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2007/12/04

デンマーク - 高負担でも競争力のある国

 税金が高い。所得の70%もとられる。消費税率は25%もある。組合が強い。社会民主主義的な政治が支持されている。そんな国がグローバリゼーションの進む中で競争力を維持できるはずがない。それが最近の常識である。ところがデンマークはそのような国でありながら、高い国際競争力を誇っている。

 一つ前のエントリ「先送りでいいのか」(07/11/27)で、日本の国の将来の形を考えるさい、税制の問題は避けて通れないのではないかと書いた。念頭にあったのは一つのモデルとしてのデンマークなど北欧諸国、高福祉・高負担の国である。このモデルについては、さんざん議論があり、小泉構造改革以降の政治は、ある意味、逆の方向を目指していることは承知している。しかし、その結果としての格差が大きく問題になってきた。遅かれ早かれ年金制度の抜本改正と消費税が絡んで論じられることになるだろう。こういう状況のなかで、デンマークのような国のあり方も一つのモデルとしてあることをあらためて確認しておくのもいいのではないか。そこで、前のエントリを書くきっかけになったTIME誌(07/11/26号)の特集 ”The best countries for business" でも注目しているデンマークの例を少し詳しく紹介して、みなさんに考える手がかりを提供しようというつもりである。政治や経済の問題にまったくの素人がこんなエントリを書くのは、蟷螂の斧(とうろうのおの)であるが、しばらくお付き合いのほどを願いたい。

 デンマークは今回発表された国際競争力ランキングで第3位だった。アメリカ、スイスに次いでいる。このところ、ずっとこの位置をキープしている。経済は好況を維持している。失業率は3.1%。国民一人あたりの所得は、アメリカと同程度だ。それも格差が非常に少ないので、だれもが豊かさを享受している。手厚い社会福祉のおかげで、生涯にわたり生活の不安はない。しかし国民負担率は先進国中スエーデンに次いで高い。先に書いたように、所得の約70%は税金と社会保険で持って行かれる。それでいて国民に不満はない。手厚い社会福祉のおかげで、家計収入が生涯にわたり保障されているからだ。

 少し細かくなるが、まずいくつかの指標を見てみよう。こういうことに関して便利なのはネット上にある「経済社会データランキング」である。デンマークのデータはここにある。以下とくに断らないかぎり、OECD30カ国についての05年データでのランキングである。比較のため、日本、アメリカ合衆国のデータを示した。

人口:5,431千人(23位)、日本 128,085千人(2位) 、アメリカ 298,213千人(1位)
60歳以上の人口割合:21.1%(17位)、日本26.6%(1位)、アメリカ 16.7(23位)
合計特殊出生率(00-05年):デンマーク1.75(9位)、日本 1.33(21位)、アメリカ 2.04(3位)
人口成長率予測(05-50):0.2〜0.3(11〜14位)、日本 0.1 〜 -0.4(21〜27位)、アメリカ 0.9〜0.4(3〜6位)
国民一人あたりの国内総生産(05年米ドル換算):47,906米ドル(6位)、日本:35,672(13位)、アメリカ 41,960(7位)
消費税率(一般、03年1月):25%(1位)、日本:5%(30位)、アメリカ 8.25%(27位)
インフレ、消費者物価(01-05平均):2.0%(20位)、日本 -0.4(30位)、アメリカ 2.6%(14位)
失業率:4.9%(20位、現在は3.1%、29位と改善)、日本 4.4%(24位)、アメリカ 5.1%(18位)
所得格差(ジニ指数*、00年、25カ国中):22.48(25位)、日本 31.38(10位)アメリカ 35.67(4位)
家計の純貯蓄率**(24カ国中):1.1%(17位)、日本 3.2(14位)、アメリカ -0.3%(21位)

【注】*ジニ指数(係数ともいう、この場合は0〜1で数値が表現されることが多い)は、富の集中度を表す数値。低いほど所得が平等に分配されていることを示す。最も不平等であるときが100、完全な平等を表すときが0となる。例えば、100人中、99人が所得0、1人が所得の全てを占める場合、ジニ指数は100、100人全ての所得が等しい場合、ジニ係数は0、数値が大きいほど不平等な所得分配を表す。20〜30だと通常、市場経済は30〜40を許容、それ以上になると格差がきついとされる。ちなみに中国は01年データで44,7、日本は93年では 24.9でデンマーク並みだった。格差拡大が日本の数値変化に現れている。
**家計可処分所得に対する貯蓄の割合

