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2009/08/01

第1、第2の「マンハッタン計画」?

 最近の金融危機を話題にするなかで、「第2のマンハッタン計画」という言葉が使われている。「金融工学」の名の下に、それまで理学分野とは無縁であった金融の分野に数学や工学分野の研究者、それもベスト・アンド・ブライテストが参入し、協同して「デリバティブ」とか「リスクマネージメント」などの理論を高度に発展させた。その行き過ぎが今回の金融危機を招いた。彼らが結集した場が、ニューヨーク市マンハッタンのウォール街であったことと、かつての原爆開発開発が「マンハッタン計画」と呼ばれたこととがどこかで結びついて、この金融工学の異様な盛り上がりとある意味での破綻を「第2のマンハッタン計画」と呼んでいるらしい。「第2」のほうはともかく、「第1」のほうは、マンハッタンとは何の関係もない、偽称もしくはある種の暗号であることを、原爆開発史を多少なりと読んだことのあるものは知っている。誤った歴史が語り継がれることのないように、この「第1」、「第2」の話を受け売りする人々に歴史的事実を指摘しておきたい。

 7月半ばに放映されたNHKスペシャル「マネー資本主義」の5回シリーズで、その言葉をはじめて聞いた。かつて原爆開発にアメリカ中の優秀な物理学者、さらにはヨーロッパからナチスに追われて亡命してきた物理学者たちがマンハッタンに集まって原爆開発研究を始めた。それがあのおぞましい核兵器を地上に産み出すプロジェクトへと発展した。そして広島・長崎への原爆投下という悲劇をもたらした。再び半世紀後にマンハッタン・ウォール街に集まった天才たちが金融工学の展開に狂奔し、それが世界中にマネーゲームを拡散し、とどのつまり金融カタストロフィーを産み出した。計り知れない被害を全世界の人々が被った。ともに桁外れの頭脳の持ち主たちのマンハッタンへの結集が引き起こした悲劇だ。そのような因縁めいた物語の文脈でこの「第2のマンハッタン計画」という言葉が使われていた。それがこの問題を論じる経済関係の人の好みにあったらしく、その後もこの言い回しをよく聞く。昨日(09/7/30)のBSフジの「プライム・ニュース」に出た金融専門家が同じことを口にしていた。どうやらそちら方面で受けている話らしい。

 原爆開発の歴史についていえば、「マンハッタン計画」という名称での「マンハッタン」は、全くの偽称であって、地名としてのマンハッタンは全く関係がない。原爆の開発史については多くの記録があり、書物も多く書かれている(いくつかの文献例をこのエントリの終わりに書いておく)。その歴史物語のあらすじを繰り返すことはないだろう。この名称の由来に関することだけをざっと書いておく。

 よく知られているのは、アインシュタインがローズベルト大統領に書いた手紙が発端になって、アメリカの原爆開発計画が政府の公式のものとして始まったという話である。半分本当、半分はどうかな、というところだ。さまざまな情報の積み上げが米政府を次第に動かていったというのが事実だ。フェルミを中心とする研究活動が実を結んで、シカゴで核分裂連鎖反応が実証された(1942年12月)こと、ウランの濃縮とか、プルトニウムを作ってそれを利用するとかの技術的見通しがついてきたこと、ドイツが先にやるかもしれないという風評、イギリスの理論物理学者グループ(MAUD計画)の検討結果などが伝えられた、等々である。それらがアメリカの軍事技術、なかんずく科学技術の政策立案者たちを動かし、原爆開発に着手しようということになり、ローズベルト大統領がこの計画の実施にゴーサインを出した。それが1942年前半のことである。

