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2008/10/18

オバマは、久しぶりに強い大統領

 アメリカ大統領選の行方は、オバマでほぼ決まり、らしい。現今の経済危機にどちらが適切に対応できるかが、決め手となったようだが、マケイン候補の陣営にいくつかの失策があった。最大の失策は、ペイリン・アラスカ知事を副大統領候補に選んだこと。一時的な人気を博したが、すぐに落ち目になった。一本調子のオバマ攻撃が、ひどく曲げられた、嘘に近い事実の羅列であったことはすぐにばれた。演説やインタビューを重ねるごとに、副大統領としての資質があるとはとうてい思えないと、ダメを押されてしまった。マケインは、経済危機について、最初の発言を誤った。アメリカのファンダメンタルズは強い、だから心配はいらないと。それを取り戻そうと取ってつけたような危機対応策を発表するたびに信用を失った。

 敗色が濃くなるにしたがって、オバマの人格攻撃を強めて、ますますイメージダウン。この人の売り物は、本来フェアな正義漢。それをすっかり損なってしまった。討論では大統領候補らしい資質を示す余裕もなく、誰もが言い過ぎと見破れるようなオバマ攻撃に終始した。いくつかの激戦州で、勝敗の鍵を握る白人たち(共和党の堅い支持層か、浮動層〈swing voters〉)が、どんどんオバマ支持に回っているという。

 オバマは対照的だった。マケインの偽りの攻撃に対して、激せず、冷静に、思慮深い言葉を返した。オバマの味方には歯がゆいほどだったらしいが、安定感のある対応ぶりがよかった。オバマって何もの?と、彼をよく知らなかった人々は、彼の人となりを知り、信頼感を持つようになった。今や彼の肌の色にだけこだわって、彼に投票しない人は少ないと見こまれている。

 NYT(ニューヨーク・タイムズ)の論説欄(例えば、Charles M. Blow によるもの、ここ)には、もはやよほど不測の事態がないかぎり、11月5日に、オバマが第44代大統領に選出されるに違いないと書かれている。それだけではなく、2年ごと、3分の1ずつ改選の上院議員選でも、民主党は現有の51から60議席(100議席のうち)を獲得するのではないかといわれる。下院は全数改選となるが、民主235、共和199の現状を、共和党がひっくり返す情勢にないといわれる。現時点で、両党に対する支持は民主52%に対し、共和37%だといわれる。ブッシュの失政が反動としてこのような結果を招いた。ブッシュ時代は、かくして終焉を迎える。

 オバマは当選すると、議会で多数派をにぎる強い大統領となる。これほど議会の強い支援を持つ大統領はアメリカにとって久しぶりのことらしい。自分の政策をどしどし実行に移せることになる。どのように"change"のアジェンダを実現していくか、見ものだ。おまけに最高裁判事の任命の機会もあるそうだ。最高裁が最終判断を下すいくつかのデリケートな問題がある。これまで右に寄っていた最高裁の判断をバランスの取れた状態に戻せることだろう。アメリカ特有のキリスト教右派の意向に配慮せざるをえなかったさまざまな問題(同性愛、妊娠中絶、進化論教育、幹細胞研究など)が少しは改善されるだろうか。

 しばらく、右よりの共和党=ブッシュ政権に振れていたアメリカの政界地図が、久しぶりに揺れ戻すことになる。この揺れ戻し=自己浄化、自己修正作用を持つことが、アメリカの民主主義のいいところだ。それにしても、この危機的な状況の中で、オバマという新しいリーダーを生み出す、アメリカという国をうらやましく感じる。アフリカからの移民2世が、いきなりトップに躍り出る。それも黒人というかつてないハンデを背負っている人なのだ。この人は、すでに4年前に注目を浴びた。私も、このブログでそのことを書いている(ここ)。

 国際社会は、オバマの登場を歓迎することだろう。ブッシュの一国行動主義が、何かにつけて、摩擦を生みだしてきた。イラクからの早い時期での撤退をオバマは明言している。ブッシュ政権の荒技のあとだから、イラクでの治安を確保しながら、名誉ある撤退ができるか。懸念はあるが、イラクよりアフガニスタンに比重を移そうとする彼の判断は当たっている。アメリカ人の政治感情に配慮してなのだろうが、ビンラディンをターゲットとしているのはどうなのか。むしろ部族社会や抵抗武装勢力との和平の方策を探ることになるのではないか。

 ともかく、来年からのオバマ政権のもと、アメリカがどう変わるか、それが楽しみだ。なにかと大統領選の情報を伝えてくれていたメール友達は、やっとブッシュのいないアメリカの時代がやってくると、早くも興奮気味である。

