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2006/06/29

中国奥地で目にした国際熱核融合実験炉(ITER)のニュース

 中国も奥地の新彊ウイグル自治区になると、国際情報にはほど遠い。現地でいちばんいいというホテルに泊まっても、英語の新聞はないし、テレビにはCNNやBBCは映らない。一歩ホテルの外に出れば、青空のもと用を足すしかないような地なのだから、国際ニュースなど無いものねだりだ。そんな地で、珍しく英字の新聞を読んだ。たぶん自治区首都ウルムチのホテルだったか。ロビーに閲覧用にと新聞ばさみに束ねられて置いてあったのを読んだように記憶する。目にとまったのは、中国が国際熱核融合実験炉(ITER)計画に参加する調印が行われたという記事だった。5月24日にブリュッセルで行われた協定仮署名式のことを伝え、大きな国際的科学技術協力計画に中国が10%もの資金負担をして参加することになったと、誇らしげに伝えていた。実験炉のサイトとなるEUが予算の半分を負担し主担当国になることを、この記事は当然触れていたが、実験炉の設置をめぐって最後までEUと争ったもう一つの主要参加国、日本のことはことさらに無視し、ひとことも書いてないのが、いかにも中国らしいと思われた(帰国後検索して読んだ人民日報の記事では、バランスよく書かれていた。私の読んだ英字新聞は何であったか、記憶がない)。

 このITER計画は、そもそもは、1985年、冷戦の終結前、米国のレーガン大統領とソ連のゴルバチョフ大統領との首脳会談が行われたときの共同声明が発端であった。20年以上も昔のことだ。今回ようやく建設へと歩み出したことになる。この間いろいろな経緯があった。何より感慨深いのは、米ソ欧日という4極で始められたものが、この20年間に力関係が変化し、中国、韓国、インドが日本と同じ資金分担(中国紙が伝えるように10%、正確には9.1%)で参加するようになったことである。建設にこれから10年、そこから20年の実験期間を終える頃(2036年)には、参加国の国力のほどはどうなっていることだろうか。実験炉誘致に破れた我が国は、次の原型炉を日本にとの約束を取り付けているようだが、それははるか将来のこと、そのころには中国は日本など歯牙にもかけないほどの実力国になっているかもしれない。

 核融合は息の長い仕事である。私が大学在学中に日本でも核融合研究が始まった。当時は、すぐにでも実現しそうな勢いであったが、研究が進むにつれて、実用化の見通しはどんどん遠のいていった。先頭を走っていた米国では、磁気閉じこめの核融合の実現は難しいと、研究活動は大幅にレベルダウンされてしまった。ITER計画からいったんは離脱し、2005年になって、中国などが参加する情勢を見て復帰したというような経緯がある。資金負担も中国、韓国並みのおつきあい程度である。それに対して中国などが新規勢力として急上昇中である。中国の新聞では、海水から取れる重水素を燃料とし、無尽蔵のエネルギー資源として、エネルギー不足の最終的な解決をもたらすというような、かつてどこかで聞いたことのある夢物語が踊っていた。

 さて、ITER計画だが、日本は施設誘致を粘りに粘った。結果としては、ある意味うまくやったともいえる。施設建設費(5700億円)のほぼ半分をEUに持たせ、日本は10%しか負担しない。それでいて、施設の発注枠を20%、職員枠を20%、おまけに運営トップの機構長をずっと日本人がやることになった。ITER計画そのもととは別に、日本とEUだけで、第2センターともいうべき行う共同施設を作り、共同研究を行うとの約束を取り付けた。「幅広いアプローチ」というらしい。ITER本体計画では譲り、付随する形で別計画を立てて、負担軽減によるゆとりをそちらにつぎ込もうとしているようだ。サイト誘致をできなかった青森県六ヶ所村にも第2センターを置くことで顔向けできる。もともと日本における核融合研究の中核を担ってきた那珂研究センターの装置(JT-60)も、「改修」と称して、次期世代装置に置き換える計画らしい。

 中国では最近、独自の核融合実験装置EASTが完成し、始動した。超伝導非円形トカマク装置としては最新のものだが、装置の大きさからして達成できるプラズマ性能は世界水準からかなり遅れている。ITER計画に参加し、どれだけ追いつき、さらには追い越しを図ってくるか。これからが見ものだ。科学技術分野で、国際競争はこれからますます激化する。競争を理由に国内での研究資源を有利に獲得するという動きも見られよう。ビッグサイエンスの行方には目を離せない。

なお、ITER計画については、このブログで以下のエントリを書いている。
ITER断念、夢に踊らされすぎの報道(05/6/30)
酸っぱい葡萄だよ、ITERは(05/6/30)
核融合実験炉誘致断念に思う(05/5/16)

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