 大統領はこの計画の実施主体として陸軍工兵部隊を選んだ。多方面にわたる開発を進めるため、いくつかの場所で大規模な工場建設、莫大な物資調達を優先的に進めるなどの必要がある。機密保持などに不慣れな研究者たちに規律を課し、秘密研究所を作って、そこに閉じ込めなければならない。これほどの大計画を秘密裏に、大規模に、強制的に進めることができるのは軍しかない。そこでレスリー・R.グローブスという陸軍大佐(当時工兵部門・建設副部隊長、その後准将に昇格)が総指揮官に任命された。この人の任命以前に準備作業を命じられていたジェームズ・C・マーシャル大佐という人がいた。彼がこの計画を担当する部局名として「マンハッタン工兵管区」(Manhattan Engineering District、MED)を偽装名として作り出していた。これはマンハッタンにある実体のある工兵部隊名ではない。この大佐がたまたまオフィスをマンハッタンに持っていてワシントンに出かけていたとも、この計画の司令部をマンハッタンに置くつもりであったとも伝えられる。ともかく仮の組織名としてその名を使っていたというだけのことだという(ローズ「誕生」下巻、56ページ、グローブス「原爆はこうして」、14ページ)。グローブスが任命された1942年9月に、このマンハッタン工兵管区の名の下にこの計画を進めることを正式決定し、その後プロジェクトの推進はこの組織名の下になされた。それが「マンハッタン計画」の名の由来である。

 ついでにいえば、原爆開発のために科学者たちが集められたのは、まずシカゴであり、やがてニューメキシコ州山間の僻地ロスアラモスがセンターとなった。マンハッタンが原爆開発に多少なりと関係したとすれば、そもそもの時期に、イタリアから亡命したフェルミがニューヨークのコロンビア大学の物理学教授となり、イタリアで行っていた研究をその地で再開し、ハンガリーからの亡命者シラードらが協力して、黒鉛パイル指数関数実験を行ったことぐらいしかない。しかし、この研究も見通しがつくに従い、当時研究者として計画の最高責任者であったコンプトンが、自分のいるシカゴ大学に移動させた。そこに「冶金研究所」という、これまた偽名のもとに、核分裂連鎖反応炉(いまでいう原子炉)が建設された。世界最初の核分裂連鎖反応の持続(臨界)が実現されたのは42年12月のことである。

 したがって、第1のマンハッタン計画が、地名としてのマンハッタンに関連しているということ、そこに科学者が結集して原爆開発を行ったということ、あるいは百歩譲って、そこで原爆開発研究が開始されたということはすべて誰かが言い出した勘違いである。このような誤解が往々にしてまことしやかに伝えられるものだ。注意を喚起しておきたいとこのエントリを書いた。

参考文献
1)レスリー・R・グローブス:「原爆はこうして作られた」(1964、絶版)
2)リチャード・ローズ:「原子爆弾の誕生」[上、下](1995)

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コメント

はじめまして

以前から「風の旅人」佐伯さんと、の鋭いやり取りを拝見し刺激を受けていました。

久々にHPを拝見しここを見つけました。
あのNHK「金融工学」を見て!の感想がありましたので!
感じた事です。すみません。
確かに事実は正確にと言うのは十分理解しますが!

私は、別の事をこの事から逆に感じたのですが!
どの様に感じられるでしょうか?

確かに先の「マンハッタン計画」に対し金融工学も同じ第2の「マンハッタン計画」だと。これは、実に上手い例えだと感じたのです。

それは、天才を集めマサに原爆を作らせたと言う事!
今回も、実に巧妙に、冷戦による職を求めて天才が集められ、この経済に科学のメスを入れ金融商品を作らされた!
この意味ではマサに同じ事をした!と言う比喩的な意味でのストーリに作られたと思うのです。

故にそこで感じるのは、金融工学が悪い!と言うヒトもいますが。それはあくまでもヒトが作り上げた道具に過ぎない!ですね。

誰が悪いとなれば!全てを解って、プロデュースする側が全てヒトの心理を読んだまさにヒトの体感と言う事を骨身に沁みて理解していると言う事!その全体を作り裏で企画した意識でしょう!

