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2008/06/22

ジャガ豚と「ほげる」

 「そんなにくっつけて蒸しちゃあ、皮がほげちゃうよ」。思わず飛び出した「ほげちゃう」は、連れ合いも理解できる大分弁である。いや、大分弁とも意識せず、自然に口から出た言葉だった。それが相手に通じ、「それ大分弁よ」と返されてしまった。そうか、そういえば久しく使ったことがなかった。でも、その表現が、ジャガ豚の皮が破れた様子にはぴったりで、それ以外適切な言葉がないくらいだった。

 「ジャガ豚」という食べ物を教えてもらって以来、よく食卓にのるようになった。横浜のSさん夫妻のお宅でご馳走になった折に知った。北海道産の食材である。デパートの北海道物産展などで売られているらしい。小振りの丸い饅頭のようなものだ。馬鈴薯を原料とした皮が、もちもちしていて、中に具として入っている豚の挽肉とよく合っている。スープにすることが多い。他に代え難い食感が何ともいえず、取り扱っている店が比較的近場にあることを発見してから、わが家の常備食となった。キャベツの大きな葉を敷いて蒸し器で蒸すこともある。ジャガ豚を詰め込みすぎると、互いにくっついて、それを無理にはがすと皮が破れる。それこそ「ほげた」という言葉がぴったりの状態となる。

 私は、もともとは関東圏の出身だが、大分に小学校4年から、高校2年まで、8年ほど居住した。時折開かれる高校同期会の際、大分弁が飛び交うのに結構ついていける。連れ合いは、朝鮮から引き揚げて、2年間ほど大分にいたに過ぎないが、父親が大分県中津の在の出身である。この父親は、ときどき地を出して「・・しちょる」というような大分弁を口にしていたから、連れ合いは耳に馴染んでいたわけだ。

 「〈ほげる〉は本当に方言なのかな」と広辞苑を引いてみた。九州地方の方言とある。大分より広い範囲で使われているようだ。目を惹いたのは、『[日葡]ホグル』と注記があることである。これはキリシタンの時代に、日本に宣教に来たポルトガル人のバテレンが編纂した、日本語→ポルトガル語辞書に「ホグル」という音読みで採録されているということだ。当時の九州人は、それほど「ほげる」をよく口にしていたということだろう。

 「ほげる」は、古文に出て来そうな感じの語であるが、大分弁には古語に由来するものが多い。「おらぶ(叫ぶ)」、「こづく(小突く)」、「ひる(放る)」などがあり、特異な表現として「よだきい」がある。関西弁の「しんどい」に近いが、疲れた、何もする気がしない、というほどのニュアンスである。語源はいろいろ説があるらしいが、わたしは「余は、大儀じゃ」から転じた(よ、たいぎ→よだきぃ)と教えられた。

 もう一つ、ついでながら、ポルトガル語から日本語に入ってきた外来語は結構ある。パン、カステラ、てんぷら、ボタン、たばこ、合羽などはよく知られている。金平糖もそうだと、ポルトガル旅行をしたときに教えられた。にわかに信じがたいのは、「ありがとう」が、ポルトガル語の obligado(男)/obligada(女)から来ているという説だ。「ありがとう」は、ポルトガル人の渡来以前からあり、たまたま発音が似ているだけではないだろうか。

 さらにもう一つ、ついでながら、連れ合いとは大分時代、小・中学校同期生であったことがそもそもの縁で、結婚に至った。とつぜん飛び出した「ほげる」は、私らが共有するものを思い出すよすがとなった。

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コメント

じゃが豚、はじめて知りました。デパートの物産展などで見かけたら一度食べてみたいものです。
「ほげる」という言葉はひと山(阿蘇)越えた私の郷里、熊本では聞いたことはありません。
熊本で古語に由来する言葉の一つに“ぬしゃー”(=きみは)というのがあります。「お主は」という武士言葉から変形したものです。
もうひとつ、“むしゃんよか”というのも特有の熊本弁ではないでしょうか。
「武者振りがよか(よい)」→「武者がよか」がつまって“むしゃんよか”に転じたものです。
「格好いい」という意味ですが、司馬遼太郎は著書「この国のかたち」の中で次のように解説しています。
『「ムシャ(武者)がよか」という古い熊本弁は、カッコイイという意味として使われてきた。男に対してだけでなく、女ぶりが一段とあがるカッコウに対しても、つかわれる。
日葡辞典には、muxaburigayoi(武者ぶりが良い)ということばで載っている。“ムシャがよか”という一点で肥後人の心は窓があき、風が通るのである。
“ムシャがよか”というのは、単に武勇があっていさぎよい、というだけでなく、その人物に表裏がなく、正直で陰険な政略を用いず、また晦渋でない、ということも重要な条件にちがいない。』
ついでに方言ではありませんが、いまや熊本でしか使われていないのではないかと思われる言い回しに、“ひともじ”があります。広辞苑によれば、『(女房詩。もと葱を単に「き」と一音で言ったことからいう)ネギをいう」とありますが、熊本では特に小ネギを“ひともじ”と言って普通のネギと使い分けています。
このおくゆかしい?響きをもつ宮中/将軍家の言葉がなぜ熊本で一般に使われ続けてきたのか興味のあるところです。


投稿: かたやま | 2008/06/27 16:12

かたやまさんは熊本ご出身でしたか。
「ほげる」は熊本では通じませんか。「ぬしゃー」は、使わないけれども、分かりますね。たぶん、全国区で通じるでしょう。もともと「おぬし」は時代劇などで常用されているせいでしょうか。「むしゃんよか」は、まったく分かりませんね。
「ひともじ」は奥ゆかしい表現ですね。「ふたもじ」もあるとか。

 今日(08/6/27)の毎日新聞「余滴」に、「日葡辞典」が話題になっていて、そこに「ミトモナイ」が収録されているとありました。「見とぅもない」なのでしょうが、「みっともない」事例は、昔も今もかわらずあったのですね。「日葡辞典」は、当時の言葉遣いの記録として面白いです。

投稿: アク | 2008/06/27 20:32

アクさん

ようやく念願の!?ジャガ豚を食することができました。近郊の地場百貨店での物産展で妻が買ってきてくれました。いかにもストレートなネーミングで、もっと「田舎的なもの」を勝手にイメージしていましたが、一見白玉にも似た“上品な”風味でおいしくいただきました。
製造元のHPによれば生産が追いつかないほど、人気があるようで。また求める機会があればと思います。

投稿: かたやま | 2008/10/14 13:45

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» Letter from Yochomachi (Google): Aquarian's Memorandum: ジャガ豚と「ほげる」 [Letter from Yochomachi (Blogger)]
引用させていただきました。 [続きを読む]

受信: 2008/06/25 14:00

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