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2006/02/13

原子力の風向きは変わったのか

 このところ、原子力について、風向きが変わってきたかな、という感じがしている。原子力に関係する研究所にはいたものの、原子力発電とか、原子力開発などに直接は関わらなかったし、今は「圏外」にいて、一市民として新聞などの報道に接するだけであるが、原子力のあり方については関心を持ち続け、ときどき自分の意見をここに書いたりしてきた。最近あまり書かなくなったのは、私が書くまでもなく、もっと専門的にしっかりした議論をしているサイトはいくつかあるからである。今回は、このところ風向きが変わってきたなと感じたので、そのことと、それについての私の意見を書いてみようか、という気になった。まず、いくつかの兆候として私の気づいていることをリストアップしておこう。

1. 東芝による米原子力の大手、ウェスティングハウス社の買収。
2. ブッシュ大統領の年頭教書で、新エネルギー政策に関し原子力推進をと
3. それに呼応しての米エネルギー省の再処理路線への転換などの発表
4.  日本では、佐賀県のプルサーマル受け入れの発表、つづいて各地でプルサーマル受け入れへの準備が進んでいる様子
5. 六ヶ所村での再処理施設がいよいよ稼働しそうなこと
6. 高速増殖炉原型炉「もんじゅ」は、再開に向けて準備が進んでいること
7. その後継の実証炉について、国が一部費用を負担するとの考えが出てきたこと
8. また、第2再処理工場の建設についても、具体的に動き始めそうであること
などなどである。

ウエスティングハウスの買収 東芝がウエスティングハウスを買収するとのニュースは、いろんな意味で驚きだった。ウエスティングハウスは、そもそも加圧水型の軽水炉を開発し、アメリカはおろか、全世界に普及した発電用原子炉メーカーの大手である。日本では三菱重工がウエスティングハウスと提携して技術導入し、関西電力を中心に数多くの原子炉を建設してきた。軽水型発電炉は、発電用原子炉の本流であるが、二つのタイプ、加圧水型と沸騰水型がある。日本では東京電力をはじめとして、沸騰水型が多い。これはゼネラルエレクトリック(GE)の開発になるもので、日本では日立製作所と東芝がGEと提携して、技術導入したあと、競合・分担して建設をしてきた。あらためて、系列を図式化すると、日本の場合、

 加圧水型ーウエスティングハウスー三菱重工
 沸騰水型ーゼネラルエレクトリックー日立製作所、東芝

であり、両方が拮抗している。しかし世界全体を見ると、ウェスティングハウスを源流とする加圧水型が圧倒的に多い。それだけ性能、運転維持の容易さ、安全性などが評価されているのだろう。しかし本家のウェスティングハウスは、アメリカでの新規原子炉建設がここ何十年も途絶えていることなどから、経営が成り立たず、とうの昔に英国準国営企業の英核燃料会社(BNFL)の傘下に入っていた。それを今回、沸騰水型の発電炉メーカーである東芝が買い取った。じつをいうと、まだ最終的には米国政府と議会の承認が必要で、その手続きが済まないと、最終決着とはならない。ここにきて、東芝原子力部門による原発検査データの改ざん問題が出てきて、この承認に悪影響が出てくるのではないかと心配する向きもある。

原子炉メーカーに変化が バブル以降、業績が悪化し、リストラなどに苦労して、やっとトンネルを脱したかにみえた日本の重電機メーカーが、6千数百億円も出して、経営の成り立たない会社を買収すること、それも競争相手に勝つため、予想された買収額の倍以上の金額を提示したこと、沸騰水型のメーカーが、日本での棲み分け(先の系列図式)を無視して、加圧水型を手がけようとすること、など、いくつかのサプライズの要因があった。しかし、その後の新聞解説などを読むと、東芝なりの戦略があったようだ。世界全体からすると、ここ十年、二十年は原子力の停滞期であった。しかし、これからは変わるだろう。アメリカも長い停滞を破って、新規原発建設に動きそうである。また中国は、これからのエネルギー・電力需要を考えると、2020年までに、30基もの原発を必要としているとの分析がある。温暖化対策として、クリーン・エネルギー(風力など)だけに頼れない分を原発で、というのは世界的な傾向である。東芝は世界の主流である加圧水型をも手がけることによって、世界中での原発建設において優位に立とうとしているようだ。これまで日本の原発メーカーは他国に原発を輸出したことはない(北朝鮮に米日韓が共同して軽水炉を提供するとの事業が唯一の例だったが、つぶれた)。しかしこれからは、アジア各国に日本が原発を売るという時代が見えてきている。時代の変化を感じさせる大きな出来事だった。

