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2006/04/25

「皇帝ティトの慈悲」で旧交が甦る

 オペラを見ることがきっかけになって、思いがけない旧友の消息に接することになった。モーツアルトの作とはいえ,まれにしか上演されないオペラ「皇帝ティトの慈悲」の二期会公演を観、それが予想を超えてよかったことと、このオペラを観るに至った経緯で、思いがけず懐かしい旧友の近況を知るに至ったことと両方を書いてみたい。この旧友のことを、数年前HP本館のほうに書いていたのも奇談というべきか。

 オペラ「皇帝ティトの慈悲」は、モーツアルトが作曲したオペラとしては最後のものだが、他のポピュラーなもの(「フィガロの結婚」「ドン・ジョバンニ」「魔笛」など)ほど知られておらず、日本ではほとんど演じられることがなかった。オペラファンは、先刻承知の聞き慣れたものを、豪勢なキャストで聞きたがる。人気のあるオペラが始終演じられ、聞いたこともないようなタイトルのオペラはめったに上演されない。埋もれていて聞き慣れないこの演目を、今回あえて二期会が取り上げたのには、深く期するところがあったのだろう。舞台も新国立劇場オペラ劇場と、超一流の場所を選んでいる。ドイツから演出者と指揮者を招いた。特に演出がものをいった。ありきたりに演じれば、古くさいストーリーで、見向きされるかどうか、というほどのものに、十分共感できる新しい装いを吹き込み、楽しめるものに変えていた。観衆を笑わせ、音楽とパフォーマンスを楽しませ、ストーリー展開に引き込む仕掛けが随所に凝らされていた。埋もれて日の目を余り見ることのなかったオペラでも、演出次第でこうも楽しめるのか。それを実感させてくれた。

 モーツアルトの音楽は、当たり前のことだが、このオペラでもすばらしかった。私は、どちらかというと、はじめて聞く曲に、すぐにはとけ込めないたちなのだが、最初から楽しめた。ああ、ここでもモーツアルトの明るく楽しい音が鳴っている。フィガロと同じではないか、そう思えた。支配するものとされるもの、権力と愛、悪だくみと善良、その対立のなかで、後者のほうが勝っていく。それもモーツアルトの音楽のゆえに。モーツアルトのオペラを見るたびに、そんな感じがするのだが、ここでもそうだった。壮大なドラマ性などなく、通俗的な民のレベルで、モーツアルトの音楽が鳴り響く。ローマ皇帝宮殿でのドラマを、一村落で起こった愛憎劇であるかのように演出したのも、このモーツアルトの音楽にふさわしいものだった。愛すべき悪女を演じた吉田恭子は堂々たる体躯でいい声を出していたし、コケティッシュな演技を求められたに違いない菊池美奈は、もともとの持ち味なのか、愛嬌を振りまいてオペラをもり立てた。ほかの出演者もよかった。

 さて、話は変わる。このオペラを見るに至った経緯に思いがけないことがあった。高校同窓会から、オペラへのお誘いのメールが回送されて来た。同窓生に二期会の関係者がいて、ときどき誘ってくれる。これまでは、都合がついたことがなく、見送ってきた。今回は、このところこのブログに書いている米国の友人ヒルダの来日日程に忙殺され、それがやっと終わった直後のタイミングである。一休みしたいところだったが、行く気になった。連絡先が中山Kとあったので、もしやと思い、私らは中山悌一を聞いた世代だと書き添えた。中山悌一は、高校のある大分市の出身の声楽家として、学生の頃、ドイツ歌曲などをよく聴いたものだ。高校の前身の旧制中学の出身で、同窓会のたびにみなで歌う母校の校歌は、中山悌一作曲である。私の在校時代に制定されたもので、校歌には珍しくクラシックの香りがあるところなどさすがである。これから話題にする旧友Nの叔父上で、親しみを感じていた。二期会の創立者のひとりでもある。もしや、というのは中山Kという名から、中山悌一につながる人かもしれないと思ったからだ。中山Kからの返信メールにおどろいた。Nをご存じないですか、自分の兄で、自分は叔父、中山悌一の養子になりました、とあったからだ。あちらも、私の名前を覚えていてくれて、もしや、と思ったのだ。

