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2007/10/02

おかしいぞ、「安全・安心」という連語

 かねてから「安全」をいうとき、「安心」という言葉を添えて、「安全・安心」というようになったことに嫌悪感を抱いてきた。最近、ますますひんぱんに聞くようになってきた。テレビコマーシャルにも登場する。東国原知事も、宮崎県の食の安全を訴えるとき、何のてらいもなく「安全・安心」を繰り返す。各地の行政機関に「安全・安心なんとかかんとか」というような組織や委員会ができている。いまや行政機関などで大はやりの言葉のようだ。しかし、「安全」と「安心」をつないで、「安全・安心」と連語にして使うのは、間違っている。最近依頼されてあるところに寄稿した際、それを書いた。それがまだ出ていないので、先取りして書くことはやめておきたいところだが、昨日(07/10/1)の福田新首相の所信表明演説で、それが連発された。やはりひとこと書いておきたくなった。

 福田新首相の施政方針演説について、まあ無難だという受け止め方のようだが、それは私にはどうでもいい。ただ一つ、大変気にくわないことがある。「安全・安心」という言葉である。全文を検索してみると「安心」を12回も口にしている。そのうち6回は「安全・安心」、一回は「安全で安心」と連語で述べている。残りの5回が単独で「安心」を使っている。演説には、まとまりごとに小見出しがついているが、その一つが『安全・安心を重視する政治への転換』である(この小見出しはさきほどの回数に数えていない)。年金不安や生活不安で政治が揺らいできたなかで、なんとか国民の安心を得たいという気持の現れなのだろう。「不安」を数えてみると5回、「信頼」を数えてみると7回である。政府に対して国民の持つ不安をなんとか解消し、信頼を得たいということのようだ。

 ある部分ではこの言葉が立て続けに使われている。一部を抽出するとこうである。



 国民生活に大きな不安をもたらした耐震偽装問題の発生を受け、安全・安心な住生活への転換を図る法改正が行われました。成熟した先進国となった我が国においては、生産第一という思考から、国民の安全・安心が重視されなければならないという時代になったと認識すべきです。政治や行政のあり方のすべてを見直し、国民の皆様が日々、安全で安心して暮らせるよう、真に消費者や生活者の視点に立った行政に発想を転換し、悪徳商法の根絶に向けた制度の整備など、消費者保護のための行政機能の強化に取り組みます。

 毎日の食卓の安全・安心は、暮らしの基本です。消費者の立場に立った行政により、食品の安全・安心を守るため、正しい食品表示を徹底するとともに、輸入食品の監視体制を強化します。

 都市については、大災害時の安全確保など、安全・安心な街づくりを目指します。

 食料の安定供給は、今も将来も極めて重要なことであり、安全・安心な食を生み出す日本の農林水産業が・・・。


 「安全」と「安心」をつないで、「安全・安心」と連語にして使うのは間違っている。「安全」は食なり、住なり、エネルギーなりの事業を行っている当事者が確保するべきものであり、行政は指導監督責任がある。その体制が全体としてまっとうに動いて安全が確保されているのを見て、安心するのは安全の受益者(潜在的被害者)である私たちである。立場が違い、概念が違う。「安心」は、安全確保を怠れば被害を与える側が、被害の潜在的受け手に向かって安易に口にすべき言葉ではない。安全と安全の違いを対比してみよう。

   安全         安心
  技術的問題     心理的問題
  客観的       主観的
  与え手側      受け手側
  具体的対策あり   なし
  多重的対応     一瞬に消滅
  積み重ねの実績   遅延的


 前の方は、特に説明は要しないだろう。最後に遅延的と書いたのは、事業者側や行政が安全を長年にわたり営々と努力すれば、かなり遅れて人々の安心感がやっと得られるという意味である。それでいて、何かが起これば、安心は「一瞬に消滅する」ものである。具体的な対策はない。ただ営々とした努力あるのみである。そういう意味で政策になりにくい、いや、なりえない。それだのにどうしてあのように安易に「安全・安心」というのか。私は非常に疑問に思い、「安全・安心」という連語の不使用を訴えるのである。

