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2007/03/22

「臨界」への疑問

 保守点検中の原発から制御棒が数本抜け、原子炉の一部が臨界状態になったという(北陸電力・志賀第1原発、東京電力・福島第1原発)。なぜそんなことになったか、それはそれで大問題である。だが、もう一つ釈然としないことがある。臨界状態が長時間続いたと報道されているが(志賀では15分、福島では7時間半)、それはどんな状態だったのか。ちょうど臨界というようなことが長く続くというようなことがありうるのだろうか。もっとひどい事態があったのではないか。当事者は実情を隠蔽せずに語るべきではないか。原発安全の専門家は考えられる事態を「臨界」などという言葉でごまかされずに、実際にどういう過程が起きていたかを追及すべきではないか。原子炉のことを少しでも知っているものなら、誰も持つであろう疑問を書いてみる。たぶん識者には推定のついていることだろう。それを当事者発表の「臨界」という言葉で覆い隠すという、もう一つの隠蔽があるとすれば問題だ。

 私が疑問に思う理由は、制御棒が何本か原子炉から脱落した直後の状態は、超臨界であるか、未臨界であるか、どちらかであって、ちょうど臨界などということは極めて偶然でしかあり得ないだろうということだ。原子炉を臨界にするには、制御棒を徐々に抜き、核分裂連鎖反応による中性子の数の増加を見ていき、最終的に一定のレベルで持続するように制御棒位置を微妙に調節する。出力の変化を見ながら、微調整でようやく実現できることである。航空機を離陸させ、ある高度に達し、水平飛行が保たれるようにエンジン出力と昇降舵を微妙に調節するのに似ている。

 制御棒の何本かが抜け、たまたまそれが臨界状態などということは、ほとんどあり得ない。臨界状態と発表された事例では、じつは超臨界にまで行っていたに違いない。いわば暴走状態である。ただし原子炉の自己制御性が効いた。超臨界になれば、燃料集合体を水漬けにしている冷却水の温度が上昇し、密度が減る。それは中性子の増倍を抑える方向へ働く。もっと大きく超臨界になっていたとすると、水は沸騰しバブルを生じる。これは中性子の増倍を著しく抑える。バブルが増え続けると、やがて超臨界の度合は抑えられて未臨界へ向かい、原子炉は未臨界状態になる。これが原子炉の自己制御性である。しかしこれでことは収まらない。連鎖反応が抑えられてくると、バブルは消えていき、水温も下がってくる。こうなるとまたもとの状態に戻る。かくして、同じことが繰り返される。結果として超臨界と未臨界の間をゆっくりした周期で原子炉出力は振動したのではないか。なぜゆっくりかというと、核分裂の度合(出力レベル)が上がることと、その結果冷却水の温度が上がる、あるいはバブルが生じるというということとの間に、熱伝導という遅延メカニズムが入るからである。さて、この振動状態が、どのくらいの出力レベルで起こったか。その時、原子炉容器の蓋が開いていたとすると、ある程度の放射能を含む蒸気が、炉室に放出されたのではないか。そこに定期保守の要員はいなかったのか。中性子被曝については、水による遮蔽は十分効いていたか。これらもろもろのことが究明されなければならない。

 誰もがJCO事故のことを思い出すだろう。あの場合も類似のことが起こった。ただし、この場合はウランの溶液である。最初の超臨界ー暴走状態で溶液の温度が上昇し、バブルを生じ、溶液の一部が飛散して、未臨界に戻った。その後溶液が冷得てくると再び超臨界(ただし飛散した分だけ超臨界度は抑えられている)というような振動があった上で、ある温度で丁度臨界、という状態に落ち着いた、ということだろう。これは事後の調査でシミュレーションがなされているだろうが、私はその方面の情報を持たないので、詳細は知らない。

 JCOと、定期検査時の沸騰水型軽水炉とで違うのは、JCOの場合に溶液が飛散して振動が収束したというような事情が、軽水炉ではないということだ。誰かが気がつき制御棒を停止位置に戻すまでは、超臨界ー未臨界の振動がずっと続いたことだろう。真相を聞きたいものだ。

