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2008/12/26

アイロンかけ入門

 とうとうアイロンかけの役目が回ってきた。わが家での妻との家事分担には厳しい一線があり、一寸の攻防にしのぎを削っている。我が軍の方がつねに勝ち目が薄い。食器洗いとコーヒー淹れは、とうの昔に私の役目になっている。最近は食後のフルーツの準備(たとえばリンゴを洗ってカットするなど)が微妙にこちらの役になってきている。入浴後のバスルームの水滴拭き取りも私がやることが多い。一旦手出しすると、それを定着させるのが敵の戦略である。そこに来て、洗濯物のアイロンかけが新任務となった。

 妻はとても働き者である。四六時中休む暇なく働く。好きでそうしているのだから、勝手にそうさせている。「たまには休めよ、働き者が目の前でウロチョロしていると、こちらの気が休まらない」とは言ってみても、手伝う気はない。それがここに来て、交通事故によるむち打ち症が長引いて、首や肩が痛いと、ため息をつきながら働いている。ちょっと気が咎める。

 洗濯を終えて、シャツの類が戻ってくるのが遅れている。アイロン待ちの衣類が、部屋の片隅のバスケットにうずたかく積まれている。催促したのがいけなかった。肩の痛みが増すのを恐れて、アイロンかけがつい億劫になっているらしい。今ごろになってはじめて聞くのだが、家事のうちもっとも好きでないのが、アイロンかけだという。洗濯大好き、掃除も好き。料理もまあまあ。ただし、このところ3食のメニューの案作りには苦労しているようだ。買いものも好き。園芸や庭いじりは大好き。以前は部屋の模様替えが異常に好きで、出張などで家を空け帰ってみると、重い家具の場所までが変わっていたりした。まあ、家事全般が好きな人だと思っていた。ところが今ごろになって、アイロンかけは好きでないと打ち明けられた。結婚後30年以上経って「鶏肉はホントは嫌いなの」と聞いて以来の大告白である。

 肩痛を押してまでやれとはいえない。仕方ないとアイロンかけに手を出した。なにしろ初めてである。アイロンなるものを手にした記憶がない。単身赴任をしたが、アイロンが必要なものは全部クリーニングに出していた。あるいは妻が赴任先にやってきてまとめてやってくれた。アイロン台をへその高さにセットし、アイロンの温度を調節する。コードの中ほどを天井から吊す。にわかクリーニング屋の開業である。シャツから始めるがなかなか難しい。特に襟と袖。背中は簡単と、アイロンを行きつ戻りつすると、戻りでしわができる。敵は教習指導員である。ああしろ、こうしろ、それはダメ、と口うるさい。テーブルクロースの大きいのも、なかなか骨が折れる。半分に折り、端からかけていって、中央線のちょっと手前で止める。上から押さえつけるように滑らせろ、力をもっと入れろ、腰を入れろとうるさい。まあ、バットや竹刀をもっていないだけましか。このひとはスチームアイロンを嫌っている。事前にビニールの袋に入れて霧を吹く。昔ながらのやりようを好む。たぶんこのようにするのを母親から鍛えられたのだろう。それを私が今伝授されている。

 2時間近く苦闘して、第1期講習を終えた。まだ入門したばかりであるが、私には意地がある。やる以上は私なりのやり方を工夫してやろうと思っている。食器洗いがそうだった。今では食器手洗いのベテランのつもりである(これについては、以前こんなものを書いている。『皿洗いに取り組む』〈03/9/07〉、『皿洗いを極める』〈03/9/08〉、その後さらに「究めて」いるつもりだ)。食器洗いを始めた時のように、今回も道具に凝ってやろう。アイロン台ときたら、30 年以上前の滞米時代にシアーズで買ったものである。当時はこれほどのものは日本にないと持ち帰った。しかし今では古びて中身のクッション材がはみ出している。アイロンも古い。コードの外皮がよれよれになっている。古いものをとことん使い倒すのが倹約家のこの人の信条である。私はそうはいかない。男は道具に凝る。こちらの仕事に回したのを後悔するほどの出費で見返してやるのだ。

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コメント

今年1年楽しく読ませていただきました。来年度も健筆を期待しております。

投稿: 魔法使い | 2008/12/31 13:47

家事で悪戦苦闘されておられるようですね。
全く、倹約家の奥様とは反対の知恵を入れるようですが、私はほとんどのシャツが形状記憶形式のシャツに入れ替わっています。このシャツの場合、洗濯後に伸ばして干すだけでほとんどアイロン掛け不要になります。
 加えて私も昨年春より大学教官になった関係で、少しはちゃんとした格好をしなければならないシーンが増えて来ました。単身赴任を機に新規に洗濯機を購入したのですが、少し経費を使用してドラム式のしかも風アイロンなるものがついた洗濯機を購入しました。形状記憶のシャツに風アイロン洗濯機のコンビネーションでは、シャツのアイロン掛けは不要になりました。何ともダウンサイジング中のアクエリアンさんには逆方向の情報になりましたが、ご参考になれば幸いです。
 

投稿: Aurora A | 2009/01/15 00:53

Aurora A さん

本年もよろしく。

大学教官としての単身赴任、だいぶこれまでの生活と違う体験をしておられるようですね。私も合わせれば10年程度の単身赴任をしましたが、やはり一番気をつけるべきことは食事でしょうか。その点はもうとうにお分かりでしょう。

アイロンかけは、生活振りの一端を多少面白可笑しく書いたものです。もうワイシャツには縁がありません(礼装を必要とするときぐらいです)。ドラム式の洗濯機に私は興味ありですが、ワイフは乾燥機より天日干しを好む旧世代人で、たぶんそんなのいらないと考えるでしょう。

耐久消費財の購入にあたっては、いつも、あと何年使うだろうと考えるようになりました。カメラもよほどのことがなければ、新機種、新レンズに手を出すことはないでしょう。

写真関係の例の場所で新作を見せていただくのを楽しみにしています。

投稿: アク | 2009/01/17 11:41

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