 政府や事業者は国民の「安全」を確保するようまっとうに働いてくれればいい。「安心」できるか、できないかを決めるのは、私たちである。行政も事業者もひたすら「安全」の達成に努めてくれればいい。国民に安心してもらおうということは、政治の目標とはなりうるだろう。しかし表だって言葉にすべきことではない。心に秘めてもらいたい。内心にそれを期して、ひたすら努力してくれればいい。どうしてもいいたいなら、百歩譲って、行政府内や事業所内だけにとどめてもらいたい。内部の会議などで、責任者が現場の人に、人々に安心してもらえるように安全確保に地道に取り組みましょうと、訓示を垂れるのはまあいいだろう。しかし、何もしないうちから国民に向かって「安心」を連呼しないでもらいたい。「安全・安心」と連語を使う政治家、事業者は、姿勢が間違っている。言葉遣いに鈍感である。もっといえば国民をなめている。安心できるかどうか、わたしたちがきめる、それまでまっとうな努力を積み上げてもらいたい。

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コメント

>安全・安心

おそらく、"safe and secure"の翻訳でしょう。

ただし、実際の意味は、
safe  : (事故、災害等に対して)安全
secure : (犯罪、戦争等に対して)安全
でしょう。

ぶっちゃけていえば、英語でいくら"safe and secure"といおうが、日本語では「安全な」の一言。

ところで、食品の安全性は、safetyなんだろうか?securityなんだろうか?
(と、思って調べたらwikipediaの英語版では
 "Food security"とありました。)

投稿: 通りすがり | 2011/01/21 11:36

通りすがりさん

コメントありがとうございました。

>おそらく、"safe and secure"の翻訳でしょう。

英語の翻訳から来たものではないでしょう。

私の記憶からすると、原子力の世界で、最初に使われ始めたようです。

もう十分すぎるくらい安全対策をしているのに、みなさんには安全だと見なしてもらえない。その世論の動向から、安全では不十分、安心してもらわないといけないのだと。

その気づきはいいのですが、だからといって、「安全・安心」と続けて言って、安心を押しつけようとしてもダメなんです。

安心は受け手の心の問題で、それを行政側が、言葉だけで強調してもダメ、安心は結果としてついてくる。そんなことを書いたのでした。

もう何年も前のブログ・エントリですが、いまだに「安全・安心」という言葉が機械的に発せられるとき、おぞましさを感じます。

投稿: アク | 2011/01/21 17:39

「安全」と「安心」をつないで、「安全・安心」と連語にして使うのは、福島の事故について特有な逆説的提言として間違ってはいない。事業当事者と行政指導監督の点、安全に限らず受益者(潜在的)の立場、概念が違う点、を対比するのに同意しても、強い関連性があることを見抜かなければ、積極的な事故対策を遠退かせる元原発関係者の発言のように読めました。

   安全         安心
          |
実検証した証拠がな 電力業界の遣らせで
い技術的問題なのに 迫る心理的問題。
          |
その客観的な運営を その主観的な発表が
しない業界体質は  正に業界体質。  
          |
根拠与え手側なのに 事実受け手側を無視。
          |
安全具体的対策あり 津波なしで安心させた。
の暦を受け入れず
          |
過去多重的対応せず 結果一瞬に消滅。
          |
実施していない   被害は今も    
積み重ねの実績の  遅延的。
          |

投稿: 委託先 | 2012/03/19 04:46

委託先さん

コメント拝見。

今回の福島原発事故があって、「安全・安心」と安易に言い慣れてきた風潮が、この事故の背後にあった。このブログエントリの主張は間違いどころか、その主張を関係者に届けられなかったと,悔しい思いをしたのでした。「安全神話」だけでは足りず、口先だけで「安心」を言ってきた,空疎な「安心」スローガンの過剰もあったのだと。

おっしゃるとおり、安全と安心は「強い関連性」があります。ただ、与える側(事業者・行政など)と受ける側(受益者かつ被害者)の立場は全く違います。

事業者も行政も安易に「安心」を口にするのでなく、住民の「安心」を得ることを内心に秘めた目標として,そのためにこそ、安全を万全にするよう日ごとの努力重ねる。それをしていれば、この事故はなかったでしょう。

あのひどい事故が起きてしまって、しかもそれが主として人災であったことが明らかになって、「安全・安心」標語のメッキはすっかりはげてしまいました。回復はほとんど不可能になっています。

私の言わんとしたことを,もう一度よく読んで理解していただけば、お考えが,私の主張とさほど違いないをお分かりいただけると思います。

投稿: アク | 2012/03/19 09:13

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