い気がします。私の感じた町の雰囲気だけを書きました。

投稿: 家中 | 2006/02/21 19:07

 はじめまして、勇気を出して、トラックバックをさせて頂きました。
 今回の事件について、まだまだ、これといった直接的な原因を伺わせるような報道がなされていないような気がします。
 こちらの記事を読ませて頂きまして、様々な要因が重なり合って、何か、大きい複合的な起爆剤となって、事件が引き起こされたのではないか、という感がしました。
 最近ブログを始めたものです。拙い文章で恐縮ですが、メンタル面でのアプローチで挑戦してみました。大いに恥をかかせて頂きたいと存じますので、よろしくお願いいたします。

投稿: 木曜の女 | 2006/02/27 14:20

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