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2008/10/21

お節介な国、日本

 振り込め詐欺の被害がますます増大し、とうとう銀行のATMに警官が張り付くまでになっている。年金支給日に当たる10月15日には、全国で5万6千人の警官が動員されたという。全国に9万8千か所あるATMのうち、8万1千か所に警官が張り付くか巡回したという。高齢者とおぼしき人全員に声をかけ、被害に遭わないように呼びかけたらしい(たとえばここ)。

 私は、何とお節介なことか、またやっている、と思った。駅や大規模店のエスカレーターに乗るたびに「エスカレーターにお乗りの際は・・・・」と、スピーカーが呼びかけている。ひどい場所に立つと、あっちでもこっちでもやっているこのスピーカー音が、まるで夏の蝉の声のように聞こえ、一瞬たりと絶えることがない。そのたびに、日本ってなんてお節介な国だろうと思う。駅で電車に乗るときも、発車前後に、喧しくがなりたてている。乗車するやいなや、「飛び込み乗車は危険ですから・・・」とさらにご注意がある。携帯は使うなとか、マナーモードに設定しろとかのアナウンスがある。今回は振り込め詐欺という犯罪対策なのだが、基本的には同質の発想にもとずいた、お節介だと、私には見える。そんなこと効果があるのか、そんなに動員できる警官がいるとしたら、詐欺犯捜査にもっと力を入れたらどうかと、いいたくなる。果たして詐欺犯はもっと巧妙になり、厳戒にもかかわらず詐欺にあった老人がいたらしい。

 外国を引き合いに出して日本を論じるという、おきまりのパターンにしたくないのだが、このケースは典型的だと思うので、その論法をここで使うのを許していただきたい。上に引き合いに出したお節介な対策をヨーロッパやアメリカでやったら、市民は、俺たちを馬鹿にするな、そんなこと分かっている、と多くの人が抗議し、直ちに止めになることだろう。いや、もともと、そんなお節介焼きをしようという発想が当局や施設者側にないだろう。あんなに喧しくがなり立てるエスカレーターは見たことがない。ヨーロッパの鉄道に乗ってごらん。発着列車が錯綜するターミナル駅は別として、列車が黙って入ってきて、黙ってでていくケースをよく見かける。車内放送は、短く「次はどこ」と、たぶん一回だけ。

 基本になる人間の自立についての意識の違いだろう。自分の身は自分で守る。危険がいっぱいあるのは承知している。安全策や規制が必要なら、みんなで相談して、合理的対処法を設ける。いちいち口先で注意するなどのお節介はいやだ。欧米の人はたいていこう考える。

 詐欺は、騙されるのがわるいのである。詐欺をしようとする人間は、世の中にごまんといる。それに騙されないように生きていくのが、社会的に一人前の人間だ。しかし騙される人がいる。だから社会として、一応もろもろの対処をし、犯人は検挙して処罰することになっている。しかし、たぶん検挙率など低いのではないか。それよりもともと今、日本で問題になっているような詐欺が起こりうるのだろうか。たぶんこんなに頻発して、社会問題になるなどということはないだろう。そんなことがあったとしても、注意しましょうと口やかましくいったり、まして警官を張りつけたりしない。だいたいヨーロッパでは街路に面してATMが設置してある。日本では考えられない、と思うのだが、みな平気で街頭にむき出しのマシンから現金を引き出していく。便宜と引き替えに、リスクは自分で引き受けるのが当たり前なのである。

 ものごとの判断が鈍くなった老人をターゲットにする振り込め詐欺は、ひどいと思うし、被害者は可哀相だ。老後の資金をごっそりと失ってしまうケースもあるだろう。しかし、老人にもしっかりしてほしい。新聞やテレビでこれだけ問題になっていることを知らないのだろうか。互いに話題にしないのだろうか。大家族制で支え合ってきた日本の家族制度が、急速に核家族化した、この変化に老人が対応できないでいる、そういう社会的問題があるのだろう。また近隣のコミュニティでの人間関係による絆がどんどん希薄になったこともあるだろう。

 アメリカでも、同様の問題はあるそうだ。人々がさまざまなレベルで、持ちつ持たれつの関係を持つ(それを「互酬性」という)。それが成り立っているのを社会関係資本(ソーシャル・キャピタル)と呼ぶ。その量と質が1970代をピークに大きく減退している。それを指摘したのが、政治学者 R.D.パットナム著の『孤独なボウリング』という本だそうだ(私はそのことを竹内洋『学問の下流化』という新著で読んだばかりだ)。

 まずは個人の自立があって、それを補う社会関係資本ということだろう。そのことでいえば、日本では、個人の自立が確立していない、社会関係資本は急速に失われている、そこへ、べたべたとお節介な公的介入が口先だけで行われる、そんな姿に見える。人間のあり方も、国のあり方も変えていくのは容易ではない。でもまず、そんなお節介はたくさんだというところからはじめたい。

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コメント

こんばんは。
確かに日本の駅や街は騒々しいですね。
人口密度が欧米より高く、事故も多いのでしょう.
 サンフランシスコの朝の通勤時間は、すいていて、電車に自転車を持ち込む学生がたくさんいて驚きました。もちろん、車内に自転車を固定する装置がありました。

 日本では、人口密度が高く、事故件数も多いため、管理者が責任を問われることを回避するために、過剰なアナウンスが行われているのではないかと考えます。
だとすると、くだんの振り込めサギ対策も、誰かの責任回避のためとも思えます.

 もしかして振り込め詐欺グループが、莫大な金額を集積してなお、捕まらないのは、どこかの同盟国の「ピラニアファンド」や「ハゲタカファンド」が組み込んで運営しているのではないでしょうか。

投稿: U-3 | 2008/10/23 00:55

U-3 さん

 コメント、ありがとうございます。

 世界の大都市で、東京が特に過密というわけでもないでしょう。ロンドンやアムステルダム、NYなども、場所によっては同様に過密です。逆に私の住む水戸のデパートなど、閑散としていますが、エスカレータでは同じようなアナウンスが流れています。

 おっしゃるように、事故が起きたときの責任逃れのためという面があるのでしょう。それで責任は逃れがたいですが、言い訳にはなりますね。

 当局や施設者側では、技術的な安全確保、犯罪防止策をとり、口先だけの弥縫(びほう)策にたよらない。他方、人頼みでなく、自分の安全は自分で守るという気質を育てていく(家庭・教育やマスコミなどで)。それは時間のかかることですが、社会の変化に人間の方が対応できていないのですから、少しずつでもやるしかない。

 振込め詐欺は、大きな組織で行われているらしいですね。警察があちこちで摘発していると報じられていますが、ほんの一部でしょう。それに何とかファンドが絡むか。さぁて。そうだとすると、ガードの甘い人が多い日本社会はいいターゲットでしょうね。

投稿: アク | 2008/10/23 09:25

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