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2007/10/09

「暴走老人!」という、こじつけ本 (暴走老人? その2)

 前回書いたようなことがきっかけになって読んでみた藤原智美「暴走老人!」(文芸春秋社、07/8月刊)という本。結論としてはトンデモない本で、論じる気もしないほどなのだが、行きがかり上、なにか書いてみよう。

 軽い本である。よく話題になるような社会現象が取り上げられていて、格別精読を必要とするようなものではない。斜め読みで十分で、2時間もあれば読めてしまう。行列待ちができずにキレるとか、やたらしつこくクレームをつける老人が増えた。それだけでなく凶暴な犯罪に走る老人も急増している。その社会的背景に何があるか。どうも老人たちが生きづらい時代になってきたのではないか。まあ一言でいえば、そんなことを書いている。しかし書いてある時代の変化はよくいわれていることだし、それを困った老人が増えていることに直接的に結びつけるのは無理があるようだ。

暴走老人とは この本で論じようとしている暴走老人のイメージが判然としない。最初クレーム老人、キレる老人で始まった話が、凶暴犯罪を犯す老人の話になり、老人の刑事犯が増えているのだとなる。それも高齢者人口が増える割合をはるかに超えて増えているという。本当だろうか、本文で書いていることと掲載されている統計グラフが整合しない。本文では凶暴犯を言っているが、統計に挙げられているのは刑事犯のデータだ。コソ泥や万引きまで入っている。私たちが漠然とマスコミで知る限り、最近、老人の凶暴犯が増えているという印象はない。生活に困り、零細な盗みをやるなどの犯罪は増えているだけなのかもしれない。それだと格差とか、人口構成の老齢化の問題であり、暴走するというイメージは違うだろう。凶暴な犯罪は例外的にあるだろう。それはどの時代にもあったことだ。特に最近それが著しく増え、それを何らかの兆候として読み取り、問題にする必要があるのか。そこが曖昧では、そもそもこの本が成り立ちうるのか、疑問だ。

「新」老人 著者はこの本で問題対象とする高齢者を『「新」老人』と称している。かつて若者が「新人類」と呼ばれたことを意識しているのだろう。こうある。

 分別があってしかるべきとされる老人が、ときには不可解な行動で周囲と摩擦を起こす。あるいは暴力的な行動に走る。こうした高齢者を、私はひとまず「新老人」と呼ぶ。

暴走する高齢者を「新老人」と定義し、そのような人たちが暴走することを問題にするという。そのような「新老人」は、例外的な高齢者ではないだろうか。一般的な老人に多く見られる、あるいは潜在的でありながら看過できない、社会的傾向を摘出して問題にしているのかと思ったのだが、どうもそうではないらしい。私は通して読んでみて、私らの世代を含めて、シニア世代全体の問題を的確に論じているとはとても思えなかった。

なぜ暴走するか 著者はそれを「時間」、「空間」、「感情」の3つの観点から、詳しく分析する。「時間」の項目で分析されているのは、主として情報化社会のことである。特にケータイ、電子メール、インターネットなどが、人々の時間感覚を変えてしまった。たとえば、待つということがなくなった。人と会う。手紙を送る。そのようなことがケータイや電子メールで即時的になった。それでいて待つ喜びは奪われ、たまに待たされる場面ではこらえ性がなくなった。また会社でも社会全体でも時間管理が厳しくなった(著者は帯グラフなるものを強調する、あまりピンと来ない、「時間管理」のことだろう)。ケータイ、電子メール、顔文字、若者言葉、持ち歩く音楽(iPodなど)、デジタル化した本、などなど、この書が例に挙げている情報化社会の典型的な姿、それはよくいわれていることだ。著者によると、老人は、そのような変化についていけないことに欲求不満を抱き、暴走するという。本当だろうか。

マイペースの老人たち たしかに情報化社会についていけずにいる高齢者は多い。しかし、実際問題としてそれほど困ってはいない。ケータイも電子メールもやりません、で通っている人がけっこう多い。それをハンデとは思っていない。痛くもかゆくもない。若い人たちは盛んにやっているけれど、やらなくてもどうってことない。あんなものを使ってあくせくするのは若い人たちに任せ、私らはもっとスローに、マイペースに好きなことをやっていこう。そういう人が多いのではないか。まして、それが原因で暴走するなんて、ありえないのではないか。

