« 小澤征爾、水戸来演、新曲初演も | トップページ | 弘前印象 »

2006/12/11

間違いの上塗りだな、桜井淳

 原爆の起爆装置(イニシエーター)にラジウムが使われたはずだとの、技術評論家桜井淳の説に、私が、いくら何でもそれはないでしょうと書いた(ここ)。桜井は、自説を補強すべく、核物理屋さんなどに訊ねて回ったらしい。やっと彼に有利な根拠が見つかったと、鬼の首でも取ったかのような調子で、新しいエントリを書いている。土・日と留守をしていたので、先ほどはじめて目にした。私が名指しで攻撃されているようなので、受けて立とう。彼のブログでの話題だが、前にも書いたように、彼のブログはコメントを(実質)受け付けていない。仕方がないので、こちらに書くことにする。この特殊な問題に関心のない読者にはおゆるし願いたい。

 ラジウムのガンマ線はエネルギーが低くて、ベリリウムから、中性子をたたき出さない、だから原爆の起爆装置に使うのに問題はなかったというのが、彼の主張である。ラジウムの発生するガンマ線が0.186MeVだけと彼が思いこんでいるのが、まず間違いのもとだろう。私は手元にデータ・ブックを持ち合わせないが、ラジウムはアルファ崩壊もガンマ線放出も複雑で、もっと高いガンマ線がでているのではないか。

 何よりはっきりしているのは、ラジウムのガンマ線により中性子が発生するという事実である。前の書き込みですでに書いたことだが、中性子物理の最初の教科書として、日本における原子力研究の初期、誰もが読んだ、Hughes:Pile Neutron Research(1953、Addison-Wesley) には、中性子源として製品化されていたラジウムーガンマー中性子源の図が載せられている(p.73)。もう一つ、中性子物理の創始者 E. Fermi の「原子核物理」(小林稔訳、1954、吉岡書店、これも原子核物理をやる人が必ず読んだものだ)の第9章「中性子物理」の第1節「中性子源」の、B.「光子による源」に「1gm の Be から1cm のところにある 1gm の Ra が毎秒 30,000個の中性子を出す」との記載があり(p.233)、次のページには他の光子中性子源を含めた表がある。中性子を誰よりも早く自家薬籠中のものとした フェルミ大先生の書いているものを、桜井は否定するのだろうか。

 閾値があり、それが 1.7MeV だというのは、いいだろう。フェルミの本の同じ箇所にも当時の測定値として1.6MeVとの記載がある。となると、桜井の「ラジウムからのガンマ線による中性子発生はない」との主張のどこが間違っているか。いくつか考えられる。
1)ラジウム226は 0.186MeV 以外にもっと高いエネルギーのガンマ線を出す。
2)入手できるラジウムは崩壊系列の娘核を含んでいて、それが強いガンマ線を出す。
3)ベリリウムに複数の光子が吸収され、閾値を超すまで励起される。

 ラジウムを使うと、ガンマ線により中性子が出ることは事実だし、それを理由にラジウムはイニシエーターとして、最初の段階から候補から外されたことは、数々の文献で明らかで、それにいまだにこだわる桜井の判断はダメ、ダメである。

 なお、起爆装置については、私もその後、新しい情報を得た。米国では核兵器の改良が絶えず行われてきて、最新型ではもはやポロニウムは使われていないことがわかった(ただし遅れて原爆を手にしようとする国は、イニシエーターとしてポロニウムを使おうとするだろう)。桜井がその情報を知り、反論してくるのを待っていたが、どうやら彼が向かった東大駒場の図書館では、その情報は見つからなかったのだろう。技術評論家の調査能力がいかばかりか。それをはかるために、私はこの情報を開示することをしばらく待つことにする。

|

« 小澤征爾、水戸来演、新曲初演も | トップページ | 弘前印象 »

コメント

間違いの上塗りなんて、優しい表現をしないで下さい。
彼の場合「恥の上塗り」です。

>それにいまだにこだわる桜井の判断はダメ、ダメである。

自分の間違いを認めない人ですから、
自説に頑なになるのは彼の性格です。

これ以上水掛け論になるのは必至です。
名指しで暴言をblog書かれる前に引いた方が賢明だと思います。

ちなみに彼のコメント欄は、書き込んだ者の意見をパクり、
それをあたかも自分の説のように扱ったりします。
そして書き込み元のIPをアクセス禁止にするという姑息なことをします。
そしてblog内で書き込み者に対する暴言を吐くのです。

これ以上関わると、とんでもないことになりますよ。

投稿: 通りすがり | 2006/12/12 18:33

初めまして。

Be(g,n)反応による中性子源についての記事、私も興味深く拝見し、いろいろ調べておりました。
桜井さんには日曜日にコメントで教えてさしあげたのですが…
(もちろん、すぐに削除されました)
さも知っていたかのように記事をお書き換えになるかもしれません(笑

Ra-226のα崩壊で出る強いガンマ線は0.186MeVだけですね。
ほかのガンマ線はかなり弱く、エネルギーも低いです。
おそらく、娘核の崩壊で出るガンマ線でしょう。
Ra-226はウラン系列に含まれますが、Bi-214のガンマ線がBe(g,n)反応の閾値を超えることができ、放出率も比較的大きく条件を満たすのではないかと思います。

件のPo-210もウラン系列に含まれますが、安定核のPb-206の1つ手前であり、γ線を放出する娘核を持たないという点が特徴的です。

投稿: 名無し | 2006/12/12 21:07

先日の記事で一応の終焉を迎えたのかと思っていましたら(笑)。専門的なことは分からないのですが、向こうの方のように、コメントを封殺したり、一度書いたものを書き直したり、ああ、もうそれだけで駄目でしょう、と(苦笑)。というか、理系の人にもそういう方っていらっしゃるんですかね。周りに居ないので、とてもびっくりしています。

投稿: sukarabe | 2006/12/14 07:53

 このエントリに桜井淳が反応してくれたようだが、またも的はずれなことを書いているし、何も新しいネタがない。私の書いたことの言葉尻をとらえようとしているだけだ。新たにエントリを立てて書くほどのこともあるまい。コメント欄で簡単に答えておこう。

 桜井はまだ原爆起爆の物理過程が分かっていないようだ。起爆の瞬間に合わせて十分な数の中性子を投入するという中性子源に必要な性能は、放射核中性子源を使うとすれば「半減期の短い(比放射能が大きい)アルファ放射核」でしか実現できない。またもや「半減期が長く、管理しやすいもの」などと、ぼけたことを書いているが、半減期が長いということは、何度も書いているように、比放射能が低く、使いものにならない。その点が桜井には理解できないようだ。(α、n)の中性子を使うとすれば、ポロニウムよりいいものはほかにない。

 ある時期から核兵器の性能向上のためにはポロニウムですら不満足ということになり、アメリカの核弾頭では別種のものが使われるようになった、というのが真相である。さてそれはなにか。ここまでヒントを与えても、桜井が正解を見いだせないようでは、私のポロニウム説を論駁したことにならない。

投稿: アク | 2006/12/14 14:09

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/36654/13028823

この記事へのトラックバック一覧です: 間違いの上塗りだな、桜井淳:

« 小澤征爾、水戸来演、新曲初演も | トップページ | 弘前印象 »