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2006/12/31

言い過ぎだよ、桜井淳

 技術評論家・桜井淳が、自分を星野芳郎と対比して書いたエントリにコメントを書きたい。周知のごとく、彼のブログはコメントを実質拒否しているから、こちらに書く。エントリ全体については、私なりの感想はあるが、それは置いておこう。コメントするのは、彼が原子力の世界の表も裏も知り尽くした無比の立ち位置で原子力について技術評論ができると書いている部分の事実関係についてである。少なくとも私の知っている彼のキャリアからして、それは言い過ぎだろうといいたい。

 私が問題とするのは、この部分である。

 私は星野先生とは異なった経緯と方法で技術評論を開始いたしました。日本でも代表的な巨大科学を推進する日本原子力研究所に就職し、10年弱、研究論文を書く過程を通し、組織のメカニズムだけでなく、監督官庁・大学・主要企業との相互作用メカニズム、さらに、欧米の政府機関・大学・研究機関・企業とのメカニズムも把握いたしました。

 さらに、通産省管轄の原子力安全解析所で、4年弱、原子力発電所の安全審査のための安全解析を実施しながら、前とは異なった座標系から、通産省・電力会社・原子炉メーカー・科学技術庁管轄研究機関との相互作用メカニズムも把握いたしました。

 さらに、日本原子力産業会議の嘱託を一年間務め(森一久専務理事の補佐)、さらに異なった座標系から、原子力産業界の相互作用のメカニズムを把握いたしました。

よって、原子力界の"表の世界"と"裏の世界"を把握している数少ない立場にあります。

 第2パラグラフは、まあいいだろう。私はそこでの彼の責任がどの程度だったかは知らない。推察するに解析員の一員として、一、二の原発の安全解析のダブルチェックのための計算を担当したのだろう。それによって、彼は原発の安全問題の細部を具体的に知った。それが彼の原発安全問題に関する技術評論の素地を作っているようだ。

 第3パラグラフについて、多少経緯を耳にしている。明かしてもいいだろう。電力界、原子力産業界は、当時原発安全問題について、いわゆる反原発派の論客に悩まされていた。広瀬隆、高木仁三郎などである。原研などにいる安全問題専門家が対応したが、しょせん原発推進派とのレッテルを貼られていて、旗色が悪い。反原発でもなく、推進の色も付いていない、いうなれば中立の評論家を育てて、毒の強い反原発派の論客に対抗させよう。森一久はそのように考え、すでに頭角を現しつつあった桜井を使おうとしたようだ。マスコミも、反原発論者のあまりに旗色のはっきりしたコメントよりましと、桜井を便利に使いはじめた。彼もその流れにうまく乗って、原子力界にとって比較的無難な役割を演じてきた。そんな流れで今日まで来ている。

 彼自身から聞いた話だが、電力会社は事故・トラブルがあると、幹部クラスが技術の専門家を連れて、いち早く彼の自宅に直行してくるそうだ。マスコミが彼のコメントを求めに来る前に、電力側の言い分を彼の耳に入れておこうというわけだ。あるいは彼を事故現場に招き、現場を見せる。こんな関係が、電力会社と彼との間にあるようだ。それをどう判断するか、読者におまかせしよう。

 私がここで特に問題としたいのは、引用した彼の文面の第1パラグラフである。私は、彼が組織の中で、どのような立場にあったかをかなり知っている。その私の目からすれば、「日本でも代表的な巨大科学を推進する日本原子力研究所に就職し、10年弱、研究論文を書く過程を通し、組織のメカニズムだけでなく、監督官庁・大学・主要企業との相互作用メカニズム、さらに、欧米の政府機関・大学・研究機関・企業とのメカニズムも把握いたしました。」とは、いくら何でも書きすぎだろう、といいたい。私は彼の直接の上司だったことはなかったと記憶するが、ある程度の事情は知っている。私がその組織にいた時期に、彼は「研究員」だったことはない(その後、そのようになったのかもしれない。それが彼の書く「10年弱」だろうか)。研究所だから、研究員という職能的な身分は明確である。彼は別の職種で雇用されていた。そのような職種を、研究員と差別し、見下していっているのではない。それはそれで重要な役目を担っている。ただ職能は明らかに違うのだ。したがって、彼が研究グループのリーダーであったり、上位の責任ある立場にあったこともない。彼が組織内で重要な企画を提案したり、決定に関与したことはないだろう。また組織の立場で、監督官庁や主要企業と対したことも、おそらく一度もないだろう。