【07/3/23朝、追記】どんな事態になったかをさらに考えてみた。沸騰水型軽水炉でも、超臨界と未臨界の間の振動がだんだん収束するというメカニズムは働くようだ。制御棒引き抜きにより、どれだけ超臨界になるか次第だが、初期段階での振動状態が続くなかで、ある水温、あるいは沸騰状態、ある原子炉出力で、ちょうど臨界という状態に次第に落ち着いていったと見ることができるだろう。それにしても初期段階で超臨界→出力暴走→振動という異常事態があったと推定される。

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コメント

原子力の専門家、アクさんによる記事は興味深いですね。私は、少し古い本ですが、毎日新聞の記者による「原発のある風景」で作業員の過酷な労働状況や輸入・国産の発電設備のための原発を読み、また翻訳の仕事上、放射性廃棄物の問題に接し、限りあるウラン燃料ではなく、様々なマイクログリッド発電に期待しています。退職されたアクさんは原子力推進派ですか、廃止論者ですか?

投稿: Miekli | 2007/03/27 19:22

私の原子力についての考えは、一貫してHPやこのブログで書いてきています。

・現状程度(電力供給の30-40%)の原子力は必要。しかしこれ以上増やすべきではないだろう。日本のエネルギー需要はそう増えないし、増やすべきではない。現在の軽水炉は技術としてはかなり成熟している。しかし、ポカが多い。電力会社の体質などが問題。

・再処理、核燃料リサイクルは、経済的に成り立たないし、エネルギー安全保障上必要ないと考える。プルサーマルは経済的に意義なしと考える。しかし国際政治力学上、核兵器は持たないが、プルトニウム再処理は行っているということに意味があることも理解。そういう不純な動機でやるのかな、と。

・高速増殖炉は、かなり遠い将来(21世紀の後半以降)には必要となるかもしれない。上記当面、はその意味。研究開発はある程度(現在よりずっと抑えたペースで)やっておいた方がいい。「もんじゅ」やその後継の実証炉は、全然急ぐ必要はない。

・ウラン資源は、海水からほとんど無限に採取可能。しかもプルトニウムより安価に。この技術(海水からウランだけを選択的に吸着する高分子化合物については見通しが立っている)を育成すべき。

・核廃棄物は、使用済み燃料に手をつけずに、保管しておくのがいい。保管場所は原発敷地内に増設するしかない。将来的にはロシアなどを相手に、国際的な保管施設を考えていったらどうか。核廃棄物はいずれ資源となりうる。

・核融合は、今世紀中にものにはなるかどうか。研究開発だけやっておく。ゆっくりと国際協力で。

投稿: アク | 2007/03/27 20:20

今朝「早速のレスポンスを有難う」で始まるコメントのアップロードを確認してイグジットしたはずなのですが、ありませんね。こちらは字数制限無しですよね。どこへ消えたのでしょう。思い出しながら書きますと:
1.ウラン資源が無限にということは初めて聞きました。ウラン鉱石資源は40年しか持たず原子力は持続不可能と環境学習の場で話をしてきたので、調べてみます。
2.放射性廃棄物の再利用も初耳です。低レベルの放射性廃棄物は減容処理でガラス状に固化され貯蔵されていますが、高レベルの放射性廃棄物の再利用ですか?愛知県では安城市が一般廃棄物の埋設処理場を掘り起こし、プラスチックや金属を回収して埋め戻しをしていますが、同じように、回収再利用がいつか行なわれる可能性があるのですね。廃棄物からの熱の利用もありえますね。
3.核融合に関しては、元々は我が家の近くの名大プラズマ研(伏見さんや宇田川さん)から始まり、今は隣の岐阜県に核融合科学研究所があり、毎年秋の一般公開は人気がありますが、放射線に関する情報公開・伝達など、地元住民との関係は良くありません。極めて短い時間に発せられる超高温は結局250年前と変わらず、蒸気を発生させて発電に利用するのでしょうか?

