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2008/07/12

『東京の凸凹地図』は面白い

Yotsuya

 東京街歩きは、私の趣味の最たるものの一つである。東京街歩きの関心の持ち方は人によりさまざまだ。谷中などの有名街歩きスポットに関心を持つ、歴史的建造物や新しい建築を見にいく、新しく開発されたタウン・センターに出かける、江戸絵地図との対比に興味を持つ、明治から現代までの変遷に興味を持つ、などなど。私もあれこれの関心でやっているが、その一つは、山の手、とくに新宿区あたりの地形である。その関心にズバリ答えてくれる地形図があるのを今ごろになって知った。東京地図研究社著『東京の凸凹地図』(2006/1、技術評論社)である。「地べたで再発見」と見出しがついている。

 東京宅のあるあたり、昔の区分けていえば、四谷区、牛込区あたりは、折にふれてこまめに歩いている。歩いたことのない通りはほとんどないほどだ。そのさい気になるのは、台地と谷とが入り組んだ地形である。坂が多い。複雑な地形に道をつけているから当然だ。主要道路を外れ、路地にはいると、階段で繋がっているところもよく見かける。歩き回っているから、およその地形は頭に入っているが、林立するビルのおかげで、地面の形は見えない。高低差があるといっても、たかだか20とか30メートル程度である。それでも、家屋が平屋建てばかりだった江戸時代には、地面の形は一目瞭然だったろう。それが今は見えない。何とか全体像を掴みたいものだと常々思っていた。しかし、道路地図はあっても、地形図はなかった。最近になって、そういうものが出版されていたのを知った。それが上記の本だ。東京の土地の高低を、陰影をつけ色で表して、分かりやすく表示している。「陰影段彩図」というらしい。

 はじめて東京の地形を地図の形で見ることができた。とても見やすい。地形図といわず、「凸凹地図」というのもなっとくだ。私の居所近くにある荒木町のすり鉢状の地形が見える。靖国通りが低地を走って、富久町のあたりから台地に上がっている。この谷が枝分かれした曙橋通り(旧フジテレビ通り)が、東京女子医大に向かって切り込んだ谷を走っているのも、その谷頭が複雑に分かれしているのも、歩いた実感から承知しているが、凸凹地図にちゃんと現れている。かつてHPに書いたことのある鮫河橋あたりの低地、そこから新宿通りに向けての長い谷(円通寺坂通り)のあたりの地形もよく分かる。市ヶ谷から赤坂見附にかけての外堀が、台地を掘削して造られたものであることも、瞭然としている。

 北に目を転ずると、大久保通りの北、戸山団地の中にある人工の箱根山は、標高45メートルで、山手線内の「最高峰」であるが、このあたりは濃い茶色で目立っている。これに対し、神田川沿いの低地は緑ぽい色で低さが一目瞭然だ。流域は結構広い。ここから目白の台地に上がる坂は急峻だ。こんな具合にとても分かりやすい。こんな地図がほしかったのだ。数値地図5mメッシュ(標高)と、何らかのソフトを使って、自分で作ってみようと思ったこともある。

 残念なこともある。この本は地図帳というより、主なスポットの地形図を示して、そのあたりの地形を解説したものだ。図示されている図は、地域ごとの部分図で、一部を除くと、かなり小さい。地形図とは違う内容が本の約半分を占めている。赤と青のセロファン眼鏡で航空写真を立体的に見せる部分だ。それなりに興味深いのだが、広い範囲を縮尺しすぎている。これはもっと一部だけを拡大して見せてくれた方がいい。

 私は、地図をパソコンに読み込み、画像処理ソフトで合成してたもの(冒頭の画像がその例)をA4サイズに印刷している。ただし本に印刷するさいの縮尺が適当にとられているので、合成するには、画像サイズを調整して合わせる必要がある。できれば出版社に、この地形図だけを、東京区分図のような地図帳として出版してもらいたいものだ。あるいは、道路地図と地形図とを対照したものを出してもらうと、さらに役立つ。

 かつて私は、興味を持ったテーマごとに、歩いたり、調べたりしたうえで、HP本館(その中の「東京街歩き」)や、このブログの「街歩き」のカテゴリー(こちらにはあまりエントリはないが)に書いていた。フォトギャラリーにも「四谷・新宿界隈」など関連するものがある。その中で、「荒木町の地形」を話題にしたことがあった。松平摂津守がここに上屋敷を置くさいに谷を埋めたため、現在のような窪地になったのだろうと書いた。門と屋敷とをつなぐ必要と、谷の防衛のためだろうと推定した。江戸幕府の初期には、いざという際、江戸城からの退却路として、甲州街道は非常に大事であった。そこに直参の大名や旗本を配置し、防衛に当たらせた。とくに谷は要注意で、寺を密集して置いたりしたのもそのためであった。摂津守は、谷を閉ざして防衛を固めたのだろう。そんなことを書いたさい想像で書いた地形が、今度の凸凹地図では窪地としてはっきり見取れる。この地図帳で、街歩き心がまたうずきはじめそうだ。

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コメント

「東京を歩く」ということについては『アースダイバー』(中沢新一著)が面白い視点から取り上げています。もしまだお読みでなかったらご一読をお奨めします。

投稿: Jack | 2008/07/13 14:53

Jackさん

ご教示ありがとうございました。

意外な方の意外な(とはいえないのでしょうか)著書ですね。読んでみます。

投稿: アク | 2008/07/13 22:14

こんばんは。

 貝塚爽平 『東京の自然史』 紀伊国屋書店 1988 (増補第2版 )は、東京のボーリングデイタ入りで、地下の様子も分かります.
 氷河期に侵食された谷が、縄文時代の高海水面期に泥で埋もれ、今は表面は乾いていますが、少し掘ると、場所によっては、軟かくシリアスです。
将来の震災時、街がどうなるか、だいたい想像出来ます。。。近未来の怪談?
http://bookweb.kinokuniya.co.jp/htm/4314002492.html
やや、古いので図書館にも置いてあります。

投稿: yuzou | 2008/08/05 00:33

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