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2006/12/11

小澤征爾、水戸来演、新曲初演も

 小澤征爾のコンサートが3日間(06/12/7-9日)、水戸で開催されていた。8日の分を聴いた。体調不良でしばらく休むと昨年末耳にしていたので、水戸室内管弦楽団の定期演奏会で小沢の姿を見るのはしばらく駄目かなと思っていた。今は徐々に復帰しつつあるようで、水戸の場合、例年2回だった来演を一回休んだあと、今年最後のコンサートに来てくれた。今年はモーツアルト年。その最後を交響曲ジュビターのメリハリのきいた指揮でしめくくり、小澤健在を見せてくれたのはうれしいことだった。今回は日本人作曲家の新曲を、ヨーロッパで活躍中の日本人女性ピアニストを招いて、本邦初演するというイベントつきでもあった。

 前半はピアニスト児玉桃によるモーツアルト・ピアノ協奏曲23番と、細川俊夫「ピアノとオーケストラのための〈月夜の蓮〉」。細川のものは日本初演だという。そもそもこの曲は、北ドイツ放送局が、モーツアルト年にちなんで彼の曲にインスピレーションをえた新曲を現代の作曲家に作曲してもらうことを企画し、作曲・演奏されたもののひとつだ。ピアノ、クラリネット、ヴァイオリン、声楽の4部門でそれが行われ、ピアノの分が細川に依頼された。この人はドイツに学び、その地で活躍している人のようだ。細川は、この企画に際して、23番の第2楽章を選んだ。初演(06/4/7、ハンブルク)では、細川は児玉桃を演奏者に指名し、まずモーツアルトの23番、それに引き続いて、この新曲が演奏された。今回のコンサートの前半は、その初演の再現であったが、小沢にとっては初演だった。モーツアルトと現代、モーツアルトと東洋という組み合わせ、出会いは、なかなか興味深いものだった。

 細川の音楽は、テーマらしきメロディーも、リズムも、合奏としてのハーモニーもほとんどない前衛的な現代音楽で、耳にすぐになじめるものではない。23番2楽章にちなんだらしきところは、最後の最後に第2楽章のテーマらしき音が数音符聞こえるだけであった。野に吹き通る風の音にも似た微弱音を、弦が延々と奏で続ける中で、ピアノがときにポロポロと鳴り、あるいは突然強くほとばしるような低音の連打があり、高音への上昇が繰り返されるといったもの。打楽器パートはときおり風鈴を響かせ、大太鼓がドンと鳴る。まあすぐにはどうにも感じ取れない音楽だった。無理して分かったとか、よかったとかいえない。

 細川の自作解説によると、この曲は蓮の開花をイメージしているらしい。蓮の花は、ピアノで現わされる。オーケストラは水と自然。嬰へ音が長く伸ばされて弾かれるが、それが水面の響き。それより低音は水中の動き、最低音域は、泥の中の暗黒、高音は広がりをもつ空を暗示すると。蓮は夜の暗闇の中で、開花に向かってうごめき始め、朝の光を待ち望む。やがて水面を貫き、天に向けて開花する。そこにモーツアルトのテーマがかすかに響く。そういうことらしい。

 児玉は、23番とうってかわって、打楽器のように鍵盤を叩き、細身の体つきから、よくぞそんなすごい響きを鳴らすなという強い低音を奏でるか思うと、繊細な弱音も表現豊かに弾いていた。しかしメロディーもリズムもない、音の断続する曲を、よくぞオーケストラの各パートが間違いなく弾けるものだと、妙なことが気になって、演奏に埋没できなかった。生オーケストラを前にするより、暗い月夜の屋外で、音だけを耳にした方が、印象が強かったのではないかと思った。

 児玉桃は、フランスで育ちヨーロッパで活躍しているピアニストで、ショパンはもちろん、メシアンなども弾いている新進ピアニストだそうだ。この日取れた席は、前から2列目中央だったから、演奏に集中するきびしい表情を間近に見ることができた。23番は第1楽章で難しいパッセージを少し硬い表情で弾きこなし、第2楽章の妙なるメロディーを丁寧に響かせてうっとりとさせてくれ、第3楽章はほっとしたような表情で楽々と弾きあげた。

 この夜、コンサートの席には、先ほどの文化の日に文化勲章を受章した吉田秀和水戸芸術館館長が来ていて、前半が終わったさいの拍手の中で小沢に求められて起立し、みなのお祝いの拍手に応えていた。最近、朝日新聞の音楽時評を再開しているから、次回あたりで、この日の紹介と評を書いてくれるといいが。細川の曲の感想を聞きたいものだ。

 水戸室内管弦楽団は、指揮者兼音楽顧問の小沢が当初集めたメンバーを常連として、そのつど参加するメンバーを加えて、これまで67回の定期演奏会が行われてきた。常連であったオーボエの宮本文昭が、来春を期して演奏からの引退を表明している。小沢に肩を抱かれ、最後のステージ・コールに応えていた。小沢・宮本の組み合わせはこれが最後となるのだろう。いい音を聞かせてくれていた人だけに残念だ。

 水戸は、小沢の演奏を聴くことのできる数少ない場所であるが、地元とはいえチケットの入手には苦労する。水戸芸術館友の会会員への先行販売はあるのだが、数が少ないため抽選となり、たいていはずれる。そうなると一般販売開始の朝、行列に並ぶ。今回分は私の留守の日だったので、みやは朝4時にうちをでて、チケット売り場にむかった。徹夜組を含めてすでに数十人が並んでいた。順番が来たとき、いい席はすべて売り切れ、後ろか、前かしかなく、今回は前から2列目となった。

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