 旧友Nは、高校で一学年下だが、極め付きの秀才で、同じサークル(生物部)に所属し、親しくつきあった仲だった。サークルでは、生物などそっちのけで、もうひとりのAを加えた3人で、高校レベルを超えた数学や学問の話をした。この交友関係で得た刺激がもとで、私は学問の世界に向かい、生物から物理志望へと変わったのだった。そのことを、数年前(00/8/11)ホームページに書いていた。本館「こんな本を読んできた」のなかにある「高木貞治『解析概論』」である。「こんな本を読んできた」シリーズでは、読んできた本とそれを読んだ頃の思い出を書いて、読書を通しての自分史を書こうとしてきた。途中でとまってしまっているが、いずれ書き継ぐつもりでいる。書名をタイトルとし、それが「解析概論」だったり、「量子力学」であったりするので、余り読んでいただけないようだが、中身は堅い書名と関係のない、個人的な思い出話である。「情婦殺し」など、自分でいうのも変だが、面白いと思う。

 オペラの誘いをかけてくれた中山Kさんが、旧友Nの弟さんであることを知り、旧友NやAのことなど、上記の「解析概論」の項に書いたような思い出を書き送った。彼は、私のメールが届くより前に、兄Nと電話で連絡を取り合い、僕のことを話題にし、私の書き送ったことと、そっくり同じ思い出を兄も口にし、懐かしがっていましたと、返事をくれた。Nは、私が風の便りに聞いていたとおり、九大で口腔細菌学の教授をつとめたあと、退職して悠々自適の生活をしていること、Aも私の記憶通りの名前で、数学に秀で、九大→京大→東大と学び、役所勤めをし、今も嘱託でいるらしいことなど一気に近況を教えてくれた。Aについては、「天才肌ですが子供のように純粋な面もあって面白い方です」とあって、変わらなかったのだな、と親しみを感じた。私と彼らふたりとの付き合いがその時期だけで、その後続かなかったのは、私が高校3年になってすぐ、急に東京へ転校してしまったこと、私が大分の地によそ者として住み、東京転居後は縁がなかったためであった。

 中山Kさんご自身についてもメールで自己紹介をいただいた。同じ高校の数年後輩であること、エンジニアとして企業で働き、ニューヨークの現地法人の社長であった頃、請われて二期会の経営にあたることになったことなどを知った。中山悌一の後継ぎであり、企業に勤めて経営感覚のあることなど、二期会はいい経営者を得たものだ。

 オペラの当日、会場でそれらしき人を探し当て、直接お話をした。中山兄弟のほうでも、私の近況を知ったことを奇遇とし、メールや電話で話し合ったらしい。私はホームページやブログのあることを知らせた覚えがないのだが、どう知ったのか、ホームページやこのブログを細かく読んでは、二人で話し合っているという。そのうちにみなで会いたいですね、と再会を約した。

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コメント

アク様

お邪魔致します。

なんとまあ、たっぷりと豊かな日々を満喫されてる事でしょう!

アク様ご夫妻とヒルダ様の再会が予定通り滞りなく(もちろんそれ以上に)運び今後に両ご家族がこれまで以上にかたちを変えてご親交を深められるであろう予感に、歓びを勝手におすそ分けさせて頂いてる読者のひとりです。
ヒルダさんがリアリティに立ち戻る以前にきっとどちらもそれぞれの想いで余韻に浸っていらっしゃるであろうと、勝手に想像してました。

それにしてもにわかには信じがたいガイド氏でありましたね。
でもそんなことも、とりあえずは記事になさいましたが、ヒルダ様との日々、及び今回の出来事で前回のエントリーはエントリーということで、とは言いながらも考えられない事実としたらホントに許しがたいことですね。私は昨年、調度今ごろアメリカ人ご夫妻の京都ツァー半日とナイトツァーに同行する機会がありましたが、どちらもマニュアルの域はでませんでしたが、(私はマニュアル苦手です)それはそれなりに、立派にこなしてるな、って記憶しか今はありません。短時間になにかをなんとか知らせる、伝えるって場合にはマニュアル化するのもやむを得ないと思うしかありません。でもそのときにはからずも滲み出てくるのは、その個々人の人間性なのでしょうか?

コメントがズレ気味でごめんなさい。

投稿: ハルちゃん | 2006/04/25 22:58

ハルちゃん、お久しぶりです。ヒルダにかまけ、ブログ書きも、コメントへの返事もおろそかになりました。「ブログ復帰」にまとめを書きましたように充実した滞日日程をこなして、ヒルダは帰っていきました。ヒルダが何を見て、どう感想を持ったか、何を話し合ったか、書きとめておくべきことも多々あるのですが、それはもう過去のこととして、ブログではこれ以上書くつもりはありません。
 どこかで書いた覚えがあるのですが、ヒルダと家族、友人たちのためにプライベートブログを作り、そこに画像などを載せつつあります。これは非公開のものですが、興味のある方には見ていただくつもりです。メールにてURLとパスワードをお知らせしますので、ごらんください。

投稿: アク | 2006/04/26 09:01

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