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2008/09/24

『核燃料リサイクルを再考する』

 最近米国を中心に原子力先進国で「原子力ルネッサンス」が到来している、といわれる。意味合いはさまざまだ。これまで停滞気味だった原子力発電所の新設がこれから盛んに行われる時代になる、というのはおおかたの理解である。それに加えて、再処理とプルトニウム・リサイクル、さらには新型炉による長寿命放射性物質(超ウラン元素、TRU)を始末してしまおうという計画までを含めて、原子力新時代という向きもある。「日経サイエンス」08年10月号に、F.N.フォン・ヒッペルが、上記のタイトルで書いている論文(ここ)をもとに、この問題を考えてみよう。

 著者の主張は、まとめていえば、原子力による発電は、米国でも、世界中でも増やしていかざるをえないが、再処理ー核燃料リサイクルまで踏み込むことには賛成できない。その理由は、莫大な費用がかかり経済性が成り立たないこと、プルトニウムの拡散に歯止めがかからないことである。当面の処置としては、使用済み燃料の乾式貯蔵を推奨している。

 著者の Frank von Hippel (プリンストン大学教授)は、もともと理論物理学者だったが、原子力政策の専門家に転じ、米国政府の政策立案にも関与し、また核不拡散論者の立場から、しばしば警鐘を鳴らしていることで知られる。反原発論者ではなく、原子力を、技術論と社会経済的観点から、現実的に進めるべきという主張をしている。

 その人が、最近の原子力ルネサンスの潮流の中で、米国でも民間再処理を再開するとか、プルトニウム利用を進めるとか、さらにはTRUを含む再処理回収燃料を高速炉で燃焼させるとか、そういう政策に疑問を投げかけているのがこの論文である。

 著者はアメリカの原子力について具体的なコストをあげて書いている。それを以下ではそのまま紹介する。日本と比較する際には、日本の原子力発電の規模はほぼアメリカの半分であるとして、総額などは日本の場合には半分、と考えていい。どうせ概算値だから、おおまかに1ドル100円で換算していいだろう。ただし、コストは、経験的には、日本で同じものを製造するには、同額か場合によってはかなり割高になると考えたほうがいい。

 これまでアメリカ政府は、原発の使用済み燃料を再処理することなく、水プールで冷却した後、地下深く埋設処分するという方針でやってきた(これをワンススルー方式という。リサイクルせずに核燃料は原子炉で一回使うだけという意味である)。07年で、使用済み燃料は6万2千トンに達し、各地にある発電所の使用済み燃料貯蔵プールは、満杯に近い。ネヴァダ州ユッカマウンテン(Yucca Mountain)に処分場が予定されているが、地元の反対などがあって長い間凍結されていた。最近、米政府エネルギー省が、ようやく規制当局(NRC)に申請書を提出、建設に向けて動き出した。とはいっても、審査に3年程度かかり、その後の建設が順調にいっても供用開始は最短で2020年になるらしい。建設費は500億ドル(5兆円)といわれる。今後ずっとこのやり方で行くとすれば、さらに次の処分場が必要となる。当初の予定では処分場への使用済み燃料引き取り開始を1998年としていたので、米政府は電力会社へ毎年3億ドル(300億円)程度の補償金を支払うことになるだろうという。

 ブッシュ政権は、最近原子力政策を改め、ワンススルーを替えて、核燃料リサイクル路線に戻ろうとしている。ただし、プルトニウム利用よりも、再処理により地下埋設処分する高レベル廃棄物を減らそうという方針だ。しかも高レベル廃棄物に含まれる長寿命放射性元素(そのほとんどはTRU)を新型炉で燃やして短寿命にして処分するという方法を採用しようとしている。これは日本でも研究開発が行われている方式である。問題点は、まだ夢物語みたいなもので、時間もかかるし、莫大な予算を必要とすることだ。

 フォン・ヒッペルの試算によると、この方式を採用して使用済み燃料を処理するのに、100万キロワットのナトリウム冷却方式の新型炉を、アメリカの場合、40から75基、設置する必要がある。おなじ100万キロワットの軽水炉に比べ、一基あたりの建設費は10億ー20億ドル(1000億ー2000億円)余分にかかる。それは政府が補償しなければならないだろう。400億ー1500億ドル(4兆ー15兆円)を要する。ほかに再処理施設の建設と運転に1000億ー2000億ドル(10兆ー20兆円)かかり、この方式を採用するのに伴う費用は1400億ー3500億ドル(14兆ー35兆円)となる。米政府として、財政赤字の折から、とうてい負担できない額だ。

 フォン・ヒッペルは、乾式キャスク(容器)に、当面使用済み燃料を貯蔵することにしたらどうかと提案している。使用済み燃料は、20年ほど水プールに貯蔵しておくと、放射能レベルは下がり、空気の自然循環だけで冷却できる程度になる。ひとつのキャスクに10トンかそれ以上の使用済み燃料を収納できる。100万キロワットの原発の使用済み燃料を格納するのに年間2基で十分だ。当面原発敷地内に貯蔵可能である。周辺住民に対してリスクはないし、テロリストの攻撃にも十分耐える。
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 乾式貯蔵にかかる費用を、推算してみる。米国の場合、原発から出てくる使用済み燃料は、年あたり、2500トン程度だろう。キャスクが年250基必要となる。1基100万ドル(1億円)として、年2.5億ドル(250億円)かかる。多数設置するとなれば、より収容能力のあるものを、もっと安価に作れるだろう。この方式がだんぜん経済性の点で優れている。

 たしかに原子力発電は、最終処分まで含めて、完結したシステムになっていない。しかし、この乾式貯蔵方式で、時間が稼げる。処分地の問題も、リサイクル方式をとるかも、そう慌ててばたばた決めなくてもいい。そのうちに技術的、あるいは経済的な状況が劇的に変われば、乾式貯蔵してある使用済み燃料は新たな資源として活用できるかもしれない。

 私はこれまで何度か、再処理とプルトニウム・リサイクルは必要ないと主張してきた。高速増殖炉は、コストと安全面から問題があり、実用化しないだろう。プルサーマルは資源利用の点で、わずかに稼げるにしては、再処理を含めて金がかかりすぎる。ワンススルーで、使用済み燃料を中間貯蔵し、将来の技術発展に待てばいいなどと書いてきた(右コラムの「カテゴリー」で、「原子力問題」あるいは「原子力・エネルギー」で見ていただきたい)。ウラン資源の枯渇を心配する向きがあるが、ウラン価格が上昇すれば、海水からウランを採取する技術(技術的にはなかり見通しがついている)が、コスト的に成立するようになるだろう。プルトニウム利用に走ることはないのである。

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