 デンマークの国の規模は小さい、九州とほぼ同じ面積に、福岡県よりやや多い人口が住んでいる。人口構成は日本ほど老齢化はひどくなく、出生率は高いので、人口は微増の傾向にある。国民所得は高く、格差は先進国中もっとも少ない。失業率も一時悪かったが現在は改善されていて、最良である。年間最低5週間の休暇があり、消化率もいい。

国民負担率の比較は、財務省のHPにあるデータ(7.財政赤字の問題点。国民負担率の国際比較)を引用する。ただし、デンマークの分がないので、多分大差ないだろうと、スエーデンで代用する。

租税負担率+社会保険負担率=国民負担率を示す。数値は国民所得に対する%である。
日本(07年度)25.1+14.6=39.7
アメリカ(04年)23.2+8.7=31.9
スエーデン(04年)49.9+20.2=70.2

デンマーク(スエーデン)は、前掲の高い消費税(25%)をふくめ、日本では考えられないほど高負担の国である。

 14年前、この国にも危機があった。不況とふた桁の高失業率のため、この福祉国家モデルは破綻するかに見えた。保守系政党は、減税を行うとともに、財政支出を大幅に削減し、高福祉をやめ小さな政府を目指すべしと主張した。しかし国民は中道左派政権を選んだ。この政権は、高負担と高福祉を維持しながら、柔軟性のある労働市場を実現することを図った。失業保険(9割の収入が保障される)の期間を短くし(といっても、それまでの9年を4年にしただけだが)、再就職のための職業訓練に力を入れた。それが実を結んで、失業しても転職が容易にできるようになり、不況から脱却した。法人税の軽減など企業の経営環境を整えたこともある。今ではデンマークは、企業にとって労働者を解雇するのに最も費用のかからない国といわれる。組合の強い国でありながらである。

 TIME誌にこんな実例が出ている。レゴというおもちゃをご存じだろう。わが家の子供たちは飽きずにレゴで遊んだ。孫たちも好んで育った。レゴはデンマークの代表的な製品の一つだ。そのレゴ社が、工場を東欧とメキシコにアウトソーシングすることを昨年決めた。国内の主力工場での労働者は1200人から300人に大幅カットされることになった。さて労働者はどう反応したか。反対すると思いきや、受け入れたのである。「それがデンマーク全体としての雇用者を確保する最良の方策だ」と理解を示した。「企業が儲かれば、われわれ労働者も所得が増える。経営の方針に反対しない」と組合幹部はいう、それどころか、「アウトソーシングにはいい面がある、アウトソース先の国の生活レベルが上がれば、人々はレゴを買うようになるし、ほかの西側製品も売れるようになる」、全体として考えれば、デンマークの労働者の利益になるというわけだ。政府と企業と労働者と、3者がいい意味で協調して繁栄の道を進めている。

 デンマークにはそれほど大きな企業はない。しかし小規模で前向きで活気のある企業が多数ある。それらの企業の存在が労働市場の柔軟性を確保している。だから一つの企業がアウトソーシングしても、失職の心配がないのだ。国の経済政策と企業活動が協同して動いている。ビジネス・フレンドリーな政策が国民から支持されている。会社の利益に対する課税、法人税は低い。配当課税も低い。それらのことが、WEFの国際競争力ランキング3位の評価を支えている。市場の開放性もいい。今回のWEF評価の中身を見て目立つのは、以下の項目である。

保護主義の小ささ:2位
外国投資家による国内企業の経営の自由度:1位
外国人に対する政府調達の開放性:1位
競争法制の効率性:2位
(53カ国中、2006年のデータ)