 いうなれば、彼はずっと下積みとして組織にいた。そのような経歴からして、「組織のメカニズム、監督官庁、主要企業との相互メカニズム」と彼が称するものを、どれだけ実地に経験し得たか。うわさ話を耳にしたことはあるだろう。ここ2,3年、私のところにも出入りして、私の経験談を何かと聞いてもいった。そんなことをもって、メカニズムを知り尽くし、原子力界の”表の世界”と”裏の世界”を把握したというのは、もう一度いうが明らかに言い過ぎだろう。私の知る部分についてこうである。他は知らぬが、推して知るべし、かもしれない。

 彼の言動に共通して見られるのは、自分を大きく見せようと大言壮語すること、その裏返しとして、敵とみなすもの(ときにはそれが先輩や仲間であることもある)を罵詈雑言で叩くこと、それでいて権威に弱いことである。彼が権威に弱いのは、「東大」、「学位」、「査読付論文誌」、「物理学者」、「哲学者」などを彼が折にふれて自分に引きつけて書くことに現れている。それらは彼のコンプレックスの裏返しであることは、彼がそれらを口にするたびに、みえみえである。内実のある人は、そのようなことを口にすることをむしろ恥じるものだ。知的世界で言論をするものは、真実を語り、もっと謙虚でなければならない。必要以上に自分を大きく見せようとすることはない。

 最後にひとこと付言しよう。星野に類比するなら、桜井は彼の考えに信従する弟子の一人でも育てつつあるか。高木仁三郎のごとく同志を育て、没後にも影響を残すほどの技術運動を創出できているか。彼が大言壮語すればするほどに、彼の人柄が透けて見えて、せっかくの彼の正論(私はそれは評価している)すら、重みを失っていかないか。

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コメント

このエントリに対する桜井氏の反論です。

私は自宅に議員や電力会社や原子炉メーカーのひとたちに来ていただけるほど偉くありません
-必要があればこちらから出向きます
http://citizen-science.cocolog-nifty.com/blog/2007/01/post_6da3.html

私の知り合いがなぜ私の人生の解説を悪意を持って行うのか理解できません-大きな認識の差
http://citizen-science.cocolog-nifty.com/blog/2007/01/post_1893.html

しかし、このエントリのURLを貼らずに一方的に展開し、あたかも自分が被害者のように振る舞っています。
これでは読者の立場から公正な判断が出来ません。

投稿: 通りすがり | 2007/01/04 21:01

「通りすがりさん」ありがとう。反論に対する反論を書いていたところでした。

投稿: アク | 2007/01/04 22:49

私は自宅に議員や電力会社や原子炉メーカーのひとたちに来ていただけるほど偉くありません
-必要があればこちらから出向きます
http://citizen-science.cocolog-nifty.com/blog/2007/01/post_6da3.html

このエントリに対する矛盾点を下記に示します。
これは櫻井市が書いた以前の市民的危機管理入門に書かれたものです。
キャッシュに保存されています。
http://web.archive.org/web/20041216005013/http://www.smn.co.jp/JPN/security/inside/066.html

投稿: 通りすがり | 2007/01/04 22:59

「通りすがり」さんが書こうとした、URLは次の通りです。
http://web.archive.org/web/20041216005013/http://www.smn.co.jp/JPN/security/inside/066.html
以前、桜井氏が連載していた物のキャッシュです。

投稿: 木村孝 | 2007/01/04 23:50

失礼しました。
上のURLと下のURLを連結してご覧ください。
http://web.archive.org/web/20041216005013/http:
//www.smn.co.jp/JPN/security/inside/066.html

投稿: 木村孝 | 2007/01/04 23:52

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