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2006/10/06

北朝鮮の原爆実験

 北朝鮮が原爆実験(核実験)をやるといい、大きな問題になっている。国際政治の問題であるが、それはそれとして、技術的な問題を、多少その方面の知識があるものとして、考察してみた。結論から言えば、とにかく原爆実験らしいものを実現するのは可能だろう。ただし、どの程度の爆発力のものをやってみせるか。それで技術能力が計られる。どんな下手な作り方をしても、臨界量以上のプルトニウムを手にしていれば、爆発はする。しかし効率の良いプルトニウム型爆弾を作るには、かなり高度の技術能力が必要だ。核レベルの技術についてではなく、爆薬について非常に高度の技術が必要である。爆発規模はどのくらいか。それは探知システムからすぐわかる。軍事専門家はそれに注目していることだろう。それを考えると、北朝鮮も下手な原爆実験はできない。そのあたりに抑制がきく面があるのではないかという観点から書いてみる。

 北朝鮮の作った原爆はプルトニウム型であろう。天然ウランの原子炉を稼働すると、核燃料棒の中にプルトニウム239ができる。核燃料棒を取りだして、プルトニウムを抽出する。何千本かの使用済み燃料棒を化学処理して、プルトニウムを金属の塊として製造する。問題は、プルトニウムで原爆とするには内爆(implosion)という技術が必要であることだ。

 原子炉でプルトニウム239が生成されるとき、プルトニウム240もできてしまう。この240は自発的核分裂といって、中性子を介することなく、自然と核分裂をしてしまう性質を持っている。その際、中性子を出す。これが邪魔をする、というか、連鎖反応を早めに促進してしまう。点火が早めに始まってしまうのだ。花火でいえば、一瞬にバーンと行くのではなく、早めに火がついて、ずるずるとしょぼくれた爆発になってしまう。そこで、プルトニウムを爆弾にしようとすると、プルトニウムは小分けして球状に配置し、それを瞬間的に一カ所に高密度に圧縮してやらないと、爆弾状態にならない。プルトニウム240の自発的核分裂に邪魔をさせる前に超臨界状態を実現するわけだ。爆発性能が違う爆薬を適切な設計で配置し、一種の爆薬レンズのようなものをプルトニウムの周りに配置して、うまく爆発させ、プルトニウムを中心部に圧縮・集中してやる必要がある。

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 この技術はアイデアとしては秘密でも何でもなく、出版された本にも出ている。挿絵(クリック→拡大)として載せたのは、Richard Rhodes : "The Making of Atomic Bomb" (Simon and Schuster, 1986) に出ているものである。この本は日本訳(『原子爆弾の誕生』(上、下)紀伊国屋書店、1995)も出ていて、蔵書にあるのだが、人に貸していて手元にない。日本語訳の図でないのは申し訳ない。ごく真ん中に黒めに見える小さい球状のものがプルトニウム。そのすぐ外側にあるのは、ウランの反射体(タンパー、これにより必要なプルトニウムの量を少なくすることができる)、さらにその外側全体が爆薬だ。この図をまねればできるはずだが、実際にうまくいくデザインは容易ではないようだ。アメリカは長崎原爆を実現するのに、マンハッタン計画の中で、1年半にわたり、きわめて集中度の高い実験を行い、2万件の爆薬実験を行ったという(Critical Assembly: A Technical History of Los Alamos during the Oppenheimer Years, 1943-1945. Cambridge University Press, 1993) 。詳細な技術情報は、「核の闇市場」で流されているのかもしれないが、それなしに自前でやろうとすると、かなりの技術の蓄積が必要だ。ミサイル技術でかなり進んでいるとはいえ、先般のテボドンで失敗している北朝鮮の技術レベルが果たしてどの程度か。

 最初に書いたように、北朝鮮の原爆実験は、現時点での国際政治的な問題であることはもちろんだ。しかし、原爆実験を行ったとして、そこから技術レベルをはかり、ミサイルに搭載した実用兵器となるまでの期間を推定することは、その後の展開と対応を考える上で重要だ。単に原爆実験をしたかどうかではなく、その成功の度合に、軍事専門家は注目していることだろう。それを考えると、北朝鮮も下手な実験はできないだろうと見ている。

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コメント

アクの自己レスです。明日旅に出るため、成田の宿にいます。北朝鮮、思っていたより早く、やってしまいましたね。しかし、私が書いたように、プルトニウム原爆は難しい。今のところ、内爆は思ったほどうまくいかなかった、しょぼくれた原爆実験だったのではないか、と思われます。以下は読売の伝える米からの報道です。

『米ワシントン・ポスト紙(電子版)が米政府当局者の話として9日報じたところによると、北朝鮮の核実験場とされる場所からの地震波は小規模で、実際に核爆発だったのかどうか判断がつきかねるほどだという。

 この当局者は、政府の分析チームは核実験を「どちらかといえば失敗」とみている、と述べた。

 FOXテレビも、米政府高官が、北朝鮮の核爆発が予想より小規模であり、「当初求めていた成果を達成できなかったのではないか」と述べたことを伝えた。』

午後テレビを見ていたら、核兵器の専門家と称する人が、プルの方が臨界量が少なく、ミサイルに搭載するのに小さくできる、だから日本には脅威だ、などとコメントしていました。私の知っているのは逆です。プルは内爆を必要とするために大きい弾頭になる(長崎原爆がファットマン、広島型がリトルボーイと呼ばれたことを想起)。ミサイルに載せるのは容易ではないだろう、ということです。

核実験をしたという既成事実を求めての未熟な実験だったというのが真実だと、だんだん分かってくるでしょう。

これは技術面の話ですが、政治的にはとにかく、核実験を行ったという意味は大きい。北の暴走をどう止めたらいいのでしょう。

しばらく外国に行き、あまり情報に接することができなくなるなかで、成り行きを傍観してきます。

投稿: アク | 2006/10/09 20:34

アクエリアンさん、私のような全くの素人にも分かりやすく解説して頂き有り難うございます。何となく原子爆弾の仕組みがわかったような気がしました。ともあれ、北朝鮮は核保有国になったと宣言することで外交上優位に立てると考えているのでしょう。テレビなどではアメリカが軍事行動に出るのではないかと報じていますが、私はその可能性には否定的です。その理由は、現在のアメリカ政権は極東アジアに関心が薄いこと、イラクがまだ完全に収束していない状況で戦線を拡大することは政権自らの首を絞めることになると冷徹に計算していると予想するからです。中東は資源の関係上、支配権を得ることは将来的に大きな意味を持ちますし、逆に支配権を失うことは米国にとって大きな損失になります。一方、資源も何もない極東アジアでは手を出しても全くの「骨折り損」になってしまいます。艦隊の派遣が予兆になりますが、おそらくそこまで行く可能性はかなり少ないのではないかと思います。
 ではどうするか?日本はこのような困った隣人とおつきあいして行かねばならない現実がそこにあります。隣人が狂犬病の犬を庭に放し飼いにしているようなものです。一番良い選択は「安全な場所へ引っ越しする」でしょうが、そうは行かないところが難しいところです。

投稿: Aurora A | 2006/10/10 22:53

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