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2006/05/14

NHK、松井の負傷をトップニュースで

 あきれた。NHKニュースは、昨朝と昨夜(5月13日)そして今朝(14日)と、ずっとヤンキース松井秀喜の負傷のことをトップで伝えた。野球ファンにとってはたしかに大関心事だろう。しかし、トップで扱うほどの事件なのだろうか。一般の新聞で、このニュースを一面トップ記事で伝えたところがあっただろうか。民放でも、この件をニュースのトップにしたのは見なかった。スポーツ枠の中での扱いだった。NHKは、公共放送としてバランスの取れた報道を求められている。ニュースデスクのセンスを疑う。

 スポーツ報道がトップであってもいい。荒川静香の金メダル、サッカーのワールドカップ予選突破、日本野球のワールドベースボールクラシック(WBC)優勝など。これらはトップ扱いに値するニュースだった。それらに比べ、そういっては悪いが、たかが一選手の負傷欠場である。連続出場が途絶え、復帰まで3ヶ月はかかるらしい。ヤンキースにとっては打撃の中軸選手の長期欠場は痛手だろう。しかし、野球にさして関心のないものにとっては、ああ、そう、それは気の毒に、というほどのものだ。しょせんよその国のよそのチームのこと。別に彼が日本代表としてプレイしているわけではない。公共放送がトップ扱いするほどの事件だろうか。

 かねてから、日本のスポーツジャーナリズムが、松井やイチローの打撃成績だけを報じているのを苦々しく思い、何度か書いてきた。「日本人レポーターの大群が、松井を追い、エレベーターから地下道へと殺到する様子は、かつての白黒映画の一シーンを見ているようだ」と、NYタイムズは、松井の負傷を伝える記事で皮肉ぽく書いている。日本の報道陣が日本人選手だけを追って右往左往しているさまを彼らはどう見ているのか、いささか恥ずかしい。

 松井やイチローを、昔の武芸の達人のような境地にいるのだろうなと、私は見ている。武の道を究め、自分の国では第一人者になった。さらに上を求めて、自分以上の技の持ち手がいるという国に出かけ、勝負を挑む。真剣勝負に臨む心境を、彼らの表情に見る。一芸を極めようとする真摯な取り組みは、それなりに美しい。しかし、それは彼ら個人の問題だ。それを観るものとして興味はあっても、国を挙げて騒ぐほどの問題ではない。ところが、彼らの成績を伝える報道は、彼らの気持とかけ離れているように思える。他国で活躍している彼らの一球一打を、まるで日本を背負って彼らが戦っているかのように報じ、その結果に視聴者は一喜一憂する。日本人の島国根性丸出しだ。まことに恥ずかしい。そんな羞恥心を持ち合わせないレポーターたちが、球場に大挙して押し寄せ、彼らの打席だけにカメラの集中砲火を浴びせ、ほかの選手やゲームの行方には無関心なのだろう。毎日私たちが目にするのは、彼らが何本ヒットを打ったかだけの報道である。

 松井を報じてもいい、報じてほしい。しかし、日ごとの打撃成績の詳細などどうでもいい。また、それについて彼のインタビューは、聞き手が悪いのだろう、おもしろみがない。一球ごとに、身体全体で立ち向かっている本人が、言葉にならない深いところで何かを感得している。そこまで伝え得ないなら、いちいち彼を捕まえて、言葉としては凡庸な感想など聞かない方がいい。それも毎日などバカげている。

 今回の骨折事件もそうだろう。ヤンキースに加入して以後、一応の成績をあげ、ヤンキースの打撃の中軸を担っているとはいえ、肝心の所で活躍できず、優勝に貢献できずに来た。それだのに、今シーズンも破格の高報酬で契約更新をしてくれた。大きな期待をひしひしと感じていたことだろう。今期はいつにもまして真剣な取り組みのように見えた。何とかチームを優勝に導くよう、貢献するぞと心に期するところがあるようだった。WBC辞退についてほとんど語らなかったし、日本優勝でイチローが狂喜している様子をどう見たかも、報じられていない。彼らしく黙々と、チームが勝つように、自分なりの調子の向上に努めていたことだろう。そこにこの予想外の出来事である。彼の心情はいかばかりか。そこまで察して報道してほしいものだ。スポーツ報道のレポーターも、表面的な報道だけに関心を持つ読者も、スポーツの深みへの理解の点でいかがなものか。報じる方も受け手のほうも、どっちもどっちか。

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コメント

全く同感です。スポーツ報道以外でもNHKのジャーナリズムとしての努力、工夫のなさは目を覆うものがあります。日本テレビの、北朝鮮がいかに悲惨かというだけの、ほとんどキャンペーンのような報道でさえもそこには取材の苦労が感じられます。また、朝7時のニュース(テレビ、ラジオ)でNHKが毎日のように「報道」する、村おこし、地方おこしの「取り組み」などは新聞の地方欄にまかせておけばよいでしょう。NYタイムズレベルのジャーナリズムをもっていないこの国が、この公共放送によってさらに脆弱になっていかないかと気がかりです。

投稿: サム | 2006/05/16 21:43

サムさん、同感とのコメントありがとうございます。報道としてのニュース番組そのものが、ワイドショーと区別がないようになってきています。民放は仕方がないとして、せめてNHKのニュースは、しっかりと本来の報道にとどまってほしいと思うのですが、経営陣が代わるたびに大衆迎合の方向に傾いていきます。困ったものです。ニュースの出だしで、何かひとこと見出しみたいなことを言いますね。あれだって、苦々しく感じます。時計が出て、時報が鳴って、アナウンサーが、お辞儀をして、ニュースを話し始める。あの昔のスタイルに戻ってもらいたいとさえ思います。NHKはそれでいいのではないかと。
 ビジネスやテクノロジーの先端では、根性のある人たちが切磋琢磨しているようですが、報道、教育、警察など、苦労が多いが金銭的に報われない分野では、かつての日本のしっかりしたものが失われつつあるようにみえ、私らの世代からすると心配です。

投稿: アク | 2006/05/16 22:45

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