故に、天才で、さえ手玉に取り思う様に操作された!と言う事!ではないのでしょうか?その道に掛けては一枚も二枚も上手だと言う事!それを証明して見せたと言う事!故に実際作る側もそうとは知らずに、、マサに手玉にとられた、、かなと??
そして、それが出来たのはマサにヒトの体感から受ける影響は実は凄い事だと言う事を逆に証明した様に思えるのです。

でも世の中では体感と言う事を非科学的と無視してる様に想えるのです。
そう思わせる様にプロデュースしているのだと!
それを悟られない様に逆に巧妙にプロデュースしてるのでは?ないの?

手のひらに引き止めておきたいが為の巧妙な手段じゃないの?

でもこの番組では、、、この体感が大事だと言う事を逆に証明してみせた様に感じるのです。

ヨウスルにヒトは血を見ないと、その被害の大きさを自分事として!自覚しないと言う事だという事!

マサに体感が大事だと言う事!それはある意味未だヒトには生け贄が必要なのか?と思うのです。
アノ大戦と言う生け贄、故のこの現在だと!
未だ風化していない、、、させてはイケナイですね。

投稿: popi | 2009/09/12 03:18

掲載ありがとうございます!

ネットの可能性を見つめています。
成る程
自分のルーツと言う様な事も解って来るんですね!

そうして、いろいろな考え方があって、こそ、社会は、いや、全ては安定出来ると言う事!
(真意に認め合う!と言う事!だと!)

感じますのは!全てのヒトが平等に!
と言う事は!誰でも!どんな邪悪な意識としても心片隅に育まれ既に持っている!描く理想であり!偽らざる気持ちだろうと思います!ただ、目先の事に心!奪われデモ!それを忘れる!悪いヒトはいない!

その証拠に、死期が近ずくと絶対と言える様に心傷め!してきた事を思い!さいなまれ罪の大きさに、日々悩まされ、何かしないとおれなくなり!慈善の行いをしてしまう!
死への恐れの裏返しでしょうか?

その理想に少しでも近ずく努力だろうと!

でも社会は、これも弱肉強食の世界生命の営み!ハード的には他を殺し自分は生きようと!する!えてして生命は美化されるが、生命は悪魔です!自分が生き延びる為には手段を選ばない?いや、選べないかも!自然の摂理のまま、意思は持たない!

そこに宿るココロ!これが!それが!引き止める!意識として育まれ!
ヒトがヒトがとして育まれる!

長くなりますので、この辺で!

言いたい事は!このネットは「阿頼耶識」現在にやっと実現したのではないか!
と感じるのです!
そして、ココは何でもあり!
そして、自他がない場!
それ故!何でも映す「カガミ」ではないの?
自分のココロの奥底までも鮮明に映す!
正に「阿頼耶識」だと感じています!

自分が、自分の想いを書いていても、永年想いを書いてると自分と言う者が希薄になる様に感じているのです!
正に「阿頼耶識」だと!

イツパイ言いたい事はあるのですが!
、、、、、、、、、、、、
今日はココで失礼します!
何処の誰か?だと!不信に思われ疑問かも知れません!
決して!邪悪な意識ではありません!
なんとか?双方が上手く植物の様に共生して生きられないの?と願うのです!

その方法がある筈だと!ソレを見つける!
それが!この道具の可能性を生かせないのか?道具はあくまでも道具使い方!
現在なんかおかしな方向にも感じています!
良ければおつき合い下されば幸いです!

失礼をお許し下さい!

投稿: popi | 2009/09/13 10:42

popi さん

前のコメントが、私には意味不明で、なんとお答えしようかと思っていたところに、次のコメントが届きました。公開しておきますが、私には言葉の返しようがありません。

投稿: アク | 2009/09/13 16:45

アクエリアンさん

大変失礼しています。ありがとうございます。
お許し下さい。

>意味不明、、、

でも、さすが! 掲載感謝します。
たいがいは無視されます。から
感謝です。

私は失礼をかえり見ず、誰かまわず感じた事を書いています。
それが唯一出来るのが、この!ネット! そこに、こそ!大きな可能性を秘めていると感じています。
でも、あまり感じた事を書くヒトは少ないなあーーーと感じています。

結果、答えばかり!問題は実はそこにはなく!その経過にこそあると感じるのです。
知ってる、か知らないか?を問題にしている事が多い気がします。問題は知識じゃないですね。
知識は道具に過ぎない、、、、(生意気にすみません。言葉はどうしても生意気に見えます。そんな気はありません。)

ネット利用は未だ、、未だ過渡期かも知れませんが?
どうなんでしょう!