投稿: Miekli | 2007/03/28 22:19

Miekli さんへ

ウラン鉱石を海水からつくる
http://ciscpyon.tokai-sc.jaea.go.jp/jpn/publish/01/ff/ff04/tech04.html

海水ウラン捕集材料の開発
http://ciscpyon.tokai-sc.jaea.go.jp/jpn/publish/01/ff/ff18/tech01.html

海水からウランやバナジウムなどの有用希少金属を捕集できる技術を開発
http://ciscpyon.tokai-sc.jaea.go.jp/jpn/publish/01/ff/ff39/tech02.html
海水中のごく微量のウランや希少金属を高分子で集める
http://inisjp.tokai-sc.jaea.go.jp/ACT98J/04/0401.htm

オメガ計画
http://mext-atm.jst.go.jp/atomica/07020107_1.html
加速器によるTRU核変換処理
http://mext-atm.jst.go.jp/atomica/07020103_1.html
原子炉によるTRU核変換処理
http://mext-atm.jst.go.jp/atomica/07020102_1.html

投稿: msx | 2007/03/29 01:09

Miekliさん

コメントの書き込み損ない、私も昨日経験しました。「送信」ボタンをクリックしたあと、書いたコメントが表示され、その下に確認を求める暗号のようなものが出ることがあります。そこに表示される英数字(6文字程度だったか)を、読み取り入力して、あらためて送信ボタンを押さないとコメント書き込みが完成しないようになっています。これはスパムを防止するためにやっていて、書いたコメント内容のスパムの度合をプロバイダーが判定して、スパムでは画面が暗く、暗号が読み取れないようにしているようです。私自身の書き込みでもこれが要求されることがあり、送信し損なって、ガックリしてしまいます。送信前に全文をテキストエディターにコピペしておくといいでしょう。

さて、コメントについてですが、

1.海水中にはほんの僅かながらウランが溶けこんでいます。岩石中のウランが溶け出したものです。高分子の繊維にウランイオンだけを捕集する(丁度そのサイズ、化学的性質にぴったりの)分子レベルの手袋のようなものを、多数くっつけたものを、筏のようなものからぶら下げておくのです。半年もすると、ウランがたっぷりついたついた繊維を引きあげて、処理してウランをとるのです。すでに試験的には成功しています。暖かい流れのある海に筏を浮かべるとか、発電所の冷却用の海水の出口などにおくといいようです。現在ではコストが鉱石のウランにはかないませんが、ウラン資源が少なくなり、ウラン価格が上がってくれば、引き合うようになります。原発発電コストに占める核燃料費はさほど大きくなく、発電コストはあまり上がらないようです。この方法は、プルトニウム利用を進めようとしている人には足を引っ張るものとして、あまり日の目を見ていませんが、私はもっとも有望と考えています。

2.使用済み燃料棒そのものは、最初は水の中で保管されますが、放射能レベルが落ちてくると、空気冷却ですむようになります。それを適当な施設で、そのまま保管するのです。それをゴミと考えることもできますが、将来、資源が枯渇してくれば、プルトニウムやアクチノイドなどをたっぷり含む使用済み燃料があらためて資源として再利用できるようになるかもしれないのです。その時期には、現在の高速増殖炉についてもっと経済性が高く安全なシステムが開発されているかもしれません。現在東海村に建設中の加速器による消滅処理の研究もその端緒になるかもしれません。

3.核融合は超高温で行われますが、エネルギーは核融合の結果発生する高エネルギーの中性子が、反応容器の回りのブランケットで減速・吸収される間の熱として取り出され、その部分(同時に核融合燃料のトリチウム生産も行われます)が原子炉の炉心のような役割を果たします。まだシステムとして経済性が成り立つか遠い将来の課題です。

MSXさんが、上記の1,2については適切な文献をご紹介くださっているようです。ご参照ください。

MSXさん、どうもありがとうございました。

投稿: アク | 2007/03/29 09:32

MSXさん、アクさん、ご教示有難うございます。環境学習の場で語る身として、出来るだけ正確なことを伝えるよう、努力します。

消えたコメントは「記号」を入力して再度送信を押した記憶なのですが、予防的にコピーをしておくのが安全ですね。

「この情報を登録する」の機能は何でしょうか?

投稿: M | 2007/03/29 10:59

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