独占・寡占・閉鎖性に変化が来るか 原子力産業は大きな投資を伴うため、大メーカーしか参入できず、寡占状態にある。日本の場合、電力会社は、会社ごとに炉型を一つに絞っているため、たとえば、関西電力の加圧水型だと三菱重工の独占であった。競争原理が働かない。電力も独占時代には、それでよかったのだろうが、電力自由化にともない、発電コストの抑制を求められている。東芝が加圧水型をも手がけることで、競争が促進され、それはコストだけではなく、安全面などにもいい影響が出てくることだろう。当分の間、新規原発建設はないようだが、海外市場への進出を含め、原子力界にはいい刺激材料だ。東京電力が、新規発電炉を加圧水型で、ということもあろう。原子力界の問題点の一つは、その閉鎖性にあると、私は思っている。多少なりとそれが緩和される方向へのいいきっかけになることを期待する。

ブッシュのエネルギー政策
 ブッシュ大統領の今年の年頭教書は、外交軍事の面では、トーンダウンし、言い訳がましい表現が目立ったが、目を惹いたのは、エネルギー政策に関する部分だった。アメリカは石油中毒にかかっている(addicted to oil)と指摘し、中東からの石油輸入量を2025年まで75%以上カットすることを目標に、代替エネルギー資源の開発に力を入れると宣言した。一つには自動車用の電池の改良、水素燃料自動車の開発、そして自動車燃料としてのエタノール製造新技術開発などに力を入れること。もう一つは、「新エネルギー政策」として、ゼロ排出石炭火力、革新的太陽・風力・原子力などの研究開発への投資を増やすことである。これらは、ブッシュとしては目新しい力点の置き方ではあるが、これまで何度も歴代の大統領が強調してきたことで、驚くほどのことではない。25年まで、75%カットなど、とうていできはしないと早くも批判が出ているようだ。

米、再処理路線に転換か
 これと呼応するように、米エネルギー省は、新しい技術を用いて、商用再処理を再開する計画を発表した。日本、ロシアなどと協力して、核拡散の恐れがない再処理技術の開発に取り組むという。核拡散の恐れがない再処理とは、プルトニウムを単独で取り出さないということ。ウランとプルトニウムとの混合酸化物を再処理ラインの最終生成物とする再処理は、日本でかつての動燃がやっていたが、今回のものは、プルトニウムー239だけでなく、質量数の大きなプルトニウムや、それよりも原子番号の大きな超プルトニウム元素も混ぜて取り出す再処理を意味しているようだ。これらは長寿命の放射性廃棄物だが、それをプルトニウムと一緒に、もう一度原子炉で燃やして、短寿命のものに変換する「消滅処理」を開発しようとしているのだろう。これは、別に新規の技術ではなく、かねてから研究開発が提案されていた技術である。日本では、アメリカより進んでいるともいえる。

プルトニウム政策の転換
 今回の米エネルギー省の提案は、米政府がカーター大統領時代にはじめたプルトニウム利用を認めない方針の大転換になるのか、その行方が注目される。米政府は、プルトニウムを核燃料として利用することについては、コスト面からも、核拡散の点からも、一貫して否定的であった。政策転換の理由は二つあるようだ。一つは、再処理をしない場合、使用済み核燃料棒を、そのまま地中に埋設処分することになる。埋設処分場が、あのアメリカのように広大な土地でも、住民の反対を受け実現しそうにないことである。ここにいたって再処理に方針転換しても、今度は高レベル廃棄物の処分場が必要になる。原子力について冗談ぽくいわれる「トイレのないマンション」状態は、依然として解決していない。再処理への方針転換は、この究極問題を先延ばし、先送りするだけである。