そして、同じ思いよりも、違う意識に触れる事をひたすら探しています。
ちなみに、巷では違うと言う事を毛嫌いしますが。そうではないと思っています。
ありがとうございます。

何故かと言うと、同じ思いでは新しい事には気が付きにくいと思うからです。
温度差のある違う意識に出会う事で、何故そう言う考え方をするのか?
を聞く事で、、、、例えば、、なるほど!そう言う考え方をすれば!理解出来ると言う時もあるでしょう!

★今回はどうか?それは解りませんが!すみません!

その様に理解すれば、、真意に相手の気持ちが理解出来、更に、新しい物の見方を知ったと言う事にもなりますね。
ここです!様は、解らなければ、聞けば良い!但し面倒なやり取りが必要です。これを嫌うのではないかと?

違う故に、表面化し解りやすく、物事のキョドウに気が付きやすいのでは、と想うのです。
自分の事は一番解らないのは、当然だと思います。天動説から地動説全てが同じ摂理ですね。

掲載を感謝します。

★まとめます。
確かに先の「マンハッタン計画」に対し金融工学も同じ第2の「マンハッタン計画」だと。
でもこの、先のマンハッタン計画の名前は事実じゃない!と言う事ですね。
それは、おっしゃるとうりです!

私がそこから感じたのは!
体制側が、マサに先の原爆を作らせたと同じ方法で!同じ様に、一つの目的の為に天才を呼び、金融に科学のメスを入れさせたと言う事!
そして安全な?と言う!金融商品を作り出し!合法的に一儲けして、逃げ切れば良いと!後は知らない!と言う様な方法ではないでしょうか? 
確かに、ある条件下ではその金融工学は確かにリスクがないが!ヒトが群がりその条件は崩れる!、、はじめから分かってたでしょう。
何時も少々の犠牲は付き物!と言う事でしょうけど?

体制側は、何時の世でも、正義と言う名の下に合法化し物事を遂行して行きます。それは当たり前な当然な方法でしょう。
有無を言わせない強烈な、賢いやり方でしょう。さすが!と思います。
只その結果を既に、分かってやってると言う様に感じるのです。
分かりやすい例では、先のオイルショックにしろ、ではないでしょうか?

ヨウスルに体制側が!解ってやってると感じるのです。この現在の世相もそうでしょう。ニートが出来るのも無理はないでしょう。

体制側が、何故それが解るのか?
それは、ヒトの心理を良く知り抜いているからでしょう。ヨウスルに体で、知ると言う事!体感です。
知識で、頭脳で知るから、、更には、頭で考えると言う事でなく、感じると言う事!
ヨウスルに意識して考えるのではなく、無意識に感じるまでにならないと!と言う様な意味なんですが?
この辺が理解出来ないと言う事でしょうか?

世間では体感で解ると言えば、、、?、、何? と、、なりますね!
でも、本当そうだろうか?と想うのです。

先のマンハッタン計画にしろ、金融工学にしろ天才を手玉に取り一つの目的の為に利用した!
と言えないのかな? と言う事です。

>それが出来たのはマサにヒトの体感から受ける影響は実は凄い事だと言う事をTVを通じ逆に証明した様に思えるのです。

>ヨウスルにヒトは血を見ないと、その被害の大きさを自分事として!自覚しないと言う事だという事!

>マサに体感が大事だと言う事!それはある意味未だヒトには生け贄が必要なのか?と思うのです。
>アノ大戦と言う生け贄、故のこの現在だと!


言わばこの事が、唯一の思い違い、予想外だったかなと、、、、

ココも意味不明でしょうか?

長くなりますがお許し下さい。

掲載を感謝します。

投稿: popi | 2009/09/14 00:55

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