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2007/01/11

廃物間の愛に可能性はあるか

 ブッシュ米大統領が新しいイラク戦略を発表した。さらに米兵を増派し、治安維持の強化を図るというのだ。ブッシュ批判派は、この戦略をサージ(surge)という言葉で皮肉っている。何かがどっと増えるのがサージ現象で、電流とか波とか風について使う。ブッシュ・チームは、米兵のサージで、イラクの難局が解決できる、というか、それしかないと考えている。これに関して、NYT(ニューヨークタイムズ)のコラムニスト Mareen Dowd の書いたコラム ”Love among Ruins" を紹介しよう。タイトルはそれを訳したものだが、直訳すれば「廃墟の間の愛」意訳すれば、「駄目もの同士の相互愛でなんとかなるの」とでも言おうか。

 Maureen は、いつも歯に衣着せぬ主張を、巧みな言い回しで、すかっと言ってくれる。私がNYTでもっとも好むコラムだ。【リンクのコラムを読むには、NYTのTimes Select の契約が必要である】

 NYTの論説("A hanging and a funeral", 07/1/3) で、Thomas Friedman は「このサージというアイデアを聞くたびに、こんな夫婦のことを思い出す。結婚したのだが、うまくいかない。ある日『子供を作ろうよ、そうすりゃ、しっかりした仲になれる』と思いつく。だが、結局うまくいかない。夫婦に一体感がなければ、子供ができてもどうにもならない。」と書いた。

 その論説を引用しながら、Maureen Dawd が "It isn't really a romance turned sour, because it was never sweet." (ロマンスが、気抜けになったのじゃあない。もともと甘い愛の言葉などなかったのだから)という書き出しで、07/1/10づけの論説を書いている。この人のレトリックの美しく巧みなこと、いつもほれぼれして読むのだが、日本語訳をするのはとても難しい。以下意訳しながら、一部を紹介する。

 ある新聞記者は、この戦争のことをこう言った。アメリカがイラクに釘付けになっているのは、夫婦に愛がなくなったのに、子供がいるから仕方がない、一緒にいるしかない、というようなものだ、と。

 別の女性はこういう。このサージは駄目よ。昔のボーイフレンドとよりを戻そうというようなものでしょ。何が間違っていたか分かったから、今度はうまくやり直せるかもしれないわ、こんどは「基準」を設定して間違いを避けましょう、というわけ。ところが同じことで間違いを繰り返すことになってしまうのよ。

 ラミー(ラムズフェルトの愛称)やそのお取り巻きは、アメリカーイラク関係を親ー子関係にたとえる。「子供用の自転車から補助輪を取らないことには、自転車にちゃんと乗れるようにならない」。ウォルフォヴィッツの言葉だ。

 イラクで起こっていることは、ヒエロニムス・ボッスの絵の世界なのに、このおめでたい連中はノーマン・ロックウェルの絵(古き良きアメリカの絵)を夢見ているのだろうか。

 グリム童話集の「黄金の鵞鳥」を思い出す。黄金の羽根をもっている鵞鳥がいる。ある女の子、その羽根がほしくてならない。ところがそれを嫌いな男の子が飼っている。女の子は、こっそり羽根をむしり取ろうとする。その瞬間、魔法がかかって女の子の手は鵞鳥にくっついて離れなくなる。妹がやってきて、姉さんを離してあげようと、手を触れる、やはりとたんに魔法がかかり、この子も離れられなくなる。そこで「サージ」だ。3人目の姉妹がやってきて、離そうとする。この子もくっついてしまう。鵞鳥から姉妹がヒナギクの鎖となって固着してしまう。アメリカのイラクへの関係をいちばんよく暗示しているお話ではないか。

 prom(卒業記念パーティ)に、女の子とカップルを組む約束をした男の子が、その日ホテルに部屋を取っておくほどに、図々しい行為が、このサージじゃないかと言った人がいる。

 ここで、ちょっと説明がいるだろう。アメリカの高校生・大学生にとって、このprom、卒業記念大ダンスパーティは、大きな出来事なのである。男女関係について開放的だと思われているが、アメリカ社会のコアの部分はきわめてお堅い。そのお堅い社会でpromは、若い男女にとって相手を決めるチャンスなのである。このパーティに一緒にいく相手を指名し、お願いしますと誘うのは、男の子の役割。女の子は、想っている人が誘ってくれるのをひたすら待つ。これを機会に結婚にゴールインしたり、少なくともステディの間柄になることが多い。そんなお堅い社会で、ホテルにもう部屋が取ってある、との既成事実の重みで相手を説得して、関係を強要するのは、厚かましい奴しかできないことだ。Maureen のコラムの紹介を続けよう。

 ケネディ上院議員が、昨日(07/1/9)全国記者クラブで、米兵の増派に議会の承認を求めるとの演説をした。質問のとき、増派にともなう予算増にも反対するのかと聞かれた。議員の答はこれ。「予算案は1月の末か、2月初めに出てくる。議会がそれに対して賛否の議論をし、アクションをとれるのは、早くて8週間後。ブッシュは新戦略を発表し、すぐに派兵してしまう。議会審議の段階では、馬は小屋からすでに放たれてしまっているわけだ。そしてその場面では、今イラクにいる兵士を守るための装備まで否認するのかと、民主党は問われることになる」と苦渋を滲ませた。

 大統領は、ホテルに部屋を取っておいて、promのお相手をよろしくお願いします、と私たちを誘っているのだ。

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