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コメント

久しぶりに余裕ができてお伺いいたしました。
オバマにそれほど期待できないのは、財界との個人的な結びつきですが、恐れているのは、病んだアメリカ社会で無事に任期をまっとうできるかと言う事です。
勝利が確実になったのなら、もう一切キャンペーンにお金を使わない事だってできるのに、やらないことも気になります。
アメリカと言う問題国家を多少でも真っ当な方向に導いてくれれば有難いのですが、タリバンが何故支持を集めているのかということを理解せずに、イラクから引き揚げてアフガニスタンに戦力集中は困ります。

投稿: Viola@なごや | 2008/10/20 15:02

Viola@¥@なごや さん

 オバマは、アメリカと世界の舵取りの難しい時期に登場することになりますが、ブッシュ時代のさまざまな歪みを直し、難問を現実的に解きほぐしながら、アメリカを正しい軌道に回復してくれるだろうと、私は期待しています。ひょっとすると久しぶりの偉大な大統領になるかもしれません。共和党と民主党は支持層を分けて対立してきましたが、パウエル元国務次官の支持表明や、共和党系のプレスの支持表明に現れているように、共和党穏健派が支持に大きく動きそうです。そうなると、国内に大きくオバマ支持基盤ができます。ここしばらく米政治になかったことです。

 言葉による説得が有効な国で、とびきりの演説上手ですから、あとは言ったことの実行でしょう。多くの政策実力者をスタッフにそろえて、リーダーシップを発揮するだろうと、今後を見守りたいです。

 今や、キング牧師が暗殺された時代と違って、黒人だからといって目の敵にされることはなくなったと思います。しかしアメリカ社会には深い闇の部分もありますから、何が起きるか分からないです。けっこう心配しているアメリカ人もいるようです。

 これだけ勝敗の幾重が判然としてくると、心配なのは、若者たちがほんとに投票に行くだろうかなどです。キャンペーンは、最後まで手抜きせず、勝ちきらないといけないのでしょう。

投稿: アク | 2008/10/21 13:57

 アクさん;久し振りです。私は来る11月を楽しみに待っています。Viola@なごやさんが指摘するようにイラクからアフガニスタンにシフトしても本質的にアメリカの覇権主義が変るとは思いませんが世界に幻想でも希望を持たせると思います。日本も総選挙で民主党が勝てば大きく変ります。仮に第一党にならなくとも政界が大きく変ることを見てあの世?へと願っています。アメリカには復元力がありますが日本にはどうでしょうか?。私は小泉ー竹中の成果主義が学問を崩壊しているのに反発、ブログで抵抗していますが、やがて芽が出ると信じています。とにかく楽しみです。

投稿: 尊愚問 | 2008/10/21 14:53

尊愚問さん(M先生)

 アメリカの覇権主義といいますか、自国中心主義は変わらないでしょうが、オバマは国際協調を重視するでしょう。今回の金融危機の根源がアメリカであることは明白ですから、しばらくアメリカは大きなことはいえないでしょう。アメリカの覇権の終わりだという人もいますね。

 国内政治は私も同じく、政権交代による変化を期待しますが、自公政権はそう易々と政権を手放すことはしないでしょう。それに判断を下すのは民意ですが、さてどうなりますか。最近は選挙での民意の動向をめぐって、こそくな駆け引きに終始しているようで、政治家はほんとうに日本の国としてのこれからのあり方を考えてくれているのか、疑問に感じることもあります。

 成果主義に脅かされている日本の学問。M先生がしきりにそれを話題にしておられるのは読んでいます。これは特に小泉−竹中の時代に始まったわけではなく、国立大学の独立法人化が提案され、実現したのは、記憶では橋本行政改革から小渕、森内閣時代だったのではないでしょうか。日本の政府予算がこれだけ膨大になった行政システムを支えきれないという、だからなんとかしなければならないという時代傾向が産みだしたように思います。小泉−竹中時代はその仕上げをしたのでしょう。竹中氏は、それが貫徹されていない、逆戻りしていると、このところ盛んに主張しているようですね。

 科学技術に注ぎ込まれる研究費は、トータルとしては減額されていないようです。その配り方が変わったのでしょう。広く平等に、そのかわり薄くではなく、メリハリをつけて、重点的にということのようです。どのような仕組みのなかで、誰が、どういう観点で研究課題を選んでいるのか、そこが問題だと私は思います。今年のノーベル賞受賞が、基礎研究が大事だという方向へ目を向き変えさせてくれる契機になると期待しています。

投稿: アク | 2008/10/21 20:32

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個人的にオバマが大統領なんて私、kitakyudaiも年取ったなと。2004年にケリーが指名受諾した民主党の党大会だったと思うがなんか演説うまいヒトがいるらしい・・・が、今じゃ大統領だよw オバマ記事 結構オバマ関連の記事は読んだけど、ひとつ気になる記事があった。記事と... [続きを読む]

受信: 2008/11/08 11:44

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