独居する老人たち 「空間」の項目では、独居する老人が増え、ご近所トラブルが頻発しているなどの事例を挙げている。それはたしかに問題の社会現象だ。しかしそれと暴走老人がどう結びつくのだろう。孤独のあまり、かまってもらいたいと、犯罪に走るのだという。それは極めて例外的な事例だ。また、昨今の住宅事情にともない、個室化がすすみ、さまざまな公共の場での個のテリトリー意識へとつながっているとの指摘がされている。それは当たっているが、どちらかというと若い世代ほどそうなっている。ここで奇妙なことに著者は、高齢者は個室経験がないため若者のテリトリー意識についていけず、摩擦を生じ、暴走するというのだ。

「新常識」についていけない老人たち 第3点の「感情」では、もっと些末なことが問題視される。スタバやマック(マクド)などの最近のファーストフード店でのセルフサービスなどでは、暗黙のしきたり(著者は「透明なルール」と呼ぶ)がある。エスカレーターや動く歩道などでどちら側に立つかということなどもある。新時代の新常識になれない老人たちが、うまく対応できずに情動を爆発させるのだという。またサービス産業を中心に、「丁寧化」(丁寧な言葉遣いや笑顔での対応など)、マニュアル化が進んでいる。この部分で、従業員は心まで管理されるとの指摘はそれなりに興味深いが、この問題と暴走老人とどう関係するのだろう。とってつけたように、そのような社会変化についていけない老人が暴走するとの言葉が添えられる。

暴走老人は後付けでは 読み進めるうちに奇妙なことに気づいた。この本はもともと老人のこと、それも暴走する高齢者のことをテーマにして書いたものではなさそうだということだ。情報化社会、住環境の変化、サービス産業の近代化などが進むにしたがって、変化についていけず、取り残される人が増えていく、それが問題だ、というような視点から書き出された原稿があった。出版するに当たって、キレる老人というセンセーショナルな話題に結びつける改変が行われ、「暴走老人!」という目をひくタイトルをつけた。本の成立事情を推定するに、そんなことなのではないか。どの部分も、さほど老人問題と関係ない文脈で大部分が書かれていて、最後の2,3行に、老人はついていけず暴走するとのパラグラフが付加されている。ある意味、老人こそダシに使われ、迷惑千万な本ができてしまったともいえる。著者もさることながら、出版社と編集者の売れる本を作りたいとの動機が、こんなトンデモない本を作り出してしまったのではなかろうか。

 現在の社会環境に置かれた高齢者の内心に分け入り、時代として読み解くべき深い洞察をしていることを、私は期待してこの本を読んだが、その期待は報われなかった。時間と金をかけて読んで損した感じがした。やはりこの手のトピックス本は読むべきでなかった。

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コメント

寧ろ、親の年金を当てにして暮している若い人々を身近に見ると、その人々こそ、高齢に成られた時に、大丈夫かしらという気持ちになります。私の亡くなった父こそ、暴走老人という名に相応しい、我儘一杯の、どうしようも無い淋しがり屋の、お節介焼きでしたが(笑)、「子供の世話に成るか」という頑固さだけは、父の唯一の自慢だったようです。また、私の身近な高齢の方々は気の毒なくらい子供さんに気を使われていて、果たして、ご紹介の本の現象通りかしらと、私も首を傾げました。

投稿: 梅吉 | 2007/10/25 23:40

梅吉さん

九州を旅し、ネットを読めない場所で三日を過ごし、熊本空港近くのビジネスホテルでコメントを読みました。公開手続きが遅れてごめんなさい。

じつは大分にも一日いたのです。24日(水)なつかしい場所をあれこれ訪ね、全日空ホテルに泊まり、夕食の場所を求めてウロウロし、ジャングル公園近くの居酒屋「紙風船」で食しました。このての店がわたし好みです。

梅吉さんのいらっしゃるところだなと意識しましたが、ご連絡はしませんでした。

明日は東京へ戻り、明後日、日常の生活に戻ります。

旅でいろいろな人と出会い、刺激をいっぱいもらいました。

近頃の若い人、特に男の子のひ弱さは随所で話題になりました。

ブログは、帰ってからふつうのペースに戻します。あとしばらくお待ちください。

投稿: アク | 2007/10/28 20:04

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受信: 2007/10/10 05:15

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