 01年に「小さな政府を主張する」中道右派に政権が移った。しかし右派政権は経済政策をほとんど変えなかった。変えることがなかったのである。政権中枢にある人のコメントとして「現存するモデル、すなわち無料の教育、無料の医療、失業時の高保障、柔軟な労働力市場、そして適正な企業サイズなどは、15年、20年後グローバリゼーションに対する最善の解答だったと評価されることだろう」と言っている。

 デンマークには特殊な国情がある。デンマークに住む人の均質性である。90%以上の国民が、純粋のデンマーク人だそうだ。多くのヨーロッパ諸国が多民族国家になっていく中で、デンマーク人は千年間も、同じこの小さな国を維持してきたのである。一つのクラン(氏族)のようなものだ、という。それが協調を生み出すのだろう。それでいて閉鎖的ではない。ビジネス面では模範的な市場開放制度を持っている。そのあたりがデンマーク成功の秘訣だとの分析もある。民族の均質性については、日本も一面似たような事情にあるが、国民の連帯という意味ではどうなのだろうか。

 以上のようにデンマークのことを紹介しても、デンマークのような小さな国と、世界第2位の規模を持つ日本経済では事情が違うということで片づけられることだろう。それはそうだろう。しかし学ぶべき点も大いにあるのではないか。

 さて、前のエントリで、現在、日本の政治状況の中で重要な政治課題が先送りされていることは、国の将来に禍根を残すことになるだろう、その最たるものは税制の見直しではないか、と書いた。税のあり方は、国のあり方を決める。日本は高福祉をめざしているようでいて、腰が据わっていない。高福祉は高負担なくして実現できない。高負担は社会の活力を削ぐ、競争社会での自己責任で福祉をカバーすべきだ、との方向にも振れたりしている。少子高齢化の進む中で、日本は明確な政策議論をせぬまま政争に明け暮れ、大事な問題は中途半端な状態で先送りし、その間に財政赤字が積み増してきている。

 私たちは、大きな政府による高福祉は破綻する、小さな政府と効率的な競争による成長こそが答えだ、という公式で社会経済を考えるようにしつけられている。しかしデンマークの例を見ると、この公式にある「あれかこれか」だけではなく、政策運営次第では、高福祉と競争力維持の二兎を追う道もあるのではないかと思われる。競争による勝者が丸取りし、負者は深みに沈んでも仕方がないという社会ではなく、誰も将来の不安を感じることなく、それでいて働きがいを感じて生きる場がある、そういう社会が望ましいのだろう。もちろん国情によって実施すべき方策は違うだろう。何をすべきか、大胆に政策立案をし、強いリーダーシップで引っ張っていく、そういう政治が今必要のようだ。二度か三度の選挙を経なければいけないのかもしれない。国民福祉のあり方について対立軸のはっきりした政策論争が行われ、私たちに選択の機会が与えられることが望ましい。

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コメント

経済問題は畢竟、富の分配の問題だと理解しています。
人がそれぞれの能力に応じて働き、それぞれの必要に応じて物を手に入れることができる社会。
そんな社会の実現を望んでいます。
税制を議論する際、政府自民党は必ず、企業向け課税の増税による企業の投資意欲の低下、
所得税の増税による消費者の消費意欲の低下をもち出します。一方、野党側にも、高福祉高負担を政策として提言している政党は、今のところ見あたりません。
党利党略に終始しているようでは、明確な方向性を打ち出し得ないのでしょう。

ジョウビタキを見かける季節になりました。
ご自愛ください。

投稿: sollers | 2007/12/05 20:36

①私の知識ではカタール、UAE、ブルネイ、デンマーク、ノルウェーには少人数で石油をデンマークは中東ほどではありませんが北海油田と天然ガス所有していています。日本との違いはやもえないと感じます。
②アジアと欧米の違いは平地割合と人口密度です。狭い平地に多い人口のアジアは立退き・土地買収費、高架化等があり、多い山ではトンネル、渓谷の橋、山を削った道路や鉄道があります。欧米は空き地に作る割合が高いです。
③日本は世界最大の地震国で家を何百年も住める場所とは建て替えの負担が全く違いますし、高架や橋もそうです。社会負担の余裕と種類が違わざるをえないのではないでしょうか。

投稿: 曇 後晴 | 2010/10/26 13:14

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