核不拡散に有効な手だてになるか 再処理再開のもう一つの理由は、イランの核開発問題であろう。イランが産油国とはいえ、電力事情から原子力利用をしようとしている。原料としての濃縮ウラン燃料の製造をすると主張する。将来的には再処理までするだろう。ロシアが、濃縮ウラン燃料の提供から再処理まで引き受けるよと言い出している。アメリカも、今後原子力利用を行おうとする途上国に対し、燃料提供と再処理を引き受けることにより、核拡散防止をはかろうということのようだ。しかし、他国に依存したくない、あくまで自国で、と言い張るイランや北朝鮮のような国にたいし、有効な手段はない。核拡散問題への対応という意味では、米国での商用再処理再開は、切り札にはならない。原子力平和利用は原爆とは切り離しがたい、というジレンマは宿命的なもので、核不拡散防止条約と国際原子力機関による査察が有効に機能しないとなると、どうともしようもない。こういう国が暴走しないように、あらゆる外交手段で防止するしか手がないのだろう。

もんじゅ」は進むが 冒頭に最近の原子力を巡る変化の兆候をいくつかあげたが、書き出してみると、ここまで書いただけでももう長すぎる。あとは、また機会があったら取り上げるとして、高速増殖炉について、ちょっとだけふれておこう。現在「原子力研究開発機構(JAEA)」の一部となった旧動燃が、開発中に問題を起こした高速増殖炉原型炉「もんじゅ」は安全審査の見直しも、地元了解もクリアして、運転再開に向かって準備が進んでいる。原型炉とは、実用炉に至る前の前の段階に位置づけられる。次に実証炉で、実用炉に匹敵する規模で、技術とコストを実証して、次に実用炉となるわけだ。原型炉は国の資金でやっている。しかしその先の実証炉は、実用を目指す電気事業者(電力会社の連合体)が建設することに、ずっと前にきまっていた。しかし電力は、軽水炉より明らかにコスト高で安全上問題含みの増殖炉などやる気がない。まあ、当分の間研究をやっておいてください、そのうちに、という態度だった。

国の資金で実証炉も、と 国のエネルギー政策を預かる経済産業省としては、放っておくわけにもいかない。今回、総合資源エネルギー調査会原子力部会に、国としての方針が示され、実証炉についても国が積極的に関与しましょう、ということになった。要するに金を出しましょう、ということになった。税金を使いましょう、ということだ。実証炉はまだ設計も決まっていない。建設費はどのくらいかかるか。たぶん数千億円ではとどまらず、1兆円に近くなるだろう、と私は推定する。国の資金負担とは、ふつうの軽水炉一基の建設費3〜4千億円より余分にかかる分は負担します、ということのようだ。そこまでして実用化を推進する必要があるのだろうか。さらに問題があるようだ。実証炉として考えられている炉型は、「もんじゅ」の技術の延長線上にないようなのだ。実証炉を作るとすれば、「もんじゅ」とは別の炉型になり、実証炉の前に、今ひとつの原型炉が必要となるらしい。それだのに「もんじゅ」は進む。かつての原子力船「むつ」を思い出す。いったん始めた以上、やり遂げなければならない。それが日本政府のやり方だ。何という無駄。

必要なのか、高速増殖炉 そもそも高速増殖炉は、ほんとうに必要なのだろうか。ウラン燃料は十分に供給されている。軽水炉は安定して、電力の30〜40%をまかなっている。技術としては、つまらないぼろを出しながらも、成熟しつつある。高速増殖炉を必要とする事態が、私は今世紀中にくるとは思えない。永遠にこないかもしれない。それでもやるのか。私は疑問に思う。

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コメント

外務省の国別データーを見ていて、最貧国ニジェールの特産が「ウラン」であることに愕然としました。

投稿: H | 2006